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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第十話 『魔法少女と願い事』
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願い事

「鉄の処女!」


 私の視界が暗く閉ざされ、雑に振り回されて光が差し込む。ひよりが駆け寄り、私の胸に能力をあてがう。既に息は上がり、まともな呼吸すら出来ていないのにも関わらず、ひよりはむせび泣きながら唱え続ける。


 彼女も今頃能力をフル活用して延命を図っているだろう。だが、私はもう既にそれを受け入れた。青空を眺め、真っ赤な血の溜まる場所に寝っ転がるのはどこか神秘性も感じる。こんな大量の血を浴びるのもこれで最後となった。


「ウィルネさん……粉々になって消えるまではセーフですよね?」


「……あぁ、キミのお願いを何でも叶えてあげるよ」


 ついさっき、変な願いを叶えてしまったが、私の願いはそんなものではない。私が魔法少女になった理由、私の願いはただ一つ、


「妹の目を覚まさせてください。元気な妹とまた一緒に遊んで笑い合いたいです」


「いい願いだ。キミの願いを叶えてあげよう」


 そう言うとウィルネさんは胸から光を取り出した。私に与えたような黒い光ではなく、それは真っ白で、とっても眩しい光。願いの叶う瞬間だというのに目を瞑ってしまいそうな程の眩しく、温かい光。それはそっと青空に浮いて行き、眩しく光って消えた。


「綺麗ですけど、案外質素なんですね」


「まだ、キミが溜めた力は少し残っている。少しでも痛みを減らすかい?」


 私は静かに首を横に振った。少し動くたびに罅が全身に広がる感覚がする。ひよりもそろそろ限界だろう。拷問の魔法少女はすることが無くてしどろもどろしているだけだ。


「二人とも手伝ってくれてありがと。魔法少女の時に交わした約束は覚えられないから、守れないや」


 拷問の魔法少女が涙を浮かべる。私とエッチなことが出来なくてそんなに悲しいんだろうか、人間の時に合った事はあるが、それも薄い記憶になってしまうだろう。


 罅が首辺りを走る。まったく痛みは感じられないが、いよいよ終わりを悟った。最期の死に場所はとても血なまぐさい。魔法少女の定めだろう。悪に華々しい死が訪れることは無い。


 私はふっと思い出し、空中を浮遊して静かに私を見下ろすウィルネさんと目を合わせる。それにウィルネさんも気付いたようで首を傾げる。魔法少女の痛みは全て受け入れる。それが罪を晴らす方法だから、けれどそんな罪はない方が良い。


「最期にウィルネさんの願いが叶う瞬間を見たいです。これも前にお願いしましたよ?」


「……そうだね、いずれはこの世界から全員淘汰させるんだ。今日少し削っても変わりない」


 ウィルネさんはそう言ってもう一度胸に手を当て、光を取り出す。私の何倍もの光の量だった。何年間その願いを叶えるために死別を繰り返したのか、想像も出来ない。私は願いを叶えちゃったから貢献度はそれほど大きくないが、ウィルネさんの努力と苦しみがその光から伝わった。


 太陽のように眩しいそれはゆっくりと青空に上り、私の視界を真っ白にして弾けた。その眩しさに私は目を瞑ってしまったが、私はそれを見届け、暗い闇に落ちた。


 ――感覚が無い。どれだけ手を伸ばそうとしても手を伸ばした気がしない。脚をバタつかせたり、何かを掴もうとしたり、色々と動かそうとするが身体を動かしている感覚が無い。


 まるで魂だけが深い水の中にいるような感覚。まだ魂が受け入れていないのだろう。私には身体があり、五感があり、人間の形をしていると思っているのだろう。私は死んだ。他の魔法少女と同じ様に、砂のように風に流される程小さくなった。身体は消えてしまった。


 温かい。けれど、周りはとても冷たい。震えてしまう程に冷たくて、不安になってしまう程に寂しい。何も見えない。


 温かいものは私以外に何もない。だからだろうか、冷たい何かが私に近づいてきている。私はそれに掴まれ、魂が引き裂かれる。


 痛い。


 冷たさが、冷酷さが、不安が、嫉妬が、恐怖が、怒りが、引き裂かれた傷口から入り込み、私の魂をぐちゃぐちゃにする。


 痛い。


 今まで向けられなかった全てが私を殺す。願いを潰した罰。人生を奪った罰。取り返しのつかない過去が私に刃を向けた。


 痛い。


 私の記憶の一秒を、私の歩いた一歩を、そんな刹那まで全てを恨まれ、引き裂かれる。私から温かみが流れ出て、傷口は広がっていくばかり。


 大量に流れだした私の熱はこの冷たい海に広がらない。どうしてか一本の糸のようになり、暗い暗い奥底へ垂れていく。まるで、誰かがその糸を巻いているように乱れる事なく、引き込まれていく。


 私に刻まれた記憶の半分が粉々に引き裂かれたころ、真っ白な光が私を照らした。右と、左。この二つの光が私の魂を全て照らしてくれた。この光は見覚えがある。とっても眩しくて温かい光。


 それは私の痛みを消してくれた。魂が引き裂かれるのは魔法少女の定め。願いであっても覆すことの出来ない宿命。けれど、痛みを受け入れる必要は無いようだ。


 段々と意識が遠のいていくのを感じる。魔法少女としての肉体が消えたのだ。この精神と共に記憶も消えていき、魂だけとなる。そして、人間の身体に戻るのだろう。なら、呪文を唱えなければならない。魔法少女から人間に戻ため、最初に教えてもらった言葉。


『反転の星に願いを……エレウテリア――』


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