たなぼた
「こんな時間まで教室で何やってんだよ……」
「あ、ごめん。ちょっとね。もう帰ったと思ってたんだけど」
「待ってたよ」
「ごめんごめん。さ、帰ろうか」
「……なんか書いてなかった?」
「ん、今日は何の日よ」
「えーと、あぁ七夕か?」
「そ」
「でも、笹なんてないぜ」
「駅前においてあるんだよ、この時期はさ。通らないから見ないんでしょう」
「そうだな、初めて知った」
「こういうのって男の子興味ないんだ?」
「さぁ、少なくとも俺はね。そりゃ子供のころは信じてたけどさ。織姫と、……なんだっけ」
「彦星」
「あぁそれそれ」
「悲しいと思わないのかい? 一年に一度しか会えないなんて」
「そりゃ、ずいぶんな遠距離恋愛だわな」
「興味ないんだねぇ」
「あぁすまん。どうもこの手の話は苦手で……」
「まぁいいけどさ」
「大人になるってつまんねーよな、そういうの考えると。知らないなら知らないでよかったってことまで知らなくちゃいけなくなる」
「たとえば?」
「だから、七夕で言えば、そもそも宇宙でどう生きてんだよとか、ものすげー速さだよとか、なに俺らの願いまでかなえてくれちゃってんだよとか、まぁそんな」
「うわ、最悪だ」
「お前が言わせたんだろ」
「まったく、こういう話に理屈とかこめちゃいけないよ。子供になんなきゃ」
「子供はいいよ。何も考えることとかなくてさ」
「……何考えてる?」
「へ?」
「だから、今何考えてんの」
「いや、別に何も」
「考えてないじゃん」
「いや、別にそういうことじゃなくてさ。現実的なこと、将来のことだったりいろいろ。今じゃなくてもさ」
「ふーん」
「なんだよ」
「別に」
「……お前は?」
「ん?」
「何考えてる?」
「……なんだろう」
「なんだそりゃ」
「自分でもわかんないよね、自分が何考えてるのか」
「あぁ、でもなんかわかる」
「自分で自分にうそついてる、みたいな。気づいたら卑怯なほうへ卑怯なほうへ、勝手にいいわけ考えてるんだ」
「……」
「ごめん、なんか。最近不安でさ」
「不安って?」
「いろいろ。それこそ将来のことだったりさ」
「やっぱ、そうだよな」
「みんな大人になるんだよね」
「そりゃそうだ」
「わがままなんて言ってられないし、自分で考えて行動しなきゃいけない。私以外の人も同じ。それが大人になるってこと」
「うん」
「そんな覚悟があるのかなぁ」
「自信がないの?」
「うん……。今回も、結局短冊任せだもん」
「はは、でもさ、その時はその時なんじゃないかな」
「え?」
「ゆとり思考だと自分でも思うけどさ、考えなきゃいけなくなったら考えるだろうし、どうしても行動したいと思えば行動する、そんなもんだと思うよ。たぶん、それの最初が今なのかもしれない」
「うん……」
「前もって準備しておけたら最高だと思うけどね」
「準備……か。心構えとかかな」
「それも一つだと思うけど、一体何を短冊に書いたの?」
「……私たちは大人になるよ」
「うん」
「そしたら、みんなばらばらになっちゃってさ、今こうして生きてきたのが無かったみたいに忘れちゃうんじゃないかって。それが怖くて……、ずっとこのままいられたらいいのに」
「……うん」
「ごめんね、こんなこと」
「……なぁ、未来に向けての準備に、約束なんてどうだろう」
「約束?」
「俺は、お前のそばを離れない」
「……」
「おい引くなよ。本気だぞ馬鹿野郎」
「ははは。ごめん、それ、かなり痛いわ」
「かっこ苦笑」
「でも、うれしかったよ」
「ならいいけど」
「うん、じゃぁ、また明日」
「ん。いや、駅は向こうだぜ」
「いいの、誰かさんが私の夢、かなえてくれそうだからさ」




