――となり
二、三メートル離れた位置に降り立ち、次弾を構える。今までよりも濃い青い光に照らされ、確実な死を確信する。衝撃でステッキは手放してしまい、痛みで這いずるのがやっとの事。逃げ道は無い。
『――ウィルネさんは戦えるんですか? あんまり戦う事好きじゃないんですけど……』
『戦えない事はないけど、せっかく溜めた力を消費しなくちゃいけないんだ。だからボクらは基本的に手を出さない。ボクが今度キミを助ける事は無いよ』
『……もう少し人間を大切に扱ったらどうですか。何もかもが酷いですよ――』
事前に確認した通りウィルネさんの助けも無い。これを避ける術はない。だが、私は笑みを浮かべた。自分の願い事が終わるというのにも関わらず、死の痛みにこれから襲われるというのにも関わらず、死んだらどうなるのかも不確定なのにも関わらず、私は笑った。その笑顔は誰かに似て気味の悪い笑顔だろう。中身が入れ替わっているわけでもなく、私自身からこの笑みが溢れ出した。ウィルネの浮かべる笑顔に少し共感した。
「――やはりキミにして良かった――」
その気味の悪い笑顔を向けられれば死への恐怖に成す術も無く、全てを諦めた虚脱の笑みかと思うかもしれない。だが、私には死ぬという未来は見えていない。
彼女と目が合い、その瞳の中から恐怖と疑問を感じ取る。何が面白いのか、何に対しての笑みなのか全く理解が出来ない。困惑した表情。
私には見えている。この真っ黒で虚ろな瞳に確かに見えている。私が勝つ世界が。
「――森 奈々華……」
そう唱えるとスッと波動弾が消え失せ、胸のクリスタルに罅が入り、彼女は私の目の前に倒れ込む。クリスタルと同期しているかのように彼女の全身にも罅が入り、苦しそうに悶える。
『魔法少女の『死ぬ』は二通りある。正体がバレる事とクリスタルを破壊される事。』
「ど、どうやって……!? 魔法少女に変身すれば元の人が誰だか分からなくなるはず」
額に流れる血を拭きながらゆっくりと立ち上がり、未だに笑みの絶えない表情で一瞬で立場の逆転した彼女の顔を覗き込む。
「簡単な話だよ――」
先に変身を解き、学校へ向かったが校内に入ることはせずに正門前でひっそりと監視し続けていた。魔法少女の言動からして同じ学校の生徒に違いない。そう考えての行動。二時間張り込めたのは正解だった。
そしてその後に正門をくぐった人数は十一人。そのうち魔法少女になれるのは五人。二人は同じ学年の知り合いで関西弁や『ダメダメ』などは多用しない。残りは他学年の三人、ウィルネさんに協力してもらい関西弁と口癖を調べてもらった。中庭で昼食を取る時もこっそりとターゲットの話に聞き耳を立てて口調で判断をした。
正直に言えば魔法少女に変身し、その姿が見えていた最初の時点でウィルネさんに彼女の名前を告げれば殺せたのだが、それでこんな勝ち確定の戦いを終わらせるのもったいないと考えたから戦ったのだ。
「――全く……人使い、いやウィルネ使いの荒い魔法少女だよ」
優雅に、それでいて楽しそうにいつもの気味の悪い笑みを浮かべたウィルネが姿を現す。徐々に罅が身体を壊していく様をまじまじと見ながら彼女の周りを飛び回った。
「いや~それでも凄いね。着実に願いへ近づいているよ」
毎回この時のウィルネの顔が嫌いだ。どこまでも深いその目に恐怖を覚え、明らかに想像できる範囲よりも深く、広い野望を感じる。妹を目覚めさせる事が出来るのならば良いが彼に、いや得体のしれない彼らに魔法少女となり協力する事に嫌な予感を覚え始める。だが、そんな気を見えなくするほど甘い条件。
全身に罅が入り、涙を流しながら何かを呟く彼女に目を向ける。彼女の願いは今潰えた。そして私の願いはまた一歩進んだ。けれど、薄く聞こえた『ごめんね。お母さん』という声に胸が苦しくなる。まだ、罪悪感が拭えない。
「このまま行けばキミの願いは叶えることが出来そうだね」
「……頑張ります」
クリスタルの割れる高い音と共に彼女の姿は見えなくなっていた。




