目隠し〈前編〉
さまよう人よ、何を迷う
道は一本しかないだろう?
何故手探りで進むのだ
真っ直ぐに…ふらつくな
前を見ろ
光が見えるだろう?
「…何だこりゃ」
家に帰って机を見れば紙切れが1枚。
俺の家族に、こんなことする奴、いたっけ?
「お前は神か」
はぁ、とため息をつき、紙の上に鞄をドサ、と置いた。
何が言いたいのか、さっぱり分からない。
こういうのは見なかったことにするに限る。
俺は見なかった。
この紙切れを見なかった。
俺は中学3年生の城崎千晴。
成績普通、運動普通。
特に何も突出していない、平凡な中学生。
いつもいつも、学校に通って、友達と笑い、楽しんでるような中学生。
笑い、楽しんでいるような中学生。
ような。
あくまでそれは建前の自分。
グループも、クラスで一番強いところにいて。
教師の悪口、いじめられている男子への暴言…。
つまらないことで笑い、ふざけ合いを楽しんでいるように見せている。
そいつらに嫌われると、やばいから。
そこにいないと、心配で心配で。
結構こういう風に思ってる奴っていると思うけど、俺もその1人で。
本当はしたくないことばかりを、強制させられて生きている。
これが俺。
* * *
夕食も食べ終わり、風呂にも入った。
牛乳も飲んで、歯磨きもした。
見たいドラマも、もう見終わったし、後は寝るだけ。
…間違い、明日の準備が終われば寝るだけ。
「あーぁ、明日古典あんのかよ…」
ぐしゃぐしゃと、まだ乾き切れていない髪をかく。
「予習しねぇと」
椅子を引き、机に無造作に置かれた鞄をどける。
「………」
どかしたそこには、紙切れ。
そういやこの鞄、無造作に置いたんじゃなかったっけ。
意図的に…この紙切れを隠すために置いたんだっけ。
本当に、見なかったことになってたよ…。
「はぁ」
鞄を床に落とし、椅子に座って紙を再度見る。
「見なかったことにしたけど…」
捨てなかったのは、きっと、また見たかったから。
ちゃんと、内容を考えたかったから。
この紙に書かれた言葉は、なんだか、とても重要な言葉のような気がする。
誰が置いたか分からねぇけど、切に、何か訴えているような、そんな気が。
俺はその紙に書かれた言葉を声に出して読んでみた。
「さまよう人よ、何を迷う。
道は一本しかないだろう?
何故手探りで進むのだ。
真っ直ぐに…ふらつくな。
前を見ろ。
光が見えるだろう?…か」
紙を、何度も何度も黙読する。
何だか分からないけど、俺の机にあったってことは、俺に言ってるってことで…。
つまり、俺に指摘しているってことか?
「もういいや」
結局俺にはその紙の意図することが分からず、丸めてゴミ箱に投げ入れた。
そして、俺は古典の予習をし始めた。
さまよう人よ、何を迷う
道は一本しかないだろう?
何故手探りで進むのだ
真っ直ぐに…ふらつくな
前を見ろ
光が見えるだろう?
*
「う…」
無重力。
周りは真っ白で、自分がここ寝ているのが、本当に不思議。
「…夢」
ここは夢だ。
夢を自覚できるって、初めての体験。
『目覚めたか、人間』
「!?」
俺は後ろを振り返る。
そこにいたのは、俺と同じ背丈ぐらいの何か。
白い布で全身すっぽり覆われていて、何なのか分からないが、これが声の主。
俺は訝りながら、そいつに声をかけた。
「お前…何?」
『すまんがそれは、今は言えぬ。
ただ、お前に見せたいものがある』
自分勝手な白い布。
白い布は手らしきものを出し、空間を引っ張った。
そこに現れたのは、ここと対照的な黒い空間。
中には、やっぱりそいつと同じような白い布の生物。
『これは、お前達多くの人間が歩いている場所だ』
「これが?
ただ、暗いだけの空間が?」
『そうだ』
白い布はこくりと頷く。
『そして、これがお前だ』
そいつは黒い空間の白い布をはぎ取る。
そこにいるのは…。
「俺…!?」
まぎれもなく、俺と同じ顔かたちをした…『俺』。
『進め』
白い布は、『俺』に命令する。
俺はその光景を見て愕然とした。
『俺』は確かに進み出した。
しかし。
「…なんだよこれ…」
『俺』はきょろきょろ辺りを見回して、おどおどして、足下を確認して歩く。
前に手を出して手探りしながら。
おぼつかない足で、ふらふら倒れそうになりながら、進む。
『これがお前の本当の姿だ』
白い布は続ける。
『お前には見えるか?
お前が歩いている道が。
お前の道が』
俺は『俺』の足元を見る。
「見えない…いや、ない?
…道が、ない?」
『俺』の歩いているところに道はなかった。
道がどんなものか分からなかったが、直感的に、道と呼ばれるものがそこにないのが分かった。
『分かるか。
お前の道はあれだ』
白い布が、指らしきもので、『俺』の右隣を差す。
「あ…」
確かに、そこには俺が見ても分かるような、道があった。
周りがそこだけほんのり明るくて、温かみさえ持っていそうな、そんな道。
「…かなり逸れてるじゃ…ないか」
『俺』は自分の道の5メートルぐらい離れたところをおどおど歩いていた。
『お前の道はそこなのだよ。
道は1本しかない。
しかし。
お前は道なき道を歩んでいる。
足下に道はない。
お前が歩いているのは闇だ』
「闇…」
ごくり、とつばを飲む。
『俺』が歩いている所は闇。
道から逸れて、歩いている場所は闇…。
俺は白い布に尋ねる。
「闇…って歩けるのか?」
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変なところで切ってすみません(汗
前編・後編です。
なんだかよくわからないかもしれませんが、
お付き合いくださいw