あの魔法少女を殺せば
「あたしが何とかする! 道作れ!!」
灰色の魔法少女がキレながら大声を上げ、それに応える様に五メートルを超える鉄の処女が生い茂る木々をへし折る。落ちて来る武具も止まったかのように遅くなる。それぞれが彼女の道を作る。その先のバナナトラップに気付き、私はそれと入れ替わる。
「ちょっ! いきなり現れるな!」
少し怒りながらも、その顔には笑顔が浮かんでいた。彼女は今誰よりもこの状況を楽しんでいるのだ。格上に拳をぶつけられる。それこそが彼女の戦う理由。私には全く分からないが、手を貸してくれるならば問題は無い。
「ちゃんと止めてよひより!」
大きく元気な返事が響き、私が踏んでしまった地雷の起爆が遅くなる。赤い火花と衝撃波がゆっくりと広がっていく様を見送りながら走る。数秒が経つと大きな爆発音と共に衝撃波に身体を押される。だが、まだ遠い。私は拳を握りしめる彼女の手首を掴んで唱える。
「インヴァート!」
上空はさらに空気が薄く変化している。ウィルネさんも張り切っているのか、いつもの高度より高い。ここから地上に落下する間はまともな呼吸は出来ないだろう。だが、そんな事は灰色の魔法少女には関係のない。落ちていく中、全身を包む冷たい大気に小さな氷が混ざっていようと関係がない。
視界に入る一面が全て模倣の魔法少女の領域。あの氷も、森林も、その全くあり得ない光景は私の目に鮮明に映った。その力の大きさを知った。
あの魔法少女を殺せば――叶えられる。
「俺がその身体に穴ぶち開けてやるよ!!」
そう言いながら真っ直ぐに彼女は模倣の魔法少女の下へ落ちていく。私はキューブと入れ替わり普通に着地する。呼吸がいつもより狂う。肺に入る冷たい空気が喉を乾かし、痛い。
叫び声が響き、発生源に目を奪われる。彼女は肉体強化の域を超えていた。私の目に映るその姿は隕石とでも言えばいいのか、彼女は赤い輝きを放ちながら落ちていく。
そして、それを避けようともせず、毛布に包まりながら座り続けながら真っ向から受け止めようという事だろう。今まで以上に大きくて分厚い盾を展開し、防ごうとしている。
小癪にもその大きな盾の後ろに中くらいの盾の二段構えだ。灰色の魔法少女は腕にその力を乗せる。つまり二回しか重い攻撃を出せない。彼女の視点では背後に隠されたもう一つの盾に気づけない。
だが、言ったところでもう止められない。彼女は大きく振りかぶり、左腕に溜めた力を使って一枚目を壊す。音と衝撃が伝わり、二枚目を見て驚く表情顔が伺える。
「知ってたよ!」
体勢を立て直し再度振りかぶる。そして、二枚目の盾を破壊する。大量の血が噴き出し、本来ならば意識を保つことも困難だろう。頭で鉄を破壊したのだから――だが、彼女は止まらない。止められない。
「終奏! インサニアグレイス――!!!!」
突き出された拳は今までの攻撃の全てを超えるだろう。私が見てきた攻撃を遥かに超える衝撃が私を吹き飛ばす。木々が根っこからへし折れる音が至る所から聞こえ、地に広がっている氷が大きな割れ目を作り、その裂け目を広げていく。地面が大気がそこにある全ての物がこの衝撃に悲鳴を上げた。
段々と二人の姿を隠していた土埃が晴れていく。あれから二人が動き出す音はしない。どちらか一方が行動不能になったと考えるのが妥当。そして、あの灰色の魔法少女が勝った瞬間に叫ばないなどあり得ない。
そして、私の最悪の予想は当たる。私の目の前に映ったのは拳を突き出したまま動かなくなった魔法少女、そして袖を真っ赤に濡らした魔法少女が立っていた。私は辺りを見回して探した。すると丁度後ろから何かが潰れるような嫌な音が聞こえた。ゆっくりと私は振り向いた。それが何であるかの予想をしながらも、それでない事を祈りながら。
だが、またしても私の予想は当たってしまう。それは私が探した灰色の魔法少女の首だった。高く打ち上げられ落下したのだろう。頭蓋骨が陥没して潰れている。衝撃で中の物が飛び出し、小さな血溜まりを作る。
「痛かった……いい能力」




