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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第九話 『愛の共同作戦』
53/69

お父さんとお母さん

 ***


 夜遅く。私はお父さんの帰りを心待ちにしながらドアの前で待っていた。時々外に顔を出しては暗い外を眺め『まだ帰ってこないの~』とお母さんに文句を言っていた。


 幸せだった。お父さんとお母さんが大好きだった。三人で過ごすこの家が、三人で居られるこの空間が好きだった。


 当然扉の開く音も聞き逃さなかった。お父さんと呼びながらリビングを出て、階段を駆け足で降りて行き、玄関へ走って行った。だが、そこ居たのはお父さんではなかった。同じ男の人。だけど髪型も体系も着ている服も真っ黒でお父さんには似つかない人がそこには立っていた。


『お母さん~料理する人が来た~』


 などと呑気な事を言いながらお母さんの下へ駆けていき、お母さんに抱きつく。いつもと変わらない優しい口調で私の意味の分からない言葉の意味を聞いて来る。だが、私が説明し切る前にお母さんはその『料理する人』がなんであるかを理解した。ゆっくりとリビングの扉から真っ黒い料理の人が顔を出した瞬間、お母さんは突然怒り出した。


『カーテンの裏に隠れていなさい! 絶対にこっちを向いちゃダメ!!』


 その顔は今まで見たどのお母さんの顔よりも怖かった。だけど、前に私を怒っていた顔とは少し違う。怒っていて怖いだけじゃない。悲しいとか不安とかそういう顔が混ざっていた。私はその圧に押されて急いでカーテンの後ろに隠れた。訳が分からなかった。お母さんはそのあとその真っ黒な包丁をもった料理人を怒り始めた。ずっとずっと怒鳴っていた。足跡が聞こえる度にさらに声は荒げていった。


 だけど、その大きな声は段々小さくなり、震え始めた。訳が分からなかった。さっきまで怒っていたお母さんが怒られた私みたいな声を出し始めたのだから。けど、そんな声は一瞬で今までで一番大きな声に変わった。いや、声とは言えない。叫びと言った方が良い。


 その瞬間私は怖くなった。思わず身を屈め、頭を抑えた。カーテンの向こうで何が起こっているのか、当時の私は何も分からなった。けど、食器が割れる音と、お母さんの大きな声が怖かった。けれど、それも少しの間だけ。数分が立つと大きなものが倒れるような音と共にお母さんの声が小さくなった。まだ、お母さんは小さな声で言っているようだが、何を言っているかは分からない。


 小さな悲鳴が響く中、いつものお父さんの声が聞こえる。いつもなら走って迎えに行く私の姿がない事を声に出しながら訪ねている。段々といつもと変わらないお父さんの声が近づいてくる。そして、一瞬だけ静かになり、想像した事ない程の怒号が響く。


 どうしてみんな怒り出すのか、あの真っ黒な人は何をしたのか。カーテンの中では何も分からない。乱暴な音か響き続け、私は怖くなった。お父さんとお母さんが聞いた事のない声を出し、大きな音を立てて暴れているのだから。あの時の私には少し早すぎた。


 お父さんの声が消え、荒い呼吸音が響く。何が起きているのか分からない。お父さんは負けちゃったのか、どうしてこうなっているのか、何も分からない。


『警察を呼んだわ。早く……逃げないとじゃないの……?』


 酷い咳を言葉の間に挟みながらお母さんがそう言うと聞いた事のない怒鳴り声が聞こえてドタドタと大きな足音を立てながら遠ざかって行った。扉の閉まる音が聞こえ、部屋は静まり返る。いつ出て来ていいのか分からずに、そのまま私は頭を抱えて蹲る。目を瞑って、もう怖い大きな音が聞こえないように耳を塞ぐ。


 だが、生暖かい液体が脚の裏に広がる感触に思わず目を開けてしまった。それはとっても真っ赤な血。血は怪我をしないと出ないもので、怪我は痛くて、辛くて、悲しい傷。私はゆっくりとカーテンから顔を出した。一目見た瞬間では何が起きているのか分からなかった。お父さんとお母さんは痛い血を沢山流して倒れている。お気に入りのコップも、机にあった今日のご飯も全てがひっくり返り、壊れてしまった。


『お父さん……? お母さん?』


 微かな呼吸音、大量の血。私は知っている。沢山怪我すると死んでしまう事を。私を呼ぶお母さんの声、何も喋らないお父さん。私は知っている。死んだら喋れない事を。私は分かった。二人は死ぬと。それと同時に押し寄せて来る否定の感情。私は私の声にびっくりした。今までにこんな大きな声を出したことが無い。喉が裂けてしまうのではないかと思う程、涙が枯れてしまうのではと思う程、脚の裏に刺さるガラスの怪我を忘れてしまう程。


小幸こゆき……幸せは続くよ――』


 そして私の世界は闇に閉ざされた。真っ暗になった。次に世界が開いた時には全く知らない天井だった。真っ白で、周りに人も居るけどみんな知らないおじいちゃんおばあちゃんばかり。お父さんとお母さんの姿はどこにもない。手に付いた真っ赤な血も奇麗に落とされている。だが、その手には血の赤が映り、あの生暖かさが蘇ってくる。ボロボロと涙が零れる。だが、あの時の様に声は出ない。ただ静かに、大きな涙が私の真っ赤な掌に落ちていくだけ。涙でも落ちないその赤はどこまでも私を苦しめた。


『いい小幸こゆき? 小幸こゆきは幸せになるの。いつでも小さな幸せがあって、それはいつか大きくなるんだよ。辛いことがあっても小さな幸せがあるから大丈夫。幸せは続くんだ――』


『全部消えちゃったよ。お母さん』


 私の掌に溜まった涙が手首を伝って流れていく。透明なはずの涙は真っ赤な掌に落ちたからか、同じ色となって涙腺から私を赤く染め上げる。腕が赤くなり、顔が赤くなる。何かが明らかに変わった。私の中の幸せが崩れ去り、何かがこの身を染め上げた。呼吸が荒くなり、頭に血が上っていく感覚。


 その後、何人かの人に色々言われたが、何も覚えていない。お母さんのおばあちゃんは脚が悪いし、お父さんのおじいちゃん家は遠いので私は知らない同い年に囲まれながら生活を送る事になった。私は悪い事を許さなかった。正義を遵守した。当たり前の事だが、出来てない人が多いい。ゴミを散らかし、中々謝らない人。私はそのたびに衝動に駆られそうになった。だが、手を出すのはいけない。分かっている。


 そして十才になった頃。私に小さな幸せが訪れた。どこまでも眩しくて、直視できない程の輝きを放つ存在。二頭身の可愛い見た目をしたそれは寝る時間の真っ暗な部屋を照らしながらこう言った。


『魔法少女にならないかぁ~~』


 変にビブラートの入った聞き取りづらい喋り。薄目をしないと見えない姿。よく分からなかった、だが、私は彼の話を聞いて魔法少女になる事にした。


『ん~魔法少女ならば! 法は通じないぃ~さぁ、制裁を与えようぉ~君は正義さぁ~』


 ***


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