1.プロローグ
この道苦節60年、食生活に乏しく医療の発達していないこの世界では長生きしたほうではないだろうか。
魔術に頼り切ったこの世界の暮らし方は、転生してからすぐは目新しく感じていたし、夢にまで見ていた剣と魔法の世界にたどり着けたこともあって楽しく暮らしていたが、なんせ文化レベルが低い。
転生前はインターネットや電気等、科学の発達した世界に暮らしていたせいか、転生してからの環境に慣れるのが結構大変だった。
排泄物は集めて森へ捨てる方式だし、飯は火を魔法で起こすところから始めないとだし、けれど魔法の火は燃やし続けるには一般的な可燃物では燃えてくれないからまず魔法の火を燃やし続けられる魔道具を作るところからだし、なんというか、魔法という便利なものがあってしまうが故の思考停止というか、努力放棄というか、とりあえず俺には不便さが先行してしまうような文化レベルだったわけだ。
まぁ、その程度だったからこそ転生前は普通のサラリーマンだった俺がこの世界の覇権を握ることができたんだが…。
この世界の魔術は割と自由度が高く、自身の知識や想像力によって出力の度合いが変わるようで、生前にたくさんの転生ものやゲームその他作品群に触れてきた俺にとっては朝飯前だった。
例えば、前世で人に雑学王と揶揄われてた俺がネットで仕入れまくっていて仕組みと結果を理解してるコンロを生成することや、味噌や醤油といった自家製できる調味料、ボールペンを出すこともできた。スイッチで光る電球も、ばねで開くタイプの箱も、ポケットコイルのマットレスも。
ただ、結果は理解していても仕組みを理解していない電車や車、スマホ、パソコンなど、前世で便利に使わせてもらってたモノたちや、そもそものコンロの燃料のガス、ボールペンのインクだけといった作られ方を理解してないもの、調理方法のわかってない食事や大元の農産物といったものはどう頑張ろうとも出すことができなかった。
さらに、もしかしたらこの世界の法則的には可能であるかもしれないが、生き物を生き返らせたり手足を自在に伸び縮みさせたり怪我を瞬時に治したりと言った俺の前世ではあり得ないと理解してしまっていることは、どう想像しようとも叶うことはなかった。
この世界の魔法とは、便利なような気をさせておいて、不便なものなのだ。
けれど逆に、仕組みは理解していなくともこの世界で一般的に使用されている魔法は一度目にすれば使うことが出来た。
炎や水や氷、風などを起こす魔法がこれに当たる。ここからが想像力の範囲で、それをとても大きくすることもできたし、細く長くしなやかに使うこと、混ぜて使うこともできたから俺は人よりも豊かに魔法を使うことが出来、賢者と呼ばれ、弟子を取るまでになることが出来たのだった。
その魔法の仕組みに気づいた俺は、神童と謳われていた幼いころに一通りの魔法やこの世界の知識を当時の師匠から習得した後、師匠が生きてる間はパーティーで、亡くなってからはソロの冒険者として魔獣を狩ったり薬草を採取したりして大金を稼いでいたのだが、50歳を超えて体力的にも厳しくなってきたのもあり、冒険者は引退して町の外れのほうに豪邸を構え、のんびりと暮らすことにしたのだった。
が、今、俺はあろうことか、餅をのどに詰まらせて苦しんでいる。食べたくて仕方のなかった日本食を作ろう第一弾の試作品。
生前に餅をのどに詰まらせて亡くなった方のニュースは何度か見たことがあったが、いざ自分の身に降りかかるとは。
こうなってしまうと掃除機を出して吸い出すことも出来ないし焦ってしまって魔法も発動できないし、同居人も居ないからハイムリック法をして貰うこともできない。
くそ、こんなことなら弟子の同居を許すんだった、一人の時間を邪魔されたくなくて通いにして貰っているのが仇になったか…。
そうしてあっけなく俺はこの世界で死を迎えた。
初めまして、沢木綾と申します。初投稿です、よろしくお願いします。




