明けぬ夜を鳴く
飛び飛び回れ、遊び、遊べよさて廻れ。
跳ねる足についてゆくからだと手の振りに揺れる雪洞弾む雨。灯は消えうせて暗い雪洞明かりはいずこ。
弾む足は止まることなく憂うことなく雨を返して手のひらは地を写す。提灯のような火のない雪洞花ひらは象られ花ひらはほころび花ひらは花ひらへと花ひらへと。
降り降るひとつの円たちはほそりとさいごにひとつ述べ、それを最後とひとつに消えゆく。藁に落ち瓦に落ち布に落ち地に落ち水に落つる合間は果てのなく短さをたたえているように。空を見上げることの叶わない案山子が雨に泣く。
文鳥は少女の名を呼び続け漆の籠から飛び立つ術を知らず朱を引いた眦に感情を灯し。跳ねる雪洞は変わらず暗いを吸い込み続ける。文鳥は少女の名を鳴き続ける。
足を地に着け止め振り返る雪洞がくると向き手はすらと回り。ひとつ述べひとつ述べ、ゆく円のなか振り返り振り向いて。雫よりも暗い瞳にどこから入り込む光源のひかりをひとつひとつ映し、少女。
瞬くことはなく手に持つ雪洞を高く高いへ上げた。
ひとつひとつほそりとさいごをひとつ述べ落ちていた雨が雨が、ひとつひとつふうりとさいごを讃えるものに変わり落ち降り始める。
白を象ったふうりと落ちる落ちる雪は藁に落ち瓦に落ち布に落ち地に落ち水に落つる合間は数瞬の悟りと夢の間を行き来する。空を見上げることはない案山子が泣いている。
消え失せて暗い雪洞明かりは灯らず。止まりを得た足は再び持ち上げられる雪洞が揺れる手が揺れる。
飛び飛び回れ、遊び、遊べよさへ廻れ。
跳ねる足についてゆくからだと手の振りに揺れる雪洞狂う雪。灯は灯らずに黒の雪洞朱色はいずこ。
弾む足は止まることなく悲しみを詰め込んだ雪を振りほどいて手のひらは握られることなく。花ひらを描いた雪洞に花ひらは花ひらは、散ることなく咲くことなく綻びることなく蕾むことなく。花ひら、花ひら。
文鳥は朱色の漆の中で鳴いている。外へ出ることを知らず外を出ることを知らず外と出ることを知らず。
雪洞は弾み舞い上がる風に落ちることを許されなかった雪は浮かぶ。落ちるときはまだだと細やかな結晶。
案山子は一本の足で立ち続け、見る者のない乾いた田んぼで泣いていた。
文鳥は鳴く。
「千夜、千夜」と。