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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第十話 『魔法少女と願い事』
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黒い魔法少女。

 そんな言葉を言い終わった直後、頭上に剣が降り注ぐ。ひよりの『ディレイ』という言葉に合わせてそれは物量法則を無視してゆっくりと落ちる。私は左翼から拷問は右翼から同時に回り込み、攻撃を仕掛ける。模倣の魔法少女にも硬直が起こるが、それは一秒もすれば動き出す。


 鉄を引きずる音が、鉄を弾く音が、何度も何度も響き渡る。肌が傷つく音などない。互いにギリギリをせめぎ合う。空を切る音が、地面を穿つ音が鳴りやまない。

 鳴り止むのは私たちが勝った時だけ。


 身体が重力に押しつぶされそうになるが、彼女の間合いに踏み込めばそれは消える。重力操作は範囲攻撃だ。彼女は受けたくないデバフ、近づけば消える。そうやって一歩一歩そのクリスタルに近づいていく。


「煙幕。重力操作、聖剣!」


 視界が白く染まる中、私の身体は赤く染まり、地面を汚す。見えなければ入れ替えが使えない。この視界の中では私は何もできない。ひよりと拷問は防げるが、私は――


 白い視界が暗闇に覆われ、鉄を弾く音が頭上に広がる。私はすぐに状況を理解して呪文を唱えて変身を解く。解けた瞬間にまた魔法少女となる。ウィルネさんはこれをやはり快く思っていない。こうする度に口を挟む。


「いいんです! 今、この中で一番劣っているのは私ですから……この後のことなんてどうでもいいんです!」


 私は扉を蹴り開け、戦場に戻る。位置を入れ替えて、入れ替えて入れ替えて、避けれなくて傷ついて、かすり傷を無視して、入れ替えて入れ替えて替えて替えて、脚を無くしてまた暗闇に入る。


 また解いて、変身して、指と脚を取り戻して外に出る。ひよりは良くやっている。私より傷ついていない。単に才能があるからか、与えられた力が強いからか。拷問の魔法少女も凄い。長年の経験か、溜めてきた力の強さか。やっぱり、私は――


 傷付いて、汚して、失って、助けられて助けられて、それでも暗闇に戻って来る。


「…………」


「焦りすぎだ。落ち着いたほうがいい。キミには叶えたい願いがあるんだろ?」


 真っ暗な世界に優しい声が響く。私は顔を上げだ。その真っ暗な世界に黄色く光るものがある。そこにはウィルネさんがいる。


「――私に……私に力をください! 私は力が欲しい!!」


 私はその光を掴んだ。決して離さないように固く抱き寄せた。絶対に見失わないように大きく見開いた目でその光を見つめた。その光の中に映るのは人間ではない。黒く、荒み切った黒い魔法少女。


「考え直すんだ。力を得れば痛みも増える。それに、今のままでも勝てる」


 分かっている。ウィルネさんは魔法少女が嫌いだ。無駄な痛み、無かったはずの戦い、奪い合う苦しみ、ウィルネさんは魔法少女が消えることを願っている。私がこれ以上傷付かない事を願っている。


 けど、関係ない。私の願いは力を得る事。私の願いは模倣の魔法少女を殺す事。だから力がいる。私の今までを賭けて模倣の魔法少女を殺す。


「今までの溜めた力を全て私の能力に当ててください。早く!」


 ウィルネさんには私の願いを叶える義務がある。この願いを断る事は出来ない。そして、ウィルネさんはその黄色く光った目を閉じて黒い光を生み出す。ウィルネさんを握る手から流れて来るそれは変身を解除しなくても私の傷を治していく。骨が形成され、神経が血管が肉がそれを覆っていき、私の見慣れた腕となる。感覚がある。温かみがある。私はその治った手でウィルネさんをさらに抱き寄せた。


 そのムニムニとした身体は私の力によって凹む。だが、ウィルネさんは逃げない。逃げれない。私の願いを叶えているから。


「まだ、まだ足りませ――」


 そう言いかけた途端、真っ暗だったこの空間に光が差し込む。真っ二つになった鉄の処女はずり落ちて私の姿を表に出した。ウィルネさんの姿もない。だが、多少なりとも力は得た。私の身体を目まぐるしく迸る力が今までに無かった自信を出させる。


 私は横たわっている身体をゆっくりと起こした。それは蛹が蝶に進化するようにゆっくりと、眠りについていた眠り姫が起き上がるように優雅に、私は生まれ変わった。


「モルティフォルス――」


 直感で思い浮かんだ言葉を口にした。その瞬間に私を中心とする円が浮かび上がり、脳内に大量の情報が流れ込む。この領域内にある直径五センチ以上の物の位置を全て把握した。そう、この領域中の物には全てキューブと同じ権能を持たせることが出来る。


 直径は十メートル程度だろうか。それだけでも頭が痛い。神経が焼ききれてしまいそうだ。上空の限度がほぼ無いのは五センチ以上の物が空中に無いからだろう。


 私は立ち上がった。変身を解除していないから服は汚れたままだ。血が滴り、袖は切れている。私は囁くような声で唱えた。その瞬間、視界から模倣の魔法少女の姿が消える。だが、場所は分かる。私の真後ろだ。彼女も五センチ以上の物体、条件は満たしている。


 振り返ると剣を振りかぶる姿勢が目に入る。だが、当たることはない。彼女と私の位置を入れ替えればいいだけの事。そして、空を切る音が響く。どれだけ後ろにいる私に剣を振りかざそうと当たることはない。予備動作なしに発動が出来るこの入れ替えは何よりも速い。


「二人とも離れて、使えそうなのが入って来たから」


 離れた事を確認し、私はまた入れ替える。真っ青な空の中に唐突に出現し、ゆっくりと落ちる。いつもより空気が薄い。私はそれに耐えられずにすぐに位置を入れ替える。


 大空を見上げ、地上に寝っ転がる。重力がいつもより重い。力の量によって魔法少女の肉体強化が入るのだろうか、圧迫感はいつも通りだが、痛みは少ない。焦げ臭い臭いに咳き込みながら身体を起こし、模倣の魔法少女を眺める。


 地面に転がり、義手と王冠は大破している。その手前に火を噴くヘリコプターが音を立てながら潰れている。無論、私がやった事だ。偶然テレビか何かのヘリが私の領域内に入ったので入れ替えたのだ。


 そんな静かに倒れる彼女を見て愉悦に浸る。私は勝ったのだ。彼女に勝ったのだ。願いが叶った。あとはクリスタルを破壊するだけ、


「楽ね。アナタは溜めた力をそんなくだらないモノに使えるなんて」


 私は思わず脚を止めた。くだらないという言葉が私の逆鱗に触れた。私の願いはくだらなくない。言い返して、さっさと殺そうとした時、私は一歩も動けなかった。


 私がさっきウィルネさんに願った事、溜めてきた全てを使ってやろうとした事。それは実にくだらないものだった。


「……必死なの、私は生きるのに必死なの。貴方と違って!」


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