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十人十色  作者:
3/8

無力な桃色

幸せってなんだろう。


どうせ一丁前に〝幸せ〟って言ったって、その価値観は僕だけので、僕が思った〝幸せ〟が〝幸せ〟なんだから、答えは人それぞれになってしまうんだろう。

でもそんなことを言ったって、訊かずにはいられない。

何不自由なく裕福に暮らせる生活?

一緒に笑っていられる都合のいい友達?

それとも―――・・なんだろう。


僕は、アホらしいくらい典型的な幸せしか浮かばない自分が、恥ずかしくてならなかった。



「なぁなぁ、新しく発売した『YUMA』のゲーム持ってる人いねぇ?」

海ヶ丘小学校、五年二組の教室。一見見れば普通の他愛無い会話だ。

だけど、同じクラスメートの子が聞けば、その言葉は恐ろしくて堪らない呪いの言葉だった。

しんと静まった教室で、一人の男子が手を上げた。

気弱そうな、小柄な男子。


「僕・・・持ってる・・・」

「んじゃ、明日〝貸して〟」

「え・・・」

「なッ?」

「・・・・うん・・・」


半ば強制的に頷かせたのは、このクラスの中心でリーダー気取りをするマサト。

そして、その脅迫紛いな言葉で頷かされたのは、このクラスで一番目立たず、今やイジメの標的となってしまったイサムだ。イサムは〝勇〟と書くのだが、名前とは全然似つかないぐらい弱虫なのだ。


五年二組は異常だった。

何が異常って、このクラスの基準をマサトが握っているというところが。

クラスメートの価値も、給食のデザートも、友達関係も。

皆、マサトが支配している。

そんなことは、多分クラスみんな承知の上だろう。でも、皆面倒事に巻き込まれまいと口を閉ざす。

マサトがイサムをはぶき始めた。おかげでイサムは更にクラスから孤立し、マサトは更にイサムを〝下僕〟として扱した。

明らかにこれは、イジメそのもの。ドラマや小説で言う〝悪者〟が行う行為だった。

だからと言って、僕は何をするわけでもなかった。


助けたりしない。


だって、面倒じゃないか。

クラス替えはない。これから卒業までこのクラスで過ごすのだ。

面倒事なんて起こしてたまるか。


「やったぁ」

ゲームを〝貸してもらう〟約束を交わし、無邪気な笑みを浮かべて喜ぶマサトに、「次貸してくれよ」と笑う取り巻きの男子。

そのやり取りを知りながら、何の口も出さない女子に、もう返ってこないだろう新発売のゲームのことを思って泣きべそをかくイサム。

ああ、異常だ。

今日もこのクラスは、馬鹿みたいに歪んでいる。


「――――なぁ、(みやび)

「え?」

ふと僕に愛想よく笑いかけるマサトに、僕は素っ頓狂な声を上げた。

マサトはケラケラと笑うと「なんだよ、聞こえてなかったのか?」と言った。僕が頷くと、マサトは僕の肩に手を置いて「お前、ホントおもしれぇよなぁ」と呟いた。

「どこが?」

「なんて言うか、現実離れしてる気ぃする」

だってお前らとは違うし、なんて言えるわけも無く、僕は適当に笑って流しておいた。

「お前とは、ずっといいダチでいそうだよ」

「そう?」

「それに比べて、イサムは弱虫だし、すぐ泣くし、男として気持ち悪いよな」

「へぇ」

「ま、いいパシリだからいいけどよ」

それを聞いてマサトの取り巻きの男子が声を上げて笑った。

なんか、ゴロツキ集団の下品な笑い声みたいだ。なんて思いながら僕も笑っておいた。



学校帰り、いつもとは違う道を通った。でもそれはただの思い付きであって、他意はなかった。偶然か、それとも必然か。僕は怖い怖いお兄さんたちに会った。


まだ明るい時間帯だって言うのに薄暗い、路地裏で誰かが殴り合っている。

多分高校生の、男五人。その中の一人が、後の四人と対峙しているようだった。罵声やドゴッという鈍い音が、路地裏に嫌というほど響いている。

勝ち目なんか無いだろう、なんてぼんやりと思いながらその様子を陰で見ていると、やがて男四人は気が済んだのか帰ってしまった。ボロボロになって地面に突っ伏す男一人を残して。

案の定、一人で闘った男が負けた。

クラスと同じ、イサムと同じように。

何にもできない。


―――・・殴り合いって殴ってる方も痛い筈なのに、なんで好んで喧嘩するのかな。

「大丈夫ですか?」

とりあえず、声をかけてみる。けど、返事が返ってこない。死んだのかと思って少し後ずさると「大丈夫ですかー?」と声の音量を上げて再び声をかける。

すると、ピクリと男子高校生の指が動いた。

「あ・・・?誰だよ」

「通りかかった者ですが」

小学生(ガキ)か」

「ガキじゃないです、僕は周りとは違うし」

僕はあの歪んだ五年二組のクラスを思い浮かべた。

あんな奴らと違って、干渉もしなければ波風も立てない。

それが、大人の対応だから。

男はゆっくりと体を起こし、近くにあった壁に寄りかかった。

よく見たら、ピアスホール開けまくりだし、金髪だし、目つき悪いし。

声かけなきゃよかったかもしれない。まぁ、でも自己紹介だけはしとこうと思い「僕、雅っていいます」というと男は「(あさひ)・・・」と素っ気なく呟いた。どうやら名前のようだ。


「周りとは違うって、どう言うことだよ」

「そのまんまの意味ですよ」

僕は周りと違う。そう吐き捨てるように言うと、ストンと地面に腰を下ろした。旭が首を傾げるのを見て、話さないと暴力で吐かされそうな雰囲気だったから、仕方なく話した。目つきが悪いって怖い。


イサムとマサト、周りで噂をする女子、媚びへつらう男子、何も知らない大人たち、そしてその間を器用に避けながら生活する僕のこと。

「皆馬鹿だよ。マサトだって、友達とか言ってるけど、僕が逆らったら容赦なくはぶくんじゃないかな?だってそれくらい、イサムのときもあっさりだったもん。周りの男子も、それが怖くてヘラヘラしてるし、女子は女子で好き勝手裏で言ってるけど行動には移さないんだ。綺麗事ばっかり並べるだけ並べて、表では笑ってる」

そんな奴らと、一緒にはなりたくないよ。いつの間にか力説する僕に、旭は眉を潜めながら目を細めた。

その動作は、僕を睨んでいるように見えた。

睨んでる?

まるで、馬鹿な奴を見るような哀れみの―――・・そして、汚い奴を見るような蔑みの視線。

何故?と首を傾げていると、旭は言った。


「お前みたいな奴が、〝口先だけの弱虫〟って言うんだよな」


「・・・え?」

突然の言葉に、僕は驚いた。旭は壁に体重を預け、まるで嘲笑うかのように笑っていた。

僕は声を漏らした。その声は震えていて、旭の態度の急変に動揺しているようだった。


「お前、馬鹿だろ。馬鹿みてぇな現実逃避しやがってよ。気付いてねェようだから教えてやる。お前のその言葉、大人(こっち)から聞いてればただの言い訳で、見てて滑稽なんだよ」

「なッ・・・」

「ま、俺もまだ高校生だ。大人でもなんでもねェ、微妙な歳だけどな。俺は、お前みたいに自分の馬鹿さ加減に目を向けず、周りを見下した気になっているガキが大嫌いなんだよ」


旭はそれだけ吐き捨てると、壁に手を添えながら立ち上がる。

傷が癒えてないのに、無理矢理歩こうとするなんて馬鹿だと思ったが、今の僕は旭に声をかけることさえ拒絶されているようで――――・・出かかった言葉は出てこなかった。

「一個、訊いとくがよ」

「・・・」


「お前、幸せか?」


「え・・・」

唐突な質問に、目を見開く。旭は僕に背を向け、こちらを見ずに続けた。

「卑屈的になって、何もかもを見下して、優越感に満たされて。お前は本当にそれで、幸せなのか?」

「・・・」

頷けなかった。マサトといても楽しくない、そんなことは前々から気付いていた。でも、そんなことは気のせいだと自分の考えに背を向けてきた。それを肯定したくなかった。

「イサムとやらは、学校に来ているんだろう?」

確かにイサムは学校に来ていた。こんな状況でよく学校に来るよな、とも思ったが、関係無いと目を逸らしていた。

でも、ゆっくり考えれば気付いた筈だ。


イサムは一度だって、学校を休んでいない――――・・マサトから逃げてなんていない。


「悲しい奴だよな、お前。自分の無力さに気付けないなんてよ。話を聞いてる限り、お前よりもイサムって奴の方が強いわ」

旭はそれだけ言うと、おぼつく足を前に出して去ってしまった。僕はその背中をぼんやりと見つめ、そのまま暫く座り込んでいた。

もやもやした変な感じと、貶された苛立ちを胸に。



「ああ、もう。なんなんだよ、この世界。見渡す限り色しか無いじゃん。まったく、もう六人もスカウトしたって言うのに、皆白には毒みたいにきついし・・・」

独りごとにしては大音量だけど、誰かに話しているにしては返事の余地を与えない。


誰だろう、なんて思いながら辺りを見回すと――――・・

「ああ、キミ。なんにも無い世界って興味ある?」

半ば投げやりになったような声のかけ方に、少しだけ眉を潜める。

誰?

薄暗い路地から差しこむ光を遮るその人物は、どうやら僕に話しかけているらしい。僕の方を向いている。逆光で、姿が見えない。

でも、声からして男だ。

「キミだよキミ。行き当たりばったりだから、名前調べてないや。ええと・・・」

「雅」

「こりゃまた随分と可愛らしいお名前で」


僕は逆光で見えない相手にも関わらず、足でその男を蹴り飛ばした。足は蹴飛ばした感触があり、耳はドゴッという鈍い音を拾った。

生憎今、虫の居所が悪かった。

僕は旭の言葉を思い浮かべると、思いっきり眉を潜めた。

なんだよ、僕が悲しい奴だって?

違う、悲しいのはイサムだ。僕は、それを見ている傍観者であって、周りとは違う特別な奴なんだ。お前に何が分かる。卒業まで気まずい生活を送るのは、面倒くさいんだ。

面倒くさい。

面倒?


「いったいなぁ、いきなり蹴るなんて横暴すぎ。だからガキは嫌なんだ」

「僕はガキじゃない」

少し、男の態度が変わった。蹴ったから、怒っているのだろうか。

大人げない、別に強く蹴ったわけじゃないんだから、いいだろ?

僕はイライラした感情を抑え、男を睨んだ。

「は?自分の姿、鏡で見てみろよ」

男は頭を掻くと、少しだけ声を低くする。

微かに乱暴になった言葉づかい。相手も気が立っているのか、苛々しているようだ。


「小さな細っこい体格で何言ってんだよ、ガキ」

吐き捨てるような言葉に、冷水を頭からかけられた気がした。

「大人をあんまナメんじゃねぇぞ。お前みたいなガキが、大人と喧嘩でもしてみな。捻り潰されて終わりだわ。そんな弱々しいお前が自称大人ってか。そりゃこっちから見れば笑える話だわな」

「うるさい・・・」

「ガキじゃないガキじゃないって言ってるお前は、ただ単に逃げてるだけじゃねぇの?腹立つんだよなぁ・・・そういう自分は特別だからっていう勘違いしてる奴見てるの。まぁ、体格が細くたって怪力っていう〝例外〟もいるみたいだけど。とりあえず、お前みたいなガキが一番嫌いだ」

「うるさいッ」

「黙らねぇよ?先に喧嘩吹っ掛けたのはお前だ。〝大人の世界〟じゃあ、辛くなったから逃げるっていうことは通じないんだよ」

「うるさいうるさいうるさいッッ!!」

「うるせぇのはこっちだ、糞餓鬼ッッ!!」

淡々と言葉を並べていた男が、初めて声を荒げる。

怒りで熱くなって顔を真っ赤にした僕の顔を、男は憎々しげにこちらを睨んだ。

そう言えば、太陽が雲に隠れたからか、逆光がなくなった。


男は白かった。


白髪とはまた別のような気がする、真っ白な雪のような髪に、睫毛や眉毛も白く染まり、瞳はグレー。肌も女の人並みに白い。顔だけかと思ったら、服まで真っ白だ。

どこぞの外人かと思った。

「おい、これ以上お前のその不快な口、閉じねぇとぶっ殺すよ」

一番最初の穏やかな口調が嘘のようだ。

真っ白な男は、それだけ吐き捨てると僕を一瞥した。そのときチラリと花びらが僕の目の前を過ぎった。僕はそれを目で追い、やがて地面に落ちた花びらを指で摘む。

「花びらの桃色、今のキミにピッタリだね」

男の口調は戻っていた。

「無力で馬鹿で、ガキすぎる。まさに、無力で他力本願な桃色さ。よく喚くクセに、そればっかりだ。キミは一度だって、その口から出たことを行動に移したことはあったかい?」

――――・・お前みたいな奴が、〝口先だけの弱虫〟って言うんだよな。

さっき旭が言った言葉。冷静さが欠けていて、その言葉の意味を理解していなかった。

考える。

考えてみる。


僕は、何もしていない。

ヘラヘラ笑ってる。

イサムを見下し、マサトを見下し。

周りを見下し。

自分は大人だと大腕振って。

自分は何をした?

利口だと決めつけて、波風を立てない。

それが本当に利口だった?


もしかして。

もしかして僕は―――・・


とんでもない勘違いを、していたのだろうか。


「あの・・・」

窺うように声をかけた。

「ん?」

男は先ほどよりも冷静になったようで、もう苛立ちは感じられなかった。僕はそのことに微かに安堵の息を零し、それから思いっきり頭を下げた。

「さっき、苛々してて蹴っちゃって・・・ごめんなさい」

「・・・」

男は黙り込んだ。

僕の真意を見定めているようだ。僕は頭を上げると、真っ直ぐグレーの瞳を見つめた。

不思議な人だけど、この男の人は一体何者なんだろうか。普通の人間ではないような気がする。真っ白なことを抜きにしても、纏っている雰囲気が普通と違うような・・・。

「指摘、されて」

「?」

勘ぐりながらも、口を開く。

「似たようなこと、さっきも旭っていう人に指摘されて」

「旭?」

「図星指されて、カッとなって」

「ちょっと待って、旭って」

金髪の?と尋ねる男の人は、少しだけ嫌そうな、拒絶するような顔を浮かべる。僕は旭の顔を浮かべて「そう、ですね」と頷くと、男は「・・・そう」と黙り込んでしまった。

僕はカッとなって握り締めてしまっていた桃色の花びらを、そっと地面に置く。

男は居た堪れないような表情を浮かべると、ワシャ、と真っ白な自分の髪を少し乱した。

「まぁ、今回僕も苛々してて。なんせ、旭くん含め六人誘ったのに、いずれも僕みたいな白い世界に毒の色ってどういう悲劇だよ・・・」

「どう言う意味ですか?」

「そうだ、キミ何にも無い世界って興味ある?」

「いえ」

ありませんよ、と僕は笑う。

「僕は、やっぱりここがいいです」

何を、本気で答えているのだろう。何にも無い世界なんて在る筈が無いのに、何故か僕は冗談として受け取らなかった。真剣に、そう言って笑うと、男は眉を下げて「また振られた」と落ち込んだ。

「ま、キミも立派な桃色だもんね。僕の白色が侵されちゃうから、いいか」

「?」

「ああ、こっちの話」

男は苦笑すると、ヒラリと手を振った。

「僕は(おぼろ)。変な名前でしょ、親しみをこめて〝ロウ〟って呼んでくれればいいよ。まぁ、もう会うことも無いだろうけどね」

真っ白な男、朧の言葉は、冗談に聞こえなかった。それは、多分朧の姿が現実離れしていたからだと思う。だから、もう会えない、そう思うことも納得してしまったのだ。


「じゃあ、雅くん」

もう会うことも無いだろうけど、もし会ったら今度は大人になってるといいね。


意味深い言葉を残し、苦笑気味に少し目を逸らしたら―――・・もう朧はいなくなっていた。

なんか、不思議な気持ちだ。



「イサム、ゲーム貸せよ」

次の日、イサムは予想通りマサトたちに囲まれていた。一人対男子って言うのは、すごく怖いだろう。

それでも、イサムはずっと学校に来ていた。


気付かなかったのは、僕だ。

イサムは〝勇〟って書くけど、似合わないよな。そんなことをずっと思っていた。


泣き虫で、気が弱くて、マサトにずっとずっと言いなりで。

そして、そんな姿を傍観者として見ていた僕がいて。

ああ、みっともない。

みっともなかったな。

旭と朧に会って、気付いた。

ホントは、もっと昔に気付いていたのかもしれない。

でも、気付かない振りをしていたのかもしれない。

自覚した。


僕は弱かった。


「ねぇ、マサト」

今まで干渉しなかった僕。そんな僕が、イサムとマサトの間に捻じ込むように入り、初めてマサトと対峙した。真っ直ぐとマサトの瞳を見つめる僕に、マサトは少し後退して「なんだよ」と言う。初めてのことに、少し怖気づいているのだろう。

「もう、やめよ」

僕の言葉に「はぁ?」と声を上げる周り。「なんだよ」「どうしたんだよ、ミヤビ」と声を荒げる男子に、僕は目を細めた。

「外野は黙ってろよ」

凄みを利かせて周りを一瞥すると、周りは一瞬にして静まった。

朧の真似だ。

朧の迫力には勝てないけど、それなりに声を低くして睨んでみせた。

マサトは黙っている。

僕は続けた。

「マサト、このクラスはマサトのモノ?」

「え・・・」

「クラスメートは、マサトの人形?」

「・・・」

「僕たちは、都合のいい友達?」

「ちがッ・・・」

「じゃあ、なんでイサムをはぶいた?」

反論の余地を与えさせない。

これも朧の真似だ。

周りはしんと静まり、それから互いに顔を見合わせる。気まずい空気が張り巡らされる。が、僕は気にせずにマサトを見つめた。

「イサムだって、前は仲良かったよね」

「・・・」

「でも、ある日イサムがマサトを叱った。授業中うるさいって、そう言ったよね。マサトがふざけてて、先生が怒っても気にしなくて。そのとき僕も隣にいたから覚えてるよ」

「・・・」

「その日からだよね、何故か周りがみんなイサムに余所余所しくなって。イサムは孤立して、そのままマサトのパシリになり下がった。そりゃ怖いだろうね、クラス全体が敵となっちゃ、もう反論はできない。僕も反論したら、イサムと同じになっちゃうのかなぁ」

わざとらしく言ってみれば、マサトは必死に弁解するように「そんなことッ・・・」と続けようとする。その言葉に更に言葉を被せた。

「あるわけない?わかんないよ、だってイサムが現になってるじゃん」

これにはマサトも黙りこくった。

僕は、ああ、やっちゃったななんて思いながら、深く深くため息をつくと周りを見渡した。

「ま、僕も僕で、ずぅーっと知らんぷりしてたけどね」

吐き捨てるように言うと、マサトは力無く座り込みサァッと顔が青ざめさせる。


すると、周りからマサトの批判の声が聞こえた。

「酷いよ」「友達はぶくとか、友達じゃ無いじゃん」「パシリにするなんて」「皆言いなりだったもんね」「怖かったんだもん」「マサト偉そうだったよね」「私前から嫌いだった」「俺だって」「悪いとは思ってたんだよ」「でもマサトが命令って」「最悪だわ」

クラスの批判がマサトに追い打ちをかける。更には、取り巻きの男子でさえ「酷い」と言っていた。

虫唾が走る。

他人事か。

お前らみんな。

マサトのせいでこんな状況にしたって、言い訳をして。

見苦しい。

見苦しすぎる。

・・・もしかして、旭や朧から見たら、僕はこんなんだったのかな。

すごく。

すごく、恥ずかしい。

眉を潜めた僕は周りを見回し、それから足を上げる。


――――・・そして、一つの机を思い切り蹴っ飛ばした。


ガターンッッ!!

派手な破壊音に周りは静まった。

僕は思いっきり顔をしかめると「ウザい」と一言吐き捨てた。周りは、訳がわからないとでもいうような表情で僕を見つめる。

僕は息を吸って、吐いた。


「――――――・・お前らが言えた(たち)かよッ!!」


いつも声を張らない僕だから、僕の叫び声には皆が驚いた。だが、僕は続けた。

「マサトを責める前に、自分を責めてくれないかな。気持ち悪いよ、マジで。イサムをはぶいたのは自分じゃない、関係無い。そんな無責任なこと図々しく思ってるのかね、このクラスは」

マサトやイサムがこっちを見た。


なんで、こんなに僕は一生懸命なんだろう。

面倒くさいんだよね。

面倒くさかったんでしょ?

だから、避けてたんだよね。

なのに、自分から波風を立てて。

馬鹿みたい。

馬鹿みたいだよ。


――――・・でも。

「ごめん、イサム」

僕は変わってしまったんだ。

二人の人間に会って、変わっちゃった。

災難だよ、だってこのままでいれば楽だったのに。

でもそれは言い訳だって気付いたから。

それがみっともないって気付いたから。


僕は、少し闘ってみようと思った。





次の日、気まずくなると思っていた教室は空気が軽かった。

僕は変わっていた。二人の人間によって。


馬鹿なことから逃げていた自分はもう終わり。

数日経ち、僕が怒鳴ったことはある変化を遂げていた。


「イサム、ゲーム一緒にやろう」

「・・・うん!ミヤビも一緒にやろう」

「あ、うん」

他愛のない会話。

イサムはマサトや僕のことを許し、尚友達でいてほしいと言った。

強い。

素直にそう思った。

イサムとマサトと僕。

三人で笑い合っているその日々は、もしかしたらすごく楽しいのかもしれない。

案外、面倒くさいことをやり遂げれば、楽しくなる。

そんなことを教訓に、僕は笑った。


今、幸せ?

幸せだよ。

本当の友達を、見つけたから。





無力な桃色。



無性にありがとう、って言いたくなった。


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