模倣の魔法少女
朝九時。私は一軒家の立ち並ぶ街並みの中でも少し背の高いマンションの屋上に立ち、遠くを眺めていた。予報ではこの時間帯にここを通るだろうとテレビでは言っていた。台風かよと思いながらもその災厄は台風よりも強いだろう。
日曜のこの時間帯は交通量が多いい。都心に遊びに行くのだろう。ここからでは小さく見える人間がはしゃぎながら歩いているのが見える。私は吹く風を感じ、夏の熱気に汗を流す。今から始まる殺し合いは遊びではない。そんな当たり前の事を考えながら大きく息を吸うう。
暑さから来る汗に紛れる不安の冷や汗を拭い、心を落ち着かせる。感覚を鋭く、視野を広く、小さな音を拾い、異変を嗅ぎ分け、最後には勝利の甘美を味わう。
小さく息を吐き、肩を下す。胸のクリスタルに手を合わせ、妹を思う。私が戦う理由を、私が止まれない事をもう一度頭に叩き込む。
「おっ待たせ~」
「貴方がですか……彼女は私と初めてを迎えるのですから」
「揃ったね。じゃあ、願いの為に殺しに行くよ……!」
と言ってもどこから来るかは分からないため、三人で感知できる範囲をカバーしあう。一定の距離を離れ、各自で気配を探し、出会ったら大きく戦闘を開始する。助けが来るまでは一人で持ちこたえなければならない。だが、実力は申し分ない。誰一人欠ける事は無いだろう。
「さて、ウィルネさん反応はあります?」
「今の所ないね。だけど、何かは感じる。どれだけの力を持ってうろついているのか」
私の所に来ても良いように周囲に何個かのキューブを置いておく。だが、この逃げのキューブを使う事は無いだろう。私は今日、殺すか殺されるかの二択以外で終わる事はしない。
「……!! 反応があった。この道をまっすぐ進んだ所に魔法少女が一人いる」
ウィルネさん達の探知はいる事が分かるだけ、この反応が目当ての『模倣の魔法少女』かは分からない。急いでウィルネさんの指す場所まで跳んで行く。だが、分かる。これは『模倣の魔法少女』だと。感じる。この先にいるのが化け物だという事を、この先にあるのは死だという事を。圧倒的な圧を感じる。だが、私の脚は止まる事も、引き返す事も忘れた。
そして、ついにその姿が肉眼に映る。
目に見える。姿ではない。彼女の圧が、凄さがオーラの様になって可視化されている。全身に鳥肌が立ち、思わず身震いをする。これ程の魔法少女が存在するのだと、そして私はこれからこいつを殺すのだと――全身が高揚する。私は知らぬ間に口が吊り上がっていた。ウィルネさんの様にどこまでも大きく、明く、不気味な笑みを浮かべていた。
その私を見ても彼女は表所を一切変えない。私をまるで気にしていないかのように同じ足取りのまま進み続ける。
腰まで真っ直ぐに伸びた癖のない綺麗な白髪が白いリボンの髪飾りと一緒にふわりと揺れる。そして月光を宿したような白銀の瞳。キリっとしているわけで無いが、しっかりと焦点の定まっている眼つき。そして、その瞳には私など眼中に無い。
素足で道を歩き、一切の音も出さないが、目を閉じていてもそこに彼女がいると分かる。どこまでも色白で、太腿まで細い脚。身長も低く、童顔の顔と相まって一層幼く見える。そんな小さな身体を薄絹の様な白生地がこの純白を隠そうとヴェールを下ろすように守る。だが、その小さな身体には少し大きかったのか、滑り落ちたかのように綺麗な首回りと肩を露出させ、その様子が一層優艶に見える。
レースの細やかで軽い装飾が施され、ただ白い一枚服だというのにドレスの様に美しい。そして、胸元のクリスタルが真っ白な世界に青く輝く。恐怖と色香の混じり合う異質な空気が彼女の周り漂い、息を呑む。
「おいおい……ここまでの相手だとは思わなかったぜ……!」
彼女に気を完全に取られていたが、横から聞こえる声に我に返る。声のした方向にステッキを向ける。当たり前だ。私達以外も殺しに来る。だが、その声の正体は見た事のある姿だった。
学校の制服の様な衣服。どちらかと言えばスケバンの服によく似ている。長い丈のスカートを履き、唯一不良でない所と言えばクリスタルの上にある少し大きなリボンだけだ。
灰色に薄汚れた包帯が巻いてある両腕を打ち鳴らし、大きな声で笑っている。そう、前に炎と雷に一緒に戦った通称『灰色の魔法少女』だ。
「え、来てたの!?」
最初に出会った頃の様な鋭い眼つきで睨まれるが、すぐに私だと気づき屋根から降りて来る。
「また会ったな~生きてたのか! お前ならいいや、コイツ殺すぞ先に殺した方が勝ちな」
「いや、もう私他に協力者いるんで!」
「あっそ、なら早い者勝ちなッ!」




