3.焼き魚(鮭)
とりあえず腹が減っている。いつから食べていないのか全く分からないがこの腹の減り方は生きている感じがして良い。
こいつがどこのどいつで何をしてる人間なのかはいったん置いといて、ここはどこだ、ゲームのタイトルの言語からすると日本か?
つまり、俺が前世で求めてやまなかった日本食が食えるということか?
部屋から出てキッチンの冷蔵庫を除くと、買い物はマメにするタイプらしい、チルドに魚がいた。塩鮭だ。
日本人なら必ず一度は食べたことがあるであろう鮭。サケ科サケ属で日本に戻ってくるのが鮭、戻ってこないのがサーモンと思っている人が多いだろう。間違いではない。
ここからは雑学だが、基本的には天然物で加熱加工して食されるのが鮭、生食が可能で、ほぼ養殖なものがサーモンであるが、生物学的にはどちらもサケであり、実はサーモンといわれるものの中にはニジマスに属するものもあったりして、呼称分けしだすと面倒なので一般の消費者は鮭と書いてあれば鮭、サーモンと書いてあればサーモンと認識して、気にもしていないだろう。もちろん俺もその一人だ。
鮭はフライにしても鍋に入れても、炊き込みご飯にしても旨いが、今はとにかく腹が空いていて手を掛ける時間が惜しい。
焼こう。焼き魚だ。焼きじゃけ。塩がされてパッケージされているし、本当に焼くだけでいいなんて、一番簡単なんじゃないか。
そう思って焼き魚を作るべく、二口コンロのグリルのスイッチを押す。カチカチと小さな音がしてぼっと火が付いた。ありがたみを感じる。
異世界ではグリルはなかった。コンロはだすことが出来たため工夫をすれば恐らく同じようなものは作ることが出来ただろうが、内陸部の国に居たため専ら獲れるのは川魚。それをおろして食べるなんてことはせず基本的に丸焼きが多く、直接火で炙る方がなんも考えずに楽だったし、試作品を作るエネルギーのコストを考えて試したこともなかった。
程よく余熱が出来たのを手で確認してから、鮭のパッケージを開け、壁にかかっているキッチンペーパーで鮭の表面を軽く抑え、余分な水けを拭く。トレイからそこらにあった菜箸で鮭をつまみ、グリルから引き出した網の上に乗せ、戻して火力を調節する。
鮭は強火でさっと焼くのが美味い。油が落ちすぎず、皮はパリッと仕上がるのだ。
待つこと7分ほど、魚の焼けるいい匂いがしている。
「米はないのか…」
折角なので他にしゃけと合わせて食べれるものはないか探したが、冷蔵庫には他に味噌、醤油、塩等調味料と、銀色のタッパーが沢山並んでいるだけで腹の足しになりそうなものはなかった。
まぁいい、しゃけが美味けりゃそれでいい。
ちなみに鮭としゃけ、俺は加熱処理する前のものを鮭、加熱後のものをしゃけと呼び変える派だ。
箸としゃけを皿に取り卓に並べた。箸と皿は戸棚にあったものを拝借した。恐らくここは俺の体の持ち主の家だろうし、その中のものは俺が使っても大丈夫だろう。
皮に箸が入る感覚、パリッと割れる皮の気持ちのいい音。これだけで酒が飲めそうだ。
そう、酒。異世界では酒がなかった。果実が偶然発酵してしまったものを売りにしている店があるにはあったが、所詮偶然に頼り切った代物であり、味も一定ではなかった。生前は晩酌が趣味だったのもあり、結構辛かったな。こんなことなら酒造の勉強でもしておくんだったと何度思ったことか。
そんなことを考えながら60年ぶりのしゃけの美味しさをありがたく堪能していた。




