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転生ものはもういいって!!  作者: 沢木綾


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5.クワガタにチョップした?

久しぶりになりました。

 

 俺の話を信じた彼女によると、ここは50年後の世界。


 ーーそんな歌が昔あったな。


 色々辻褄合わせをしながら確認した基本情報だが、俺の名前は古村ミノで、彼女の名前は光橋リツだ。一応恋人同士で同棲をしているが、俺の仕事の時間帯と彼女の仕事の時間帯があまり合わないためほぼ同居人くらいの感覚になっていたそうで、付き合い自体は長いもののそろそろ潮時だったかもしれなかったそうだ。


 そんなことを彼氏だったはずの人に言ってしまえるくらいには、俺が記憶喪失で別人のようになってしまったことを信じてくれたみたいで、今は納得して追加で俺が焼いた飯の続きを食べている。(事実、まったくの別人なのだが)


 しかも彼女は料理が壊滅的に苦手らしく、飯を食べるのは好きなくせに自分で作ろうとすると暗黒物質(ダークマター)を生み出してしまうとのことで、俺が作った、ただ焼いただけの焼き鮭をさも立派な料理かのように褒めてくれているのだった。




 どうせなら米が欲しい。そう言ったら今すぐにでも買いに行こうと言うので、いつから着ているかわからないスウェットを脱いで外に出られる格好に着替えることにした。


 自分の部屋に戻り、黒い無機質なクローゼットを開けて、適当に服を見繕う。黒や茶色、白、グレーのものが多くて目が楽しくない。見慣れない形のものを避けながら、比較的着れそうな服を選ぶと身につけた。靴下まで一体になってる形のデニムのような色合いのボトムス、ジッパーの着いたフード付きの赤いベストと長袖の白いTシャツ、そして足元に並んでいた靴紐のない白いスニーカー。


 昔見たSF映画のような服に、恐る恐る脚や腕を通して身に着けていく。着心地は悪くなく、滑らかな肌触りと見た目より軽い重量で服に着られることなく着ることができた。

 最後に、ぱっと見た感じではゆるゆるに感じた靴に足を入れる。プシュッと空気の抜けるような音がしてサイズが足にぴったりになった。なんとこの靴、自動サイズ調節機能付きだ。


 オーダーメイドの靴を履いたかのようなフィット感に感動しつつ足踏みをしていると、着替えを感知したかのように目の前のクローゼットの扉がぱっと鏡に切り替わった。


 …悪くない。顔は至って普通の顔立ちだが、細身で身長があるので頭身が高く見え、服が似合って見える。ちょっと長めでぼさっとした髪さえどうにかしたら、普通にかっこよくなってしまいそうだ。


 取り合えず壁に引っかかっていた白いキャップで髪はごまかすことにした。



 着替えが終わって廊下に出ると、待ち構えていたリツが俺を見て軽く目を見張り、


「人格変わると服の好みも変わるのね」


 と確かめるようにつぶやいた。


「前の服はどんな感じだったの?」

「ほぼ一色よ、黒だけ、とか、グレーのスウェット全身、とかゆるゆるした目立たない服ばっかり着てた。つまらないったらありゃしない」


エレベーターのボタンを押しながら以前の俺に文句をつけていた彼女は、


「でもまぁ、わたしは嫌いじゃないわよ、今のあなたの格好」


そう言うとするりと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 外に出ると、いくつかの光る球体が道を照らしながら空に浮かんでいた。リツはそのうちのひとつに向かって軽く手を上げると、それが群れを離れ、俺たちを照らすように頭上に移動してきた。


 道端に見慣れた街灯は無く、高架になっている歩行路の下を車が音もなく滑るように走っている。


 聞くと、数十年前に電灯型の街灯は全て廃止され、人工知能で稼働する完全自律型の今の形に切り替えられたのだとか。日中はステーションに戻って太陽で発電をし、夜間光が必要なくらいの暗さになると自動で起動して定位置に散らばる。道行く人に追従しその行く先々を照らして終わったら近辺の足りないエリアに向かうという、とても理想的なシステムだ。

 

 スーパーがどこだか知らないが、ゴミも落ちてない、あまり他に人の歩いていない静かな道を歩く、つかの間のデート(気分だけでも味合わせてくれ)のような散歩を、俺は腕のぬくもりを感じながら楽しんだのだった。

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