助ける為に魔法少女になった
家に帰り、テレビを付ける。夕ご飯ももうすぐ出来るらしいので、リビングで時間を潰して過ごす。
『――続いてのニュースです。不老の魔法少女が五年ぶりに関東地方に侵入しました。現在は東京に向かって進行中です。早ければ明後日の日曜日にでも区内に入る見込みです』
画面に一瞬だけ映るブレブレなその姿は真っ白で飾り気のない衣服だった。たった一個、胸にあるクリスタルだけが光を放つ。その身長からして十才程度だろう。もし、不老が本当ならば実年齢はいくつになっているのだろうか。
今すぐにウィルネさんに聞きたかったが、お母さんのもいるし丁度ご飯も出来たので後回しにする。画面をまじまじと見続けるウィルネさんは気になるが、ここで話しかけるわけにも行かない。久しぶりにウィルネさんの真剣な表情を見た気がする。
そんなニュースも過ぎて、お母さんと一緒に団欒しながら食卓を囲む。出来立てのご飯から白い湯気が立ち、慣れ親しんだお母さんの味を堪能した。
食べ終わり、『ごちそうさまでした』といって自室に戻る。この空間には私一人しかいない。一息ついて私は話しかけた。
「何かあるんですか? 不老と言ったって人を殺す能力じゃないですよね?」
「あぁ、確かに『不老の魔法少女』は存在する。だが、不老は何の役にも立たない。攻撃手段がないからだ。だが、今テレビに映っていた魔法少女は『不老の魔法少女』なんかではない」
いつになく真剣な表情。そして、いつになく深刻な表情。汗を掻かないウィルネさんだが、その焦り具合は滝の様に冷や汗を搔いていてもおかしくなさそうだ。
「彼女には絶対に一人で近づかないでくれ。キミの計画も、私の計画も全て崩れる。絶対に二人以上で尚且つ同伴者を殺す覚悟を持ってくれ」
大抵の事は放任主義だったウィルネさんが『絶対』という言葉を使った。私が願いを叶えるために一人で突っ込み、死ぬ分にはウィルネさん自身も問題は無いはず。というよりそちらの方が良いはずだ。それでもウィルネさんはそれをするなという。この状況に思わず固唾を呑む。
「『不老の魔法少女』じゃないなら彼女は何なんですか……?」
「それはボクも分からない。ずっと避けて来たからね。だが、一つ言える事があるとするならば、ボクはあの姿の魔法少女から十五年以上逃げている」
一瞬私の思考が止まった。ウィルネさんの言葉を疑った。魔法少女の寿命は八年間だ。十五年はあり得ない。不老であってもすぐに殺されて人が変わる。あの姿のまま八年以上魔法少女として生きるのは不可能。
「彼女を一度見たことがある。見ただけでもその能力は十種以上だった。多分、『模倣の魔法少女』だ」
つまり、模倣の魔法少女は執拗に不老の魔法少女を追いかけてその能力をコピーしたという事だろうか。それならば長生きの理由も筋が通る。
「ねぇ、ウィルネさん。そいつ倒したら私の願いは叶う?」
「……今まで溜めてきた力を無駄使いしなければ足りるだろうね。後遺症も何もなく」
私は笑みを浮かべる。それはもう満面の笑みだ。対照的にウィルネさんは未だに気難しい顔をしたままだ。勿論、ウィルネさんの言う事も聞く。一人ではいかない。ひよりは連れて行くつもりだ。私が死んだとしてもひよりが叶えてくれるかもしれないからだ。そして、もう一人連れて行くことも可能。勝ち目がないとは思わない。
「日曜日に殺しに行きます」
怖い。確かに怖い。けれど、これは最後のチャンスかもしれない。このまま彼女を避けて力を溜めて行っても叶わないというなら、戦わなくてはならない。私は妹を助ける為に魔法少女になったのだ。ならば、私が魔法少女として生きる事より、願いが叶う方を優先するのは当たり前だ。私は死んでもいい。願いが叶うならば。
覚悟は決まった。やる事は決まった。私は拳を力強く握り、真っすぐな目でウィルネさんを見つめる。ウィルネさんが何を恐れているのか分からない。相手の強さなのか、それとも私が死んだ後に受ける痛みを案じているのか、私の覚悟を示しても億劫な表情は変わらない。
「私は一つの事しか願いません。余った分はウィルネさんの願いを叶えてください。これも私の願いです」
「もう勝った気でいるのかい? まぁ、いいだろう。あまり変な死に方はしないでくれよ」




