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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第十話 『魔法少女と願い事』
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私の過去と願い事2

 全てを味わっていたからその違和感に気付いた。その音は止まる事なく聞こえ続け、その違和感に目を向ける時にはもう遅かった。


 彼も避けようとしたのだろう。だが、私という存在が邪魔になってしまった。それを避ける事は叶わず、衝撃と共に視界が飛ぶ。初めての感覚だった。全身が内からではなく、外から痛いのは初めてだった。空中を彷徨い、滑るように地面に倒れた。皮膚が裂け、骨は折れた。初めて味わった痛みは動かす事すら出来ない痛み。頭が、脳が、その機能を失い始め、視界が、音が、意識が失われていく。


『つ……つむ、ぎ――』


 どこかで私の名前が囁かれた。はっきりとは聞こえていない。幻聴かもしれない。今の私は周りの騒然とする音さえ遠く感じるのだから、


 だから確かめたい。私の名前を呼ぶのは誰なのか、本当に彼なのか、彼の状態を、何としてでも――


『それは、願い。私は叶えてあげることが出来る』


 聞いたことない声が響く。そう、これは願い。彼の状態を確かめたい。彼と公園に行きたい。病気に耐えて来た。辛くても苦しくても、彼が来てくれるから彼が話してくれるから耐えれた。私は不幸な子だったけど、恵まれていた。


 痛みという感覚さえも次第に消えていく。視界が赤く、暗く閉じていく。痛みという海に落ちたようだ。音も何もない。ただ、全身に感覚が突き刺さるだけ。逃げようがない、諦めて深海に落ちて行けば楽になる。けれど、そんな事は考えたくもない。


『幸せを映して……トランスフィグラーレ』


 その言葉を唱えた瞬間、心臓が張り裂ける。何度か体験したことのある内からの痛み。釣り針が海に沈む私を無理矢理引き上げるような、張り裂けてしまう痛み。私は身体をうねらせた。その痛みにもがき苦しんだ。


 だが、不思議だ。痛みがある。張り裂けるような痛みが。もがいている。粉々に折れた身体を動かして。視界に赤い血が映り込む。私の身体が生暖かい血に浸れている。鉄の匂い、鉄の味、悲鳴。頭が、脳がその機能を取り戻している。


『魔法少女を殺す。力が溜まる。そして、彼と貴方を救うことが出来る』


 痛みの消えた身体を起こした。身体が軽かった。初めてだった。立つことさえ儘ならない私が引かれてもなお生きて、気分が良い。そんな事を不思議に思いつつも私は彼を確かめた。


 けれど、私の知る彼の姿は無かった。私の知る人の形でもなかった。真っ赤な血はゆっくりと地面を侵食していく。やがて私の血とそれは混じり合い、私たちを結んだ。


 私は歩き方を忘れた。身体が駆け寄ろうとするが、動かない。気持ちだけが、想いだけが先走る。人だった頃と同じように脚を引きずり、必死で手を伸ばし、転がっている手を繋ぐ。


『願い。果てしなく長い幸せの道のり。けれど、貴方は歩む』


 また知らない声。けれどそれの言う通り、私は願う。二人の幸せを。けれど、それは難しい。彼は死んでしまった。私も死んでしまう。もし、変身を解けば死にかけの人間になるからだ。


 願いで傷を癒し、願いで彼を生き返らせ、願いで私の身体を直さなければならない。けれど、時間が足りない。願いで寿命を戻し、殺して力を溜めなければならない。


 全国を回らねばいけない。強い魔法少女を殺さなければならない。若い芽は摘んではいけない。必死で、必死で、必死で願いを叶え続けた。


『まだ、報われない……休めない……死ねない……疲れた……』


 けど、でも――叶えたい。


 ***


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