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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第十話 『魔法少女と願い事』
65/69

私の過去と願い事1

 ***


 何年間だろうか、私はもう自分で数えるのを諦めた。どうせテレビや新聞を見れば何年生きたかなんて分かるから、何年経とうと私には変わらないから。

 そう、私は魔法少女として生きる道を選んだ。そうするしかなかった。それ以外に方法は無かった。


『うん。今日もバイタルは安定しているね。もし明日も安定していた久しぶりに外に出られるかもよ』


 私の視界はいつも真っ白だった。見慣れた、見続けた白い天井。けど、その真っ白な視界にいつも私は青空を思い浮かべて過ごしていた。またいつか青空のしたを歩きたい。太陽が燦々と輝く空でも、どんよりと暗い雲が覆う空でも、雨でも雷でも。一番は雪の日を外で過ごしてみたい。何でもいいから外に出たい。


 今日もそう願い、前回も前々回も叶わなかった。一年に片手で数えられる数しか外には出られない。とっても元気になる日が時々ある。その時しか信号を渡ることも出来ない。


 一生のうちに信号を待つ時間は一ヶ月以上あるらしい。私はそんな無駄な時間を過ごしてみたい。何もすることない、優雅な時間。ここに来るみんなは要らないと言うけれど、私は欲しい。


 そんな事を思いながら私は白い天井に投影した映像の世界を夢見る。ほぼ変わらないこの視界には飽き飽きしてきた。テレビの位置も、腕に刺さる針の数も、それに繋がっている液体が減っていく速度も全て見飽きた。


『おーす、久しぶりだな』


 何度も何度も見た顔の男の子。けれど彼は飽きない。いつも面白くて、いつも楽しい。私も常識的に分かるというのに彼はオーバーで嘘かと思う話してくれる。そんな彼の話がたまらなく面白い。けれど、私は見たことが無いからほんの少しだけ彼の言う事を信じてしまう。


『知ってるか? 三丁目の犬がチワワなのにめっちゃでっけーんだぜ! 熊ぐらいデカいのに可愛さはそのままなんだぜ』


 私はチワワを知っている。テレビで見たことがある。とっても小さくて、とっても可愛い見た目をしている。いつか撫でてみたいと映る度に思っている。だが、そんな熊のように大きいのは知らない。


『はは、そうだな。お前の言う通り今回は度が過ぎたな。けどよ、俺と同じくらいはデカいぜ!』


 その明るい表情を何度も見たことがある。何度見ても眩しくて、いつでもその瞳は輝いている。彼はたんこぶを初めて触らせてくれた事がある。とっても痛いらしい。彼はカブトムシも触らせてくれた。彼は甘いお菓子をこっそりとくれた。彼は私にトキメキを沢山くれる。初めてをくれる。


『明日ね、もしかすると外に出られるかもしれないんだ。あんまり遠くには行けないけど、』


『まじかよ! 早く言えよな、そういうの! この病院から一番近いのは……あっ、向かいの公園にめっちゃエロい銅像があるんだぜ! なぜかスッポンポンなんだよ』


 そんな物があっても私一人では気にも止めないだろうだけど、彼から出た言葉にはとても興味が湧いてくる。エッチなのは良くないが彼がどんな子が好きなのかは気になる。銅像でそれが測れるかは定かではないが、


 時間になると彼は嬉しそうに手を降って帰って行った。本当はもっと色んな話を彼から聞きたかったが、時間は決まっている。けれど私は寂しくない。つまらなくもない。明日のことを思い浮かべれば心がドキドキとする。けれど全く苦しくない鼓動。


 白い天井も夜になると黒くなる。実際に色は変わっていないが、そこにある天井は真っ黒で何も見えないからだ。それでもそこには明日の青空が広がっていた。そして、私は眠気にゆっくりと飲み込まれて行き、目を閉じた。


 次に目を開けるのたのは次の日だった。黒い天井もすっかり白くなり、優しい日の光が空間を照らす。どこも痛くない。どこも悪くない。今日は外に出れそうだ。この光を、外の空気を、外の物を、この目で窓を通さずに、今日の空気のままに、見たことのないものを沢山見れる気がする。


『うん、いい感じだね。外出許可も出るよ。このまま安定すれば退院出来るんだけどね〜それはもう少し様子見かな』


 それでも良い。今日と言う今日を楽しめるのならばそれで良い。私は胸を躍らせた。腕が開放され、ベッドから開放され、一時的だが自由を得た。時計の針を見れば昨日約束した時間が差し迫っている。私は一着の服に腕を通し質素だか彼に見せても恥ずかしくない服に着替えた。


『――元気か!?』


 勢いよく扉が開き、私の待ち望んでいた彼が姿を見せてくれる。いつもと変わらない面白い事が書かれた服。走って来てくれたのか少し息が荒い。けれど、自由となった私の姿をみるなり、大きな笑顔を浮かべて疲れなど吹き飛ばしてしまったようだ。


 小さな力で思いっきり車輪を回して彼に近寄る。今ではもう上手に方向転換も出来るドライブテクニックだ。彼は心配性なところがあるため私を連れて行く時はとてもゆっくりと歩く。ドリフトの一つはしても良いと思うが彼はそれでもと言う。


 ゆっくりと押される車椅子に揺られながら病院の外へ出る。空気が変わった。館内の薬剤の臭いが私に染み付いてしまったのか、まだ私に纏わりついた臭いが鼻腔を通る。それでも外の空気は負けじと私を包んでくれる。


 あの時は春の日だった。穏やかな日差しが私を直接照らし、春の風が私をくすぐる。館内と温度も湿度も違う紛れもない春の日。私はそれを一歩目から味わった。空を見上げれば雲一つない青空に眩しすぎる太陽が輝いている。私の真上にある太陽は天井の外にいる私を照らしてくれる。


『今日は散歩日和だな! 銅像にも光が差して隠されるかもなー』


 彼が何を言おうとしているのか、私は分からずに首を傾げた。『まだ早い』

 と同い年なのに知った口で語る彼を可愛く思えた。私の方が頭は良い。


 病院の敷地から出ると道がガタガタとして身体が小さく揺さぶられる。この感覚も実に面白い。信号で鳴く鳥のさえずりも心地よい。桜の花が舞う姿は美しい。私は閉じ込められていた五感を全て使って外の世界を感じる。


 目的地の公園が見え始め、まだ薄い緑の木々が風に揺れている。信号も緑、今回は鳥のさえずりではなく、甲高い電子音だ。そして車が走る音――


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