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短編

ノープラントラベル

作者: 夙多史

 この物語は卒業旅行で九州を旅する大学生四人の様子を淡々と描くノンフィクションです。過度な期待はしないでください。また、短編となっていますが普通に長いです(ホントは分割した方がよかったんだけど)。

                ~準備期間~


【卒業旅行しようや】


 大学の卒業研究発表会を終えて二日目の夜、友人からそんな内容のメールが届いた。

【メンツは?】

 と私はメールを返す。

【いつものメンバー】

 すぐにそう返ってきた。やっぱりか、と私は思った。

それにしても私たちが卒業旅行なんて青春をやるなんて考えてもいなかった。基本的に『いつものメンバー』に含まれる四人は、どっか遠くに遊びに行ったりはもちろん、飲み会すらやらない面子なのだ。

 だからこそ、卒業旅行くらいはやって思い出を作っておこうという話なのだろう。

【いいけど、どこに行くん?】

【まだ決まってない。とりあえず沖縄か北海道行くんやったら飛行機が十日前までに予約せんとおえんから、今日くらいやないとあかんけど、どうします? あと予算とかも決めてないからなんとも言えんけど、実際どのくらいまでとかってある?】

 エセ関西弁のような独特な言葉遣いで返信してくる友人。突然言われても答えが出るはずがない。

【とりあえず、これからヨッシーんとこに遊びに行くから、そんときに相談して決めよう】

【了解】


 十分後、近くのコンビニで卒業旅行をしようと言い出した友人(以下、発案者ということで『リーダー』と表記する)と合流した。そして適当な買い物をしてから、我々は大学・・へと向かった。

 なぜ大学か? 理由は簡単だ。これから遊ぶ予定になっている友人は、卒研発表が終わっているにも関わらず研究室に入り浸っているからだ。ていうか住んでいる。最近では研究室を『家』と呼び、借りているアパートを『物置』と呼んでいるほどだ。


 私たちが研究室のドアを開けると、そこでは数人の学生がトレーディングカードゲームに興じていた。うん、いつもの光景だ。

 彼らは研究室の学生ではない。一人隅のパソコンを起動し、ネットでカードのことを調べているデュエリスト――我々がこれから旅行の相談をする友人の後輩たちである。

「やあ」

 回転椅子を回し、とても軽快な口調で挨拶する友人。あだ名はヨッシー。某ヒゲの配管工を背に乗せる緑色の恐竜を彷彿とさせるが関係性はない。

「旅行どこ行く?」

 と開口一番に訊きたかったが、とてもそんな雰囲気ではない。遊なんちゃら王をメインにドイツ語で白黒やギャ○やデュ○マなど、多種多様なカードゲームの話で盛り上がっている。ちなみに私は○ャザくらいしかわからない。

 なんかリーダーが隣のパソコンで昔懐かしのゲームをプレイし始めたので、私も最近買ったRPGをすることにした。

 深夜になったところで、ようやく旅行の話を持ち出すことができた。

「どっか行きたいとことかあるん? ていうか、なにしたい?」

 リーダーがそう切り出すと、

「他の地方のカードショップ巡って仲間と出会いたい」

 と根っからのデュエリスト――もといヨッシーが割と真面目な目をして答える。冗談ではなく、彼にとってそれは観光名所を回るよりも興味があることなのだ。私もリーダーもカードゲームを嗜んだことはあるので、あえてその意見は否定しない。

「東京とか大阪は就活で行きまくったから却下な。あと海外は論外」

「わし、春から東京住むから首都圏は嫌だ」

 就職の決まっているリーダーが私に同意する。就職先の決まってない私にはなんて羨ましい言葉。いいさ、そのうち作家になるから!

「イメージしろ、卒業旅行と言えばどこ?」

 テレビ東京系列で朝八時から放送しているカードアニメみたいな口調で、ヨッシーが後輩の一人に質問する。後輩は戸惑った様子で、

「草津、とか?」

 と呟いた。

「おお、温泉! いいね、草津! ……草津ってどこだっけ?」

 ヨッシーの疑問にパッと答えられる者はいなかった。

 たまたま電子辞書を所持していた私が広辞苑で『くさつ』と入力してみる。


『滋賀県南部の市。東海道・中山道の分岐点で宿場町として発達。東海道五十三次の一。人口十万一千』


「滋賀県だそうです。琵琶湖見よう、琵琶湖」

 目的は温泉で場所は草津、そんな感じに決まってこの日は終了した。


 だがその後、温泉で有名な草津は群馬県だと知り、卒業旅行の案は振り出しに戻るのだった。


                ※※※


 別の日。

 私は先日の会議に参加できなかった友人と本屋に行くこととなった。恐らく本人の知らないところで『ダビ』というあだ名がついている友人は、なんでも卒研のせいで買えないでいたマンガや小説をまとめ買いするらしい。

 私は特に買いたい本などはなかったのだが、なにか愛読書の新巻が発売されているかもしれないと期待して彼の誘いを受けたのだ。というか、本屋好きだから買うものなくたって構わない。

「旅行の件、どうする?」

 買い物がてら、私はダビに尋ねてみた。

「……東京がダメなら、やっぱ京都とかどう?」

「京都かぁ。中学の修学旅行で行ったことあるからなぁ」

「……おれもある」

「あるんかい!?」

 じゃあなぜ提案したんだ。『いつものメンバー』の中で彼の思考や行動が一番理解できない。今は行く方向で話は進んでいるが、彼は行けなくなるかもしれない。というのも、大学三年の夏にみんなで海行こうっていう初めての提案をした時、海パンまで買いに行ったのになぜかドタキャンしやがった前科があるからだ。

「……いや、なんかまた行ってもいいかなって」

「まあ、アリではあるけど。中学ん時どこ回ったっけ? 二条城は行った……あー、清水寺は行かなかったな」

「……おれは行った~♪」

 勝ち誇ったように、ダビ。ちょっとウザったく思った瞬間である。

テーマは一応『温泉』ってことになっているけど、京都も候補には入れておこう。



 その夜、再びヨッシー宅(研究室)へ赴き、行ったことないからという理由で九州という案に決定した。

 二泊三日。行先は大分県の別府と、トラベルセンターの人の口車に乗せられて博多ということになった。



                ~一日目~



 二月二十八日 月曜日 午前八時三十分


 天候は雨……なんという絶好の旅行日和だ。そんな素晴らしすぎる天気に嘆きながら私が駅に到着すると、そこには既に『いつものメンバー』が揃っていた。


 マスクを着用し、無難な大きさのバッグを肩に掛けているリーダー(重度の花粉症)。

 巡り合いを諦めず、家宝のTCG(トレーディングカードゲーム)を二箱詰めてきたヨッシー(重度の花粉症)。

 執筆用のノーパソに着替え、その他必要品しか持ってこなかった私(軽度の花粉症)。

 今回はドタキャンすることもなく大小二つのバッグを手にするダビ(鼻炎)。


 体調も万全、天気も良好、と内心で皮肉りながら私が管理していた人数分の切符を皆に手渡す。これから新幹線に乗って福岡県の小倉まで行き、そこから特急に乗り換えて別府へ向かうのだ。

 新幹線の時間は八時四十四分。もうあまり時間はない。私たちは急いで改札をくぐ――


 ――ダビが改札に引っかかった。


「なんしとんアレ!?」

 リーダーはご立腹である。二・三度ほど改札に抜けることを拒絶されたダビは、駅員さんに従ってようやく我々と合流することができた。

 どうしたのかと訊くと、

「……一枚ずつ切符入れてた」

 そりゃあ改札も嫌がるに決まっている。新幹線に乗るには『乗車券』と『新幹線特急券』の二枚の切符が必要で、それらを同時に改札へ入れなければならない。初めて乗るのならばそのミスもわからないでもないが、ダビは就職活動等で幾度となく特急や新幹線を使っているはずだ。なぜミスったし。


 初っ端からいきなりダビが天然ボケをかましてくれたが、新幹線にはどうにか間に合うことができた。

 指定された席へ座り、椅子を回転させて向かい合う形を取る。ダビが「……後ろ向き嫌だから変わって」と訴えるのを華麗にスルーし、私たちは重大な問題点について議論することにした。


「で、別府に着いたらなにする?」


 そう、交通手段や宿泊以外、我々は全くのノープランだった。

 しかも四人全員がこういうことには優柔不断であるため、放置していたら絶対に決まらない。行先がはっきり決定するのにも何日もかかったくらいだ。

 ヨッシーの友人が言っていた。『ノープランはきつい』と。

 そこで私は前日に仕入れた旅行ガイド雑誌を取り出す。隣に座っているリーダーが「貸して」と言いつつ私の手から雑誌を奪い取ってパラパラと捲り始めた。

 それを横目に、今度は別府の観光地を私が適当に調べて印刷した束を取り出す。それを見ながら、いくつかの選択肢を掲示した。


 1.別府と言えば地獄めぐり

 2.近場の水族館

 3.城島の高原パーク

 4.アフリカンなサファリパーク

 5.ホテルで豪遊


 最後のはジョークとして、皆は一様に窓の外を見やる。九州も、雨らしい。

「……サファリはなしだな。雨だから動物いないって」

「まあ、そこは端から却下したい。往復と入園料だけで五千は飛ぶ」

「高原パークってなにがあるん?」

「ほら、ちょっと調べた時にヨッシーが楽しそうって言ってたやつ」

 覚えがないのか首を傾げるヨッシーに、私は車のハンドルを握るジェスチャーをする。

「ゴーカートやん!」

 リーダーの回答にヨッシーは思い出したように笑った。

「やべえ、ゴーカートめっちゃ楽しそう!」

「あんただけや」

 リーダーとダビが微妙と思っていたらしく、高原パークは除外。私は遊園地でもよかったけどね。雨じゃなければ。

「とりあえず、メシなんやけど――」

 リーダーが微妙に論点を変える。そうだった、その辺も考えなければいけない。

 ガイド雑誌のとあるページをリーダーが開き、指差す。

「とり天にしようや」

 珍しくパッと意見が出た。一応他のグルメを見ると、冷麺とお高い豊後牛……季節と貧乏学生の身分を考えればとり天しか選択肢はなかった。

 店は二軒載っているが、私たちは駅に近い方を選んだ。

 さて、昼食が決まったところで問題の『なにをするか』である。

 皆でうんうん悩んでいるうちに、新幹線は九州へ突入する。とそこで――

「せっかく別府に行くんやから温泉めぐりとかしたいな」

「ああ、リーダーが選択肢を増やした……」

 でもせっかく出してくれた意見だ。そこは汲むべきだろう。ズバッと決めてしまわなければ、小倉に着くまでに終わらない。

 誰かが言ってしまえば、反対意見はこない。そんなメンバーである。

「じゃあこうしようか。今日はホテルでも温泉入るから、温泉巡るのは明日にしよう。そんで、今日は地獄めぐり。幸い、微妙に晴れて来たし」

 再び窓の外を見る。灰色の雲の隙間から、僅かに青色の空が覗いていた。


                ※※※


「来たぜ別府!! ビバ☆別府!!」

 目的地に到着するや否や、ヨッシーが周囲の注目を集めない程度に叫んだ。

 私たちは不要な荷物を西口のコインロッカーに仕舞うと、駅の東口の方へと出る。昼食を取る予定の店はそちら側にあるのだ。

「おお、手湯がある」

「流石別府やな」

「ビバ☆別府!!」

「……」

 駅の東口には、こういう場所でよく見かける噴水の代わりに手をつけるためのお湯が湧き出す場所があった。早速手をつけてみる私たち。だが――

「見てアレ、一人だけ一切手湯に興味を示してない奴がいる」

 ダビである。

「どうした? こっち来ればいいじゃん」

 ヨッシーの呼び掛けに彼は反応しない。ただじっとつまらなそうに油屋熊八の像を眺めていた。まあ、興味ないならいいけど。

 ダビの空気を読まない奇行はいつものことなので、私たちは特になにか言うわけでもなくこの付近にあるはずの居酒屋を探す。居酒屋と言っても、とり天定食はランチメニューなので昼間も開いているはずだ。

 実は朝からなにも食べていない私は空腹が絶頂に来ている。とり天……雑誌のイメージ写真を見るだけでヨダレガデマス。


 店、定休日でした。


「もう一軒の方行こう!」

 リーダーの号令に異論を唱える者はいない。


 十分ほど歩いて小さな商店街の中にあるラーメン屋へと辿り着く。そこはちゃんと営業していて安心した。

 昼食のとり天定食に舌鼓を打っている間に、リーダーが携帯でなにかを調べていた。そしてわかったことをヨッシーに告げる。

「こっからちょっと行ったとこにカードショップあるで」

「よし行こう」

 打てば響くように可決され、街を観光がてらやや大回りして駅に戻ることとなった。


 が、見つけたカードショップはどう見てもやってなさそうな寂れた家屋だった。


                ※※※


 忘れてはいけない。

 我々の半数以上が花粉症で苦しんでいることを。


 新幹線内で決めた予定通り、私たちは別府名物の地獄めぐりをすることとなった。

 別府地獄めぐりとは、この地方に存在する様々な奇観を呈する自然湧出の源泉――『地獄』を、徒歩やバスなどで周遊する定番の観光コースのことである。海地獄・鬼石坊主地獄・山地獄・かまど地獄・鬼山地獄・白池地獄・血の池地獄・竜巻地獄の八種類があり、血の池と竜巻以外はほぼ一ヶ所に集中している。そのため、私たちはまず六ヶ所を徒歩で回ることにした。


 ティッシュペーパーの箱片手で。


 ――山地獄――

 受付のおばちゃんに苦笑で見送られて最初の地獄に入った。

 ここには岩山の山裾付近の各所から吹き上げる水蒸気の熱を利用して、動物園ほどではないがカバやフラミンゴなどの動物が飼育されている。ミニ動物園と言ったところだ。ゾウの圧倒的な巨体にリーダーが「うおっ!?」と吃驚していた。

 山に近いためか、花粉症が悪化してリーダーとヨッシーのクシャミが止まらない。


 ――海地獄――

 コバルトブルーとでも言うべき美しい青色の温泉が広がっていた。一見涼しそうな印象を受けるが、その温度は九十八度。カップ麺が作れる。

 温泉卵を食べてもよかったが、昼食後ということでデザート系ならまだしもなにかを食す気にはなれなかった。

 それにしてもティッシュの減りが半端ない。


 ――鬼石坊主地獄――

 セメントのような色をした熱泥がコポコポと吹き上がる地獄。

 やばい。なにがやばいって? そろそろ観光に余裕がなくなるほどリーダーとヨッシーの花粉症が悪化している。

 プリンやソフトクリームを食べて小休止することで、クシャミの頻度は少し減った気がした。


 ――かまど地獄――

「リーダー! これ花粉症に効くって書いてある!」

 例によって受付のお姉さんに苦笑で送られて入った地獄で、ヨッシーがそれを見つけた。

 かまど地獄は他の地獄を総合したような感じであるが、そこの一つに水蒸気のみが噴射している場所があった。張り紙で『ゆっくり吸ってください』みたいなことが記述されており、インフルエンザ予防や花粉症に効果があるらしいこともわかった。

 早速我々は水蒸気の中に顔を突っ込んだ。思ったより熱くはなく、硫黄の臭いがきつい。良薬口に苦しということで我慢して鼻で息を吸う。

 ……特に変化はない。そりゃあすぐには効きませんよね。



 ――鬼山地獄――

 ワニがいた。大量にワニがいた。白緑色の池とかあったけど、なによりもワニに目がいってしまう。

 様々な種類のワニが約百頭――まったく動く気配がない。どうやらお昼寝中のようだ。それなのにリーダーは「うひゃっ!?」と過剰にビビッていた。

 そのリーダーが私にそっと耳打ちする。

「TPの底が見えた」

 TP……ティッシュポイントのことだ。

「ティッシュまだある?」

 私は箱ティッシュの持ち主であるヨッシーに問うた。ヨッシーはティッシュ箱を確認して驚愕に目を丸くする。

「うっそ、もうほとんどない!?」

「……リーダーが人のだからって遠慮せずに使うから」

 ダビの指摘にリーダーは口笛を吹きながら先へ進んでいった。

「どっかでTP補充しないとまずいんじゃない?」

「俺らはSPサイフポイントもやばいけどな」

 そこは旅行前に補充しとけよ。


 ――白池地獄――

 白濁した池と熱帯魚館が併設されたこの地獄は、魚好きの私にとっては八つの地獄のうち最も楽しみにしていた場所だ。

「TPが尽きたぁあッ!?」

 ついにやってきた本当の地獄。命名、鼻水地獄。

 私はゆっくり鑑賞していたいのに、リーダーとヨッシーの歩く速度がめっさ速い。

 ふとリーダーがトイレに立ち寄る。私も連れ立ってトイレに入り、それを目撃した。


 リーダーがトイレットペーパーを拝借していた。それも丸ごと一個。


「いやいやいや、あかんて! それあかんて!」

 流石に持ち出すのはまずいと思い私は止めた。これ窃盗になるんじゃね? という考えと、トイレットペーパー片手に観光する友人の滑稽な姿が脳内を駆け巡る。

 しかしリーダーは――

「TP補充するまでやて」

 ともうなくなりかけのトイレットペーパーを持ってトイレを出た。アレならこの地獄内で使い切るだろうから問題は……いやあるんじゃないかな?



「君たち、血の池はもう行った?」

 白池地獄からの下り道を歩いていると、タクシーの運転手が親切にも声をかけてくれた。

 が――


「TPないんでもう無理です!」

「薬局までお願いします!」


 とは流石に言えず、丁寧に断って近くで見つけたコンビニに突入した。

 コンビニでヨッシーとダビはSPを増やし、そして箱ティッシュを五箱セットで買った。この時はそんなに必要ないだろ、と思っていた私だが、先に言うと旅行が終わった時このティッシュは残り一箱だった。

 結局、TPを満たしても血の池と竜巻には向かわず、私たちはホテルへと直行した。


挿絵(By みてみん)


                ※※※


 ホテルに着くと、代表者である私がチェックインを済ませた。リーダーはリーダーのはずなのに、なぜ私が代表者? どうしてこうなったのかさっぱりわからない。

 広々とした四人部屋へ案内され、そこに荷物を置いてから第二回『これからどうするか?』会議を開催する。

 夕食のバイキングは十九時。まだ二時間ほど余裕がある。

「プール行こう、温泉プール」

 リーダーが言う。このホテルには水着着用で入る文字通りの屋外温泉プールがある。

 用意のいいリーダーはちゃっかり自分の水着を持参していたが、私たち三人にはそれがない。四百円でレンタルし、さっと着替えてプールへ向かう。

 プールと言っても温泉である。泳いでいる人よりもただ浸かっている人の方が圧倒的に多い。そんな中で、

「ヒャッホーイ!」

 クロールをし始めるヨッシー。ちゃんと周りに人がいないことを確認しているから迷惑はかからない。

 それにあっちで外国人の集団が注意されそうなほど楽しげに大騒ぎしているので、周囲の目はそちらに向いている。泳いだところで恥ずかしいことなどなにもない。プールだし。

 水圧のマッサージを満喫しているリーダー。それぞれがそれぞれに楽しんでたが、ダビだけは「……スライダーのないプールなんてありえない。もう出てもいい?」みたいなことを言っていた。無論、却下である。


 一時間ほどプールで遊んで、一度部屋に戻った。

 まだ夕食まで時間はある。

「ゲーセン行こう、ゲーセン」

 ということで我々は浴衣に着替え、温泉プールまでの道をほとんど引き返してゲームセンターに向かった。

「……エアホッケーしません?」

 私はダビに誘われる。そういえばエアホッケーの台を興味深そうに見てたな。無論、ここで断る理由はない。

 エアホッケーなんて十年以上やってないけど、まあ、手加減なんてせずに全力で点取ってやろうじゃないかっ!


 五対四。


 私の負け。ダビに負けるなんて非常に悔しい! でも、もう一度挑戦するほどむきになってはいないため一回で終えた。

 ヨッシーは銃でゾンビを撃ち殺しており、リーダーは迫りくるサメをハンマーで叩いている。ダビは知らない。いつの間にか姿が見えなくなっていた。

 私はクレーンゲームでチョコを一つゲット。ゲーセンとはほとんど縁のない私は、そのくらいしかやってもいいと思えるゲームがなかったりする。


 そんなこんなで時間は過ぎ、私たちは夕食のバイキングを堪能して部屋へ戻った。

 皆けっこう疲れている様子だったが、あるものは使おう。

「せっかく割引券あるんだから、ボーリングしよう、ボーリング」

「……おれは卓球の方がいい」

「「よーしボーリング行こうぜ!」」

 満場一致で可決。うん、誰も反対なんてしていない。

 私たちは浴衣のままボーリング場へと赴いた。見渡す限り、他の客は誰一人浴衣など着ていない。だよね、これ動きにくいし。どうして着替えなかったんだろう?

 靴を借り、ボーリングの球を選んで指定されたレーンの場所へ行く。

 一番手はヨッシー。浴衣の動きにくさを全く感じない動作で投球。微妙に軌道がずれて二回の投球で三本残った。

 二番手はリーダー。一発でストライクを出しやがった。

 そして三番手は私。実は最近ゼミの追いコンでボーリングをやったばかりなのだ。勘は取り戻している。第一レーンでストライクかスペアは余裕――


 なぜ……ピンが七本も立っている……?


 おかしい。ダビがそれなりの本数を倒しているのを目に私は冷や汗を流す。

 そうか、まだ体が温まってないからだ。私の特性はスロースタート。追いコンの時だって第六レーンから覚醒したのだった。それまではガーターが続いていたが、今回はそれだけは回避している。調子は前回よりもいいはずだ。


 それから五ターン経過。

「よし!」

 私はようやく調子を取り戻し、このレーンで初めてスペアを出した。

 しかし、得点を表示している画面を見ると皆との差が倍近くある。ま、まあ第一ゲームはこんなものだ。第二ゲーム以降に私は鬼のような強さを見せるのだから!


 親指の爪が割れた。


 爪切っとけばよかったぁあああああああああああッ!?

 しかし時既に遅し。私は爪が割れたことを皆には隠し、その後のレーンを投げ続けた。そして第八レーンにしてわかったこと――浴衣の時は助走しない方が安定する。


 皆疲れていることもあって、ゲームは一回で終了した。私が本領を発揮するのは第二ゲームからだが、あくまで第二ゲームからだが、爪が割れてるから仕方なく終了に異を唱えなかった。


 その後、プールではない温泉に入って汗を流し、私たちは部屋に戻って消灯した。



                ~二日目~



 皆で旅行したりする際、私には致命的な欠点が存在する。

 それはずばり、〝寝れない〟こと。

 枕が合わないとか、ベッドじゃないとダメだとか、隣のベッドで寝ていたダビのイビキがありえないくらい酷かったとか、そんな理由からではない。


 人がいる。それだけで私は無意識に睡魔に対するプロテクションを貼りつけるのだ。


 子供の頃から眠る時は異常なまでに神経質になるため、たとえ家族であろうとも同室で私は安眠できない。眠っていても、他人が寝返りを打つ時の衣擦れの音だけで目覚める自信がある。昔の知り合いに『前世は忍者か!?』と言われたほどだ。いやホント。

 なぜこんな体質(?)の話をしたかというと――


「夙さん、ちゃんと眠れた?」

「おかげさまでパッチリ」

「寝てないやん!?」

 気遣ってくれたリーダーに元気よくサムズアップする私。はい、これでも徹夜です。激しく疲れていたにも関わらず、貫徹しちゃいました。

 三時頃までは持ってきたラノベを熟読し、そこからはベッドで眠れないまでも瞑目してました。目を閉じるだけでも七十パーセントくらい効果あるらしいし。

 その証拠というか、四時過ぎにダビの無意味に流していたウォークマンの曲が止まったことを知っています。ダビさん本人も途中で起きて止めたと証言しています。

「俺らイビキかいてた?」

 ヨッシーが訊いてくる。彼らは皆、私が寝れないことは承知しているのだ。

「いや、全然。もしかしたら彼のイビキに掻き消されて聞こえなかっただけかもしれんけど」

「……おれ、そんなにイビキ酷かった?」

「起きてる方が静かなくらい」

「うわぁ、今日は博多のホテルで二人部屋だけど、こいつとは一緒になりたくねえ」

「あとで部屋割りを大富豪で決めようや」


 そんな感じの朝を過ごし、私たちは朝食を済ませてチェックアウトした。


                ※※※


 ザ・ノープラントラベル。

 二日目も無論それだった。博多行のバスを予約しているが、その時刻は午後四時。それまでの時間の使い方を第三回『これからどうするか?』会議を開いて決める。

 本来は温泉めぐりをしようという話だったのだが、

「温泉に入ってわかったことなんだけど、何ヶ所も巡ってたら疲労が深刻になりそうじゃない?」

「あー……そうやな」

 私の意見に一番ノリノリだったリーダーが悟ったような表情で首肯したことで、温泉めぐりは廃案と化したのだった。

「テキトーに集合場所決めて、時間まで解散するって手はどう?」

 ヨッシーの提案に私はこう答えた。

「そうなったら私は駅でノーパソ開いて執筆し、電池切れたらラノベ読み耽るよ?」

「よしダメだ。それはダメだ。たとえ解散しても夙くんは俺と一緒に回ろう」

 なんとも頼もしい言葉だが、私は知らない街を目的もなしに散策する性格ではない。

「テキトーに街回っても息切れするって。だったら水族館にでも行った方がよくない?」

 私、魚好きだし。よくない? と訊いておきながら、心の中では物凄くプッシュしていたりするのは秘密。

「いんじゃない? 駅からバスで十五分程度だし」

 リーダーの後押しもあって、我々は水族館へと進路を設定した。


                ※※※


「水族館に到~着~♪」

 内心ウキウキしながら私は館内に入り、チケットを受付のお姉さんに渡す。そして一つ一つの水槽をじっくりと堪能し――――って早い早い早いよ進むのリーダー!?

 花粉症は昨日ほど酷くはないように見えるのに、リーダーはサクサク進んでいく。まるで私の母親みたいだ。

 今日もティッシュ箱装備のヨッシーが彼に追いつく。リーダーもTPがなくなると死ねるからね。

「まあ、あんまりゆっくり見てるほどの時間もないか」

「……そうだね」

 ダビと頷きを交わし、私もリーダーのペースで見て回ることにした。

 海水魚、淡水魚、様々な魚たちが彩る館内を歩き、丁度よかったのでちょっとしたショーも拝見した。

 ラッコやアザラシなど海に住む哺乳類の区域に入り、そろそろ終わりが近づいてきたと実感したところで――


 リーダーが迷子になった。


 見失った場所は通常の順路と、イルカショー等が行われる上階への階段の境目だ。

「確か階段上ったと思ったのに」

 彼を最後に目撃したヨッシーの証言である。全てのTPはヨッシーが管理しているので、早くしないとリーダーが鼻水地獄に落ちてしまう!

 と思っているが、私たちは特に慌てることなく普通に順路を巡っていた。リーダーも子供じゃないんだから、そのうち見つかるだろう。

 我々はイルカの水槽の前にやってきた。

 どっかのおじさんが水槽に手を入れてそこに浮かんでいたビーチボールをイルカの前に押し出した。

 すると、ポーンとイルカがそれを弾く。

 おお! と感嘆し、私もやってみた。


 イルカ、無反応。


「そこのキミ、危ないから手を入れないで」

「すみません」

 しかも私だけ注意された。ここのすぐ前が魚に触れられる区域だったのだが、イルカのところには『危険なので手を入れないでください』と張り紙がされていることに今気づいた。

 少々気分を害したが、リーダー捜しを再開する。

 拍子抜けするほどすぐに見つかった。彼はセイウチをぼーっと眺めていたのだ。

「どこ行ってたん?」

「普通に順路回ってたけど?」

「あれ? じゃあ上に行ったように見えたのは俺の気のせいか」

 リーダーが迷子になったのはヨッシーのせいだった。

 その後、タイミングよく始まったセイウチのショーを見て、我々はお土産コーナーへと入った。

 そこで私はある物を発見し、リーダーにそれとなく見せる。

「オウ! クラーラ」

 ミズクラゲのぬいぐるみである。これがまた某少女漫画に登場するマスコットキャラにそっくりだったのだ。

「俺、買うわ」

 ヨッシー殿がお買い上げ。なぜ買ったし。


                ※※※


 昼食にたこ焼きを食べた我々は、そのまま水族館の向かい側にある高崎山へと歩を進めた。

 高崎山には野生のニホンザルを餌づけした動物園があることで有名だ。

 しかし、入園前に問題が発生した。


「ビニール袋とかティッシュの箱は持っていると盗られるので、あちらのロッカーに仕舞ってください」


 まさかのTP0固定エリアだった。

 この時点では誰もポケットティッシュを持っていない。花粉症が深刻なリーダーとヨッシー、大ピンチである。

「まあ、なんとかなる。行こう」

 それでもリーダーは果敢にも入園する。モノレールに乗るという手もあったが、我々は自らの足で山を登ることにした。

 分かれ道があった。のんびり進むカメコースと、サクサク進むウサギコースだ。

「どっちに行くかグッパで決めよう」

 リーダーの提案に賛成し、四人輪になってグーとパーを出し合う。

 結果、私とリーダーがカメコース。ヨッシーとダビがウサギコースとなった。

「どっちが速いか競争しようぜ」

 そうはにかむヨッシーに、

「じゃあウサギコースは一時間くらい昼寝しろよ」

 と私が言い返したところで二手に分かれた。

 競争と言われても大して急ぐこともなく私とリーダーは歩いていく。

「サル全然おらんやん――いた!?」

 ニホンザルの子供を見つけてガチでビビるリーダー。

「うっそ、放し飼いやん!? てっきり檻にでも入ってるもんと思ってた。どうしよめっちゃコエー!?」

「いやここのサル野生だから」

 軽くツッコミを入れていると、ウサギコースとの合流点が見えた。

 ヨッシーとダビは今着いたようで、どちらを選んでも大差ないことがわかった。


 そこいらにサルの糞という地雷が散乱している道を我々は進む。ダビが見事に踏んでいたのは見なかったことに――はしなかった。言ってやったさ、はっきりと。

 上に行けば行くほどサルがいる。人間慣れしているためか、全く驚いたりはしない。

「めっちゃサルおるし!?」

 相変わらずリーダーは過剰に反応していた。

 広場に出ると、これまたタイミングよく餌やりが始まった。係員が餌の入ったバケツを持つだけで各地からサルが集合してくる。我先にと小麦の餌を拾い集め、時には奪い合い、喧嘩を勃発させる凄絶な光景には皆が息を呑まざるを得なかった。

 餌やりをなぜか二回も見て満足した我々は、博多行のバスの時刻も迫っていることもあり山を下りることにした。


                ※※※


「博多……めちゃくちゃ雨降ってますけど! 別府はそこそこ晴れてたのに!」

 二時間半ほど高速バスに揺られて博多に到着した我々は、雨の中歩く気にもなれず、西天神からタクシーを利用して予約していたビジネスホテルへと向かった。

 やっぱり代表者となっていた私がチェックインを済ませ、部屋のある六階までエレベーターで登る。

 今回は二人一部屋である。だが、我々は分散することはなく、片方の部屋に集まっていた。

「部屋割決め大富豪すっぞー」

 本来なら今日の朝、ホテルをチェックアウトするまでにやるはずだったことを思い出したかのように始める。あの時は私以外の全員が二度寝タイムに突入したためできなかったのだ(寝れない私はラノベ読んだり執筆したりしてました)。


 勝った二人と、負けた二人という具合に部屋が割り当てられるというルールだ。

 デュエリストのヨッシーが手慣れた感じでトランプをシャッフルし、皆に配っていく。

 私の手札にはジョーカーが一枚と、ハートの3から6までの『階段』ができている。ダブルやトリプルはほとんどなかったけど、そこまで悪くない手だ。

 ジャンケンで先行を決める。私・ダビ・リーダー・ヨッシーの順になった。

「4のダブル」

「……妥当な手だね。……7」

「それじゃあ10」

「俺はパス」

「パス」

 順調に不要なカードを処理していく私。このKで流れたから、9を出して2で再び私のターンに持っていけば階段革命で一気に勝負をつけられる。フッフッフ、完璧な計算――


「クローバーのAで縛りな」


 …………。


 ちょっと待ってリーダー。え? なに? 縛り? クローバー?

 手札を見る。私の2は……クローバーじゃない……だと?

 ジョーカーを出すか? いや、まだ早い。ここは様子を見て次のチャンスを掴めばいい。

「「「パス」」」

「んじゃ革命」

「マジで!?」

 どうしよう、早速計算が狂った。

 いや、まだた。まだこちらにはジョーカーがある! そして革命し直せば流れを取り戻すことは可能!

「4」

 来た! ここだ!

「ジョーカー」

「スペ3返しっと」

 リィイイイイイイイイダァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?


 ジョーカー様を無駄死にさせた私は、3~6の階段を単体で出していくしかなくなり、結果三番目で上がることとなった。

 ダビに勝ったことで自尊心は保ったが、負けていようとも彼と同室になることは変わらない。

「負け組は大人しく隣の部屋に移動しろ」

 リーダーの腹の立つ笑みを背中に、私とダビは部屋を追い出されるのだった。


                ※※※


 第四回『これからどうするか?』会議――

 ――は、今回ばかりは会議にすらならなかった。

「屋台行こう、屋台」

「博多と言えば屋台だよな。ビバ☆博多!」

「昨日とり天の店でラーメン食わなかった分、今日は食うぞ」

「……腹減ったもんな」

 既に夜の帳が下りている時刻であることと、みんな空腹であったために、ここで空気を読まない奴はいなかった。

 ホテルの従業員に屋台が集中している場所と行き方を聞き、我々は屋台で食べるラーメンの味を想像しながら雨の中を意気揚々と歩いた。

 屋台は河原に集中しているようだった。

 我々はまず一通りの屋台を見て回り、どこに入るかを検討し――

「お客さん、どうぞ、おいしいよ」

 勧誘されるがままにすぐそこのラーメン屋台に連れ込まれてしまった。

 屋台なのでどうしても狭いことは否めないが、それでも充分なゆとりがあった。

 四人並んで椅子に腰かけ、同じとんこつラーメンを注文する。六百円と良心的な値段で味もこってりし過ぎず、さっぱり好きの私としてはけっこう好みだった。

 実はバスの中でエクレアを間食していたので、この一杯で私の胃袋は満足してくれた。

「じゃあ、コンビニ寄ってからもう一軒行こうや」

「あ、やっぱまだ食うんだ……」


 そんな流れで、二軒目の屋台で焼きラーメンを食べた後だった。

「……俺、ちょっと親戚の家に挨拶しに行ってくる」

 ダビが唐突に言い出した。

 彼の親戚とやらが福岡に住んでいることは旅行の直前で知らされていた。挨拶に行くという旨も事前に聞かされている。

 でも、今か? このタイミングか? 夜、それもみんなで屋台巡っている途中ですることか? てっきり明日の未予定の時間に捻じ込んでくるものだと思っていた。

 相も変わらず思考が読めない。

「どうぞ」

「いってらっしゃい」

「どうやって行くん?」

「……タクシー捕まえて」

 皆、冷たいのか寛容なのか、誰も引き留めはしなかった。こうでなければ彼と付き合うことは難しいだろう。

「もし彼が親戚の家でダウンしたら、今日は安眠できるな」

 ダビが夜道の向こうへ消え去ったことを確認してから、私はぼそっと呟いた。

「いや流石に帰ってくるやろ」

「でも、もしかしたら夙くんを気遣って親戚の家に泊まると言い出すこともあり得るな」

 ヨッシーの言葉に私は、まさか、と首を振った。あのダビがホテル代を無駄にしてまで人を気遣う優しさを持っているとは考えにくい。……散々否定してるけど、別に私はダビを嫌っているわけではない。勘違いしないように。嫌いなら一緒に旅行なんて行かない。

 雑談もほどほどに、残った三人でもう一軒回ることにした。


 ちなみに、昼になにも食べなかったヨッシーはラーメンを合計三杯完食していた。

 そして、ダビは二十三時過ぎにホテルへと戻ってきた。



                ~三日目~



 皆まで言うな。そうさ、徹夜さ。

 いや、寝たかもしれない。……寝た。うん、たぶん寝た。五分くらい。夜の記憶全部あるけどね!

 一日程度の徹夜ならばなんてこともない私ですが、二日はちょっときつい。睡魔に対するプロテクションはまだまだ剥がれそうにないけれど、流石に少し休みたい。

 だから朝食後、一時間の仮眠タイムを貰った。ダビはリーダーとヨッシーの部屋に行き、こちらの部屋の鍵を自分で所持することで安眠が可能となる。

 おかげで万全に近い状態まで回復した。さてこれで楽な気分でチエックアウトができるってものである。私は元気凛々と友人たちの部屋へと向かい――


 三人共二度寝タイムだったことを知る。どうやら私とは種族の異なる存在らしい。


「で、今日はどうすんの?」

 私から始まる第五回『これからどうするか?』会議。

「お土産とか買うんやし、テキトーにブラブラすればええんちゃうん?」

「いや、それはダメだ」

 リーダーの意見にヨッシーが反対する。

「そうすると夙くんが――」

「イエス、博多駅で新幹線の時間まで執筆&読書ってことになる」

「そ、それはいかんな」

「……昼飯はこのステーキハウスに行こうよ」

 ダビが親戚の家でプリントアウトしてきたらしい紙を掲示する。昨夜少し話を聞いた限りでは、そこで彼の親戚がアルバイトをしているようなのだ。そしてアルバイトしている親戚には昨日会っていないので、昼飯がてら顔を見せに行きたいということだろう。

「そこってどこにあるん?」

「……このホテルから歩いて十分もかからない」

 昼にはまだ時間あるし、近過ぎるのも少々困る。

「まず博多駅のコインロッカーに荷物置いて、徒歩でその店目指しながら街見て回ればええやろ?」

「なるほど、他に食べたいものがなければそのステーキハウスに行けばいいってことか」

「そ」

 リーダーのおかげで話は纏まり、会議終了。


                ※※※


 結局、ランチはステーキハウスだった。

 各々が別々のメニューを頼む中、ダビが親戚らしい青年からこっそり五千円札を渡されているところを私は見た! 

 いやまあ、別になにも悪くないけどね。オコズカイ貰うくらい。


 食事を終えた我々は、博多にある複合商業施設で残りの時間を潰すという強引な作戦に出た。

 施設内は迷子になるほど広い。地図を入手したがごちゃごちゃしていて現在位置すら掴めない。

「博多駅方面の出口に三時半集合な」

 そんなわけでここでは皆がバラバラに行動することとなった。この施設から出られない以上、私の『駅で執筆&読書計画』は成り立たない。考えたな、リーダー。

 だが残念。ここにだって休憩するためのベンチの一つや二つはあるはずだ。そこで時間までずっと執ぴ――って荷物は全部駅のロッカーだったぁあッ!?

 万事休す。私はとりあえず本屋に向かうべく、目的地の方向が同じヨッシーと途中まで行動することにした。

「いやぁ、自分の興味のあるものってすぐに見つかるよね」

 と地図の一部分を指差すヨッシー。そこには『カード 玩具』というキーワードが見えた。流石デュエリストだ。集合時間まで居座りそうだな。

 かくいう私も人のことは言えない。興味あるもの――本屋の位置は即行で掴んだ上に本屋ならいつまででも滞在できる自信がある。

 ただ、足が痛いんです。歩き過ぎで。立っているだけでもきついので本屋と休憩を繰り返し、途中で今週のマンガ雑誌を読んでいないことを思い出して外のコンビニへ入る。複合商業施設とは道路を挟んだ向かい側だから出ても問題ないはずだ。


 立ち読みも終了し、施設に戻って適当にお土産を買う。

 そうするとやることがなくなったので、誰かを捜すことにした。

 いや、捜すまでもない。ヨッシーはカード売り場にいるに決まっている。そう考えて私は地図を見ながらその場所へと痛い足を動かす。

 案の定、ヨッシーはいた。彼はなにやらガチャガチャらしきものの前にいる。

 と思ったら彼だけではない。リーダーとダビも一緒じゃないか。なんだよ、結局三人で行動してたんかい。

「おわっ!? 夙さんいつの間に」

「たった今」

 気配なく背後から近づいた甲斐あってリーダーが驚いてくれた。うん、それだけで満足。時々やりたくなるよね、こういうお茶目。

「……夙くんはずっと本屋にいると思ってた」

「流石にずっとはいないって」

 失敬な。既に同じ本屋に三回ほど入ってるけど。本屋以外は土産屋しか入ってないけど。

「ならどこ行ってたん?」

「……こ、コンビニで立ち読み……とか?」

 目を逸らしながら答える私。やっぱり本関連ですすみません。

「あ、俺も立ち読みしてないわ。ちょっと行ってくる」

 とヨッシーが言い残して去っていく。せっかく集まったのに、またバラバラに行動するはめになったのだった。


                ※※※


 お土産も買った。

 ロッカーに預けた荷物も回収した。

 最後まで私が管理していた切符を皆に渡し、改札をくぐった。行きの時みたいな問題は発生しなかった。

 新幹線に乗った。

 私は旅を名残惜しむように窓の外に流れる景色を眺め――ることは一切なく、先程本屋で買った最近アニメ化しているミステリー系の漫画を全力で読んでいた。そこは原作小説の方がよかったけど、積み小説の溜まっている私にはとても手が出せなかったのだ。


 新幹線が駅に到着し、旅が終わる。


「晩飯どうする?」

 と訊いてくるヨッシーに、私が答える。

「どっか食いに行こうか。ていうか、新幹線の中で駅弁食ってた人いるけど」

 私はダビに視線を投げる。彼は特に嫌そうな顔はせず。

「……行くなら行く」

 とだけ言った。

「リーダーは? 電車の時間とか大丈夫?」

「あー、ま、大丈夫やろ」

 と一度は賛成したリーダーだったが、

「いや、やっぱ帰るわ」

 帰りの電車の時刻が近いことから、彼は帰宅を選んだ。

「了解、また卒業式で」

「うい」

 リーダーを見送り、我々は駐輪場の方向へと移動する。とそこで、ダビがいないことに気がついた。

「あれ? どこ行った?」

「あ、あそこ」

 私が指差した先に、なにやら携帯で電話しながら反対方向へと歩いているダビがいた。

「どこ行ってんの、アレ?」

 とりあえず彼の後を追うヨッシーに続いて、私もダビを追いかける。それにしても足が痛い。

 駅から出たところでようやく追いついたヨッシーが事情を聞く。

「……リーダー帰ったから、メシの話はなくなったのかと思った」

 つまり、ダビは勘違いして別れの挨拶すら言わずに踵を返したってことのようだ。まったく、彼はいつもワケガワカラナイヨ。

 誤解だったことがわかっても、ダビはそのまま帰ってしまった。今更引き返したくない気持ちはわからないでもない。


 仕方なく私はヨッシーと二人で夕食を取り、大荷物を抱えて駐輪場に向かう。

「最初から最後まで彼はやってくれたな」

 ヨッシーが言うのは無論、ダビのことである。

「この旅行のことを小説化したらアレが最後のオチになるのかねぇ」

 なんて話をしているうちに駐輪場へ到着する。駐輪料金を支払い、自転車を止めた位置に行く。

 私はポケットに手を突っ込み、自転車の鍵を……。

 鍵を……。

 鍵……。

 ……。

「ははは、これで鍵失くしましたとかになったらやばいよな」

 ヨッシーの冗談のつもりの言葉が、冗談ではなくなった。


「あっ、鍵どっかに忘れた……」


 書きたかったから書いたって感じですね。旅行の思い出を自分の好きな形で残せるようにって。それだけです。読んでくれた方、つまらなくてすみませんでした!! orz三


 イラストはごんたろうさんに描いていただきました。

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