記憶
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「ネヴァ! ひよりの願い決まった! 黙りなさい! これがひよりの願いなの~! 早く叶える!」
「少しでも痛みを和らげましょう……でも、人間の彼女を洗脳して抱く分の力は残しておかなきゃ……」
何人目か既に忘れてしまったが、今日、またボクの就いていた魔法少女が死んだ。彼女は今までにない面白い魔法少女だった。まさか、願いを叶える所まで到達するとは出会った頃は思ってもいなかった。
二人の魔法少女に見守られて彼女は消え去った。そして、まだ彼女を思って動く魔法少女がいる。彼女は凄い魔法少女だ。魔法少女の中でも恵まれている。力を合わせる子は昔にもいた。だが、長続きはしなかった。親友とストーカーを見事に手なずけたのだ。ボクは彼女を忘れる事は無いだろう。
ボクは辺りを見回した。そこに街の姿はない。模倣の魔法少女が天変地異を起こして破壊し、拷問の魔法少女が派手に血をまき散らしたからだろう。きっと何百人と死んだことだろう。この悲劇に絶望し、願い事に唆される人が生まれる。願いを叶えることが出来る魔法少女なんてほんの一握りだというのに、
赤い水面に自分の姿が映った。はっきりとは映らない。だが、この黒く小さい身体でこの世界に存在するはずのない生命と分かるだけで嫌悪は溢れ出る。
今日、ボクは願いを叶えた。ボク同族を元の次元に戻した。ボクが消える可能性もあったが、何万と潜む中で、ボクは当たらなかった。
「ネヴァ! 本当に叶えたの!? なんか光がぽわーって出ただけじゃない! 全部! 全部吐き出して!」
「今回は振り回される側になったね。ネヴァ」
「黙っとけ。それと変な願いはやめろ」
ボクは同族から嫌われるだろう。それでもいい。魔法少女は悪だ。ここにいて良い存在ではない。だが、ボクも魔法少女がいないと生きられない。とても複雑な心境だ。
五感は無くても心はある。意識も、思想もある。だからボクは苦しい。魔法少女が死ぬ事が。魔法少女にしなくては生きられない事が。
今、この瞬間も闇に落ちた彼女は苦しんでいる。ボクがそうした。ボクがそうしてしまった。そしてその苦しみの何割かはボクの力に還元される。なんて酷い生物だろうか、ボクはボクが嫌いだ。
「あぁ、目覚めの場所を探さなくちゃいけないな。無難にベッドで良いだろうか」
騒がしい集団を置いてボクは血溜まりを渡る。お落ちていたステッキを見つけ、不要になったそれを消す。そしてまた進み出す。
「おめでとう。一叶」
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目覚めたら布団の上だった。いつ寝たのか、記憶が無い。そんな事があった。放課後の記憶がすっぽり抜けている事があった。何をしていたのか全く思い出せない。そんな奇妙な記憶に悩まされる日々が続いた。
そしてまた、今日もそれだ。だが、今日はそんな難しいものではい。
「おねーちゃん! ご飯! だよ!」
「分かったから今起きたの許してよ」
妹が目を覚ましたのは数週間前の事、電話が鳴り響き、家族総出で病院に車を走らせた。温かい肌が動き、私を抱きしめてくれた。その腕は弱弱しいものだったが、普通の生活は出来るらしかった。
私の気持ちが全て晴れた。奇跡と言っても過言ではないそうだ。神に愛されていたとお医者さんも言っていた。確かにこんな事は人では出来ないだろう。
妹は急にしっかりし始めた。私の知る妹は可愛くてぴょこぴょこと後を付いて来るような子だったはずだが、今ではおねーちゃんを叱る存在になってしまった。
『――街の復旧の目途は未だ立たず、現在は生存者を探している状態です。十六年前に失踪した福田 紬さんが死亡した状態で見つかり――』
『――さんが十六年間の事故から奇跡的に目を覚ました。上から見ていきます。魔法少女の戦闘で――』
いくらチャンネルを変えてもテレビは同じような話題が毎日のように続き、飽き飽きしてしまう。バラエティー番組にチャンネルを変えて家族四人で食卓を囲む。お父さんも入院代のお金を稼ぐ必要がなくなり、この時間に揃うようになった。
美味しそうな湯気を立ち昇らせ、今日の晩御飯が真ん中に置かれる。いただきますの掛け声とともに全員が箸を進める。他愛もない会話とみんな同じ場所で笑う。そんな幸せな団欒を過ごし、眠りに就く。
ぬいぐるみの大半は妹の部屋にお引越しをしたため、いささか寂しい。どこか物足りなさを感じる。量もそうだが、何かが欠けているような気がするのだ。最近の私はどこかおかしい。そんな事を思いつつ、静かに夢に落ちる。
朝の陽ざしを受けて私は目を覚ます。携帯のアラームを手探りで探しながら止めて数分間は布団に包まる。そうすると妹の駆け上がって来る足音が響き、起きてましたと言わんばかりに身体を起こす。
そして、完全に目が覚めないまま家を出て駅を目指す。だが、私は分かれ道で脚を止めた。何かに強く呼ばれるような気がした。誘われている。駅への道とは違う方向に脚を踏み出し、直感で進み続けた。いつの間にか気味が悪く、通った事のない路地裏に足を踏み入れていた。
だが、私は導かれるように初めて入るはずの道を迷うこと無く進み続け、どこまでも暗い路地を突き進んだ。ビルの間は日の光が届かず、建物の壁には深緑色のコケがびっしりと生え、時折水滴が静かに落ちる。排気口からは油と鉄とが混ざり合い、嗅いだことの無いような変な匂いが鼻を刺激した。明らかに人間が通るような場所ではないのが分かる。
太ったネズミが横を逃げていき、私は声も出せずに固まった。引き返すべきと頭では理解しているが、なぜかこの先へ進むべき気がして、抗う事をしなかった。何本もの分かれ道を抜け、自然と足が止まる。
何も無い汚い路地裏かと思えばガサゴソと何かが動く。またネズミが地面を這っていると思った矢先、ぎょろりとした、気味の悪い単色の目玉がこちらを向いた。ネズミのように気持ち悪い登場に思わず小さな悲鳴を漏らした。
一歩後ずさりし、その場を離れようとするとその小さな体がフワフワと空中に浮き始める。暗い路地の光がそれの全身を照らし、その異形の二頭身の姿に、逃げる脚が止まる。
「……やあ、ボクはウィルネ。魔法少女を導く存在だよ――」
「おはようございます。ウィルネさん」
この度は『魔法少女と願い事』のご愛読ありがとうございました。色々と小説は書いていたのですが、今回初めて最後まで書き切りました。半分処女作ですね。
語りたい事は沢山あるのですが、長くなりそうなので……コメントなどは返していくので是非評価等よろしくお願いします。
これからも色々書いていくので天然無自覚難聴主人公をよろしくお願いします!!




