表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

目隠し〈前編〉

作者: エルル



さまよう人よ、何を迷う

道は一本しかないだろう?

何故手探りで進むのだ

真っ直ぐに…ふらつくな

前を見ろ

光が見えるだろう?





「…何だこりゃ」


家に帰って机を見れば紙切れが1枚。

俺の家族に、こんなことする奴、いたっけ?


「お前は神か」


はぁ、とため息をつき、紙の上に鞄をドサ、と置いた。

何が言いたいのか、さっぱり分からない。

こういうのは見なかったことにするに限る。

俺は見なかった。

この紙切れを見なかった。


俺は中学3年生の城崎千晴。

成績普通、運動普通。

特に何も突出していない、平凡な中学生。

いつもいつも、学校に通って、友達と笑い、楽しんでるような中学生。

笑い、楽しんでいるような中学生。

ような。

あくまでそれは建前の自分。

グループも、クラスで一番強いところにいて。

教師の悪口、いじめられている男子への暴言…。

つまらないことで笑い、ふざけ合いを楽しんでいるように見せている。

そいつらに嫌われると、やばいから。

そこにいないと、心配で心配で。

結構こういう風に思ってる奴っていると思うけど、俺もその1人で。

本当はしたくないことばかりを、強制させられて生きている。


これが俺。



*    *    *


夕食も食べ終わり、風呂にも入った。

牛乳も飲んで、歯磨きもした。

見たいドラマも、もう見終わったし、後は寝るだけ。

…間違い、明日の準備が終われば寝るだけ。


「あーぁ、明日古典あんのかよ…」


ぐしゃぐしゃと、まだ乾き切れていない髪をかく。


「予習しねぇと」


椅子を引き、机に無造作に置かれた鞄をどける。


「………」


どかしたそこには、紙切れ。

そういやこの鞄、無造作に置いたんじゃなかったっけ。

意図的に…この紙切れを隠すために置いたんだっけ。

本当に、見なかったことになってたよ…。


「はぁ」


鞄を床に落とし、椅子に座って紙を再度見る。


「見なかったことにしたけど…」



捨てなかったのは、きっと、また見たかったから。


ちゃんと、内容を考えたかったから。


この紙に書かれた言葉は、なんだか、とても重要な言葉のような気がする。

誰が置いたか分からねぇけど、切に、何か訴えているような、そんな気が。


俺はその紙に書かれた言葉を声に出して読んでみた。


「さまよう人よ、何を迷う。

道は一本しかないだろう?

何故手探りで進むのだ。

真っ直ぐに…ふらつくな。

前を見ろ。

光が見えるだろう?…か」


紙を、何度も何度も黙読する。

何だか分からないけど、俺の机にあったってことは、俺に言ってるってことで…。


つまり、俺に指摘しているってことか?



「もういいや」


結局俺にはその紙の意図することが分からず、丸めてゴミ箱に投げ入れた。

そして、俺は古典の予習をし始めた。



さまよう人よ、何を迷う


道は一本しかないだろう?


何故手探りで進むのだ


真っ直ぐに…ふらつくな


前を見ろ


光が見えるだろう?


    *



「う…」


無重力。

周りは真っ白で、自分がここ寝ているのが、本当に不思議。


「…夢」


ここは夢だ。

夢を自覚できるって、初めての体験。


『目覚めたか、人間』

「!?」


俺は後ろを振り返る。

そこにいたのは、俺と同じ背丈ぐらいの何か。


白い布で全身すっぽり覆われていて、何なのか分からないが、これが声の主。

俺は訝りながら、そいつに声をかけた。


「お前…何?」

『すまんがそれは、今は言えぬ。

ただ、お前に見せたいものがある』


自分勝手な白い布。

白い布は手らしきものを出し、空間を引っ張った。

そこに現れたのは、ここと対照的な黒い空間。

中には、やっぱりそいつと同じような白い布の生物。


『これは、お前達多くの人間が歩いている場所だ』

「これが?

ただ、暗いだけの空間が?」

『そうだ』


白い布はこくりと頷く。


『そして、これがお前だ』


そいつは黒い空間の白い布をはぎ取る。

そこにいるのは…。


「俺…!?」


まぎれもなく、俺と同じ顔かたちをした…『俺』。


『進め』


白い布は、『俺』に命令する。

俺はその光景を見て愕然とした。

『俺』は確かに進み出した。

しかし。


「…なんだよこれ…」


『俺』はきょろきょろ辺りを見回して、おどおどして、足下を確認して歩く。

前に手を出して手探りしながら。

おぼつかない足で、ふらふら倒れそうになりながら、進む。


『これがお前の本当の姿だ』


白い布は続ける。


『お前には見えるか?

お前が歩いている道が。

お前の道が』


俺は『俺』の足元を見る。


「見えない…いや、ない?

…道が、ない?」


『俺』の歩いているところに道はなかった。

道がどんなものか分からなかったが、直感的に、道と呼ばれるものがそこにないのが分かった。


『分かるか。

お前の道はあれだ』


白い布が、指らしきもので、『俺』の右隣を差す。


「あ…」


確かに、そこには俺が見ても分かるような、道があった。

周りがそこだけほんのり明るくて、温かみさえ持っていそうな、そんな道。


「…かなり逸れてるじゃ…ないか」


『俺』は自分の道の5メートルぐらい離れたところをおどおど歩いていた。


『お前の道はそこなのだよ。

道は1本しかない。

しかし。

お前は道なき道を歩んでいる。

足下に道はない。

お前が歩いているのは闇だ』

「闇…」


ごくり、とつばを飲む。

『俺』が歩いている所は闇。

道から逸れて、歩いている場所は闇…。

俺は白い布に尋ねる。


「闇…って歩けるのか?」






=================

変なところで切ってすみません(汗

前編・後編です。

なんだかよくわからないかもしれませんが、

お付き合いくださいw


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ