どうして人は、生まれてくるの
わたしリオン、十二歳になった。
大魔法使様がわたしのお師匠様。
今日のテーマは「人はなぜ生まれてくるのか」なの。
お師匠様は、わたしから見ると魔法使いになるために生まれて来たような人だけれど、魔法使いになるために生きて来たわけではないみたい。
お師匠様はもう五百年以上も生きている。あと三百年くらいは生きる予定なのだとか。
言葉使いはおじいちゃんみたいなのだけれど、見た目はパパと同じくらい。でも、もっと若い人の姿にもなれるらしい。
「リオンの彼氏や弟ぐらいの姿にだってなれるぞ」
わたしにはまだ彼氏はいないけれど、あれからわたしには弟のミシェルが生まれた。
「ロビン先生、どうして人は生まれてくるのですか?」
「それはリオンがこれから自分で答えを見つけるものだ」
「人によってちがうものなんですか?」
「そうじゃ」
「じゃあ先生は?」
ロビン先生は、そうじゃのうとつぶやいてジャコウオオトカゲのうろこでできている眼鏡を外した。
「わたしはね、人は自分という存在を自分で肯定するために生まれてくるのだと思っているよ」
「肯定?」
「そうじゃ」
肯定って、自分がここにいてもいい、自分はこれでいい、自分は生きていてもいいって感じること?
「もし、それができないと、どうなりますか?」
「性格がひんまがる」
「ええっ?」
「面倒な奴とか、他人にとって迷惑な奴になるだろうな」
うう、それは大変そうだ。
「まずは、産まれた時にもらった自分の名前を受け入れること、そして自分の性別を受け入れることじゃな」
「受け入れられなかったら?」
「受け入れるって言うのは、認めるとか満足する、気に入るいうことだけでもないんだよ。たとえ気に入らなくても、良い悪い、好き嫌いに関係なく一旦そうなのだと受け入れないと何も始まらない」
「こんな名前はいやだとか、自分は女の子はいやだってなってしまう場合は?」
わたしはリオンという名前は気に入っている。
わたしが女の子なのは、そう生まれてきたからそれでいいかなとは思っているし、もし男の子に生まれてきていても、やっぱりそう思うかもしれない。
「その時はその時だ。すぐにできない場合は何年もかかるだろうし、そこから自分を自分で構築してゆくのさ。自分がしっくりくるものにね」
「どうしてもいやだったら、ニックネームとかペンネーム、ハンドルネームを持てば自分の気に入る名前にできますよね?」
「ああ。名前は他者と自分を区別するための記号のようなものだ」
「仮のものって言うことですか?」
「自分の仮の名前をこれでいいと思えればそのままでいいし、どうにもいやならば大人になったら自分で好きに変えればいい」
こんな名前はいやだって言っているクラスメイトも確かにいる。
なんだか名前って、自分だけのパスワードみたい。
「ああでもない、こうでもないと悩むことも必要な時もあるぞ」
「悩みがあるのは良くないって言うことでは無いのですね」
「悩むべき時にちゃんと悩まないと、考えなければならない時に考えなければバカになるぞ」
「ちゃんと悩んだ方が大人になれるのですね?」
「そうだ。悩まなくてもいいものまでわざわざ悩むのもバカではあるが、それはまた今度教えてやろう」
わたしは先生から宿題を出された。
『どうしたら自分を肯定できるか』
考えられるかぎり書き出せという。
わたしが自分を肯定できるのはどういうところだろう?
わたしの名前、女の子だっていうところ、パパとママの子どもで良かったというところ、ミシェルが弟なところ、それから······
あっ、ロビン先生に出会えたこともだ。
そうやって考えてみると、わたしは自分がわりと恵まれているのかもしれないと気がついた。
わたしみたいに自分の名前や性別が好きな人ばかりじゃないし、両親を好きではない人もいるだろうな。
自分が何を持っているから自分のことを肯定できるというのは、ちがうのかな?
いやなものばかりに囲まれていたり、ひどい目にあっていたらどうなるのかな?
わたしの好きな物語の主人公たちは、いやな目にあっても、ひどい目にあっても、自分のことを嫌ったりしていていないように思う。
シンデレラはきっと、自分のことは嫌いじゃないよね?
人魚のお姫様もマッチ売りの女の子たちも、苦労したりかわいそうな目にあっても、自分のことは嫌ってはいないと思う。
育った環境が良くなくても、自分を嫌う必要はないよね。
こんな自分はいやだって感じるのは人それぞれ。
自分がきれいなら、自信を持てる?
自分が頭が良ければ、これでいいって思えるの?
他の人が持っていないものを持っていたら、自分を好きになれるの?
すてきな人に好きだと言われたら、うれしいかもしれない。
人よりも何かがじょうずに出来たら、ほこらしいかもしれない。
でも、うれしいとかほこらしいとか思えなきゃ、肯定できないものなのかな?
他人と何でもくらべて、何でも競争するのってとっても疲れるよね。
誰かがいないと、肯定できないものなのかな?
「こら!リオン、お前は考えすぎじゃ」
「えっ?ロビン先生?」
「もう朝になるぞ」
カーテンごしの窓の外が明るくなっていた。
「わあっ、学校の宿題をまだやっていなかった!」
「リオン、その歳で徹夜はまだ早いぞ」
パチンとロビン先生が指を鳴らすと、わたしの学校の宿題をかたずけてくれた。
「 さすが先生、ありがとう!」
わたしが書いた文字にそっくりだった。
「まったく、わたしの弟子にはかなわんな」
その日の学校の授業の間も、わたしは肯定について必死に考えていた。
「リオンさん、聞いていますか?」
そんなわたしがぼーっとして見えたのか、先生に注意を受けてしまった。
わたしが一人前の魔法使いになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
(おしまい)




