ロシアンルーレット
私は深呼吸をし、自身を落ち着かせる。腹部の焼ける痛みが一向に引く気配が無い。全身から汗が流れ、焦りと痛みを体現する。そして、一歩も動けないこの状況が私の詰みを宣告する。
「このまま死ぬよりかは、危ない橋も渡るべきかな……」
私は再度ステッキを構える。彼女の右にある十字架に先端を堂々と向ける。私は彼女をじっと見つめ、吐き切った息を止める。
「インヴァート!」
視界が変わると同時に彼女の光線が放たれる音が響く。それは確実にステッキを向けた十字架を貫き、風穴を開けている。そう私ではなく、十字架だ。私は貯水タンクから飛び降り、彼女に向かってステッキを振り下ろす。
「サンバースト!!」
その声と共に私は振り下げたステッキを横に向けて位置を入れ替える。彼女も驚きの表情を浮かべながら歯を食いしばる。
だが、これでも私の予想していた物とは別の物と入れ替わってしまっている。本当は背後を取るつもりだったがその奥の物と入れ替わってしまい、時間を与えてしまった。やはり苦手だ。どうしてもうまく行かない。
しかし、これで相手もこのステッキを信じられなくなった。入れ替わる位置が向けている場所以外という可能性をほのめかせたからだ。私は彼女をじっと見つめていた。正確にはその後ろに見えていた十字架だが、目線とも外れたところから出てきたため、条件は目線でもステッキでもないと考えるだろう。実際は目線だというのに私のミスが彼女を混乱させていく。
「次はどこから出てくると思いますか? インヴァート!!」
ステッキを向けたところではない。だが、私が見ていた物とも違う物との入れ替えが再度起こる。私も何と入れ替わったのか分からない。すぐに彼女を見つけ、攻撃態勢に入る。だが、その時間で彼女の能力は十分に発動できる。
数回ロシアンルーレットを繰り返し、未だ膠着状態が続く。そしてまた絶好の機会が訪れる。彼女の真後ろに十字架が存在している。一歩踏み込めば刃が届く距離。再度深く息を吸い、ゆっくりと吐く。じっくりと見定め、息を止める。
「……インヴァート!」
視点が入れ替わり、後ろから後退った足音が微かに聞こえた。初めて思い通りに入れ替えが成功した。あとは刺すだけ。だが、入れ替わってからコンマ二秒は経過した。指す体勢になる暇はない。後ろを振り返りながら腕を振り、視界の端に見える彼女の細い首を掻っ切る――
振り向きざまの彼女と目が合った。だがもう遅い。振りぬいたステッキは彼女の肩口を切り裂き始め、その切り裂かれていく服と肌の感触が手に伝わってくる。その勢いに任せ、私は腕を振りぬく。遅れて響く彼女の悲鳴。それと同時に赤い血が滲み、広がっていく。
「ヒーローは負けないんだぁァァアア!!」
光の衝撃波が広がり、私を吹き飛ばす。だが、致命傷には程遠い。しかし、こちらは彼女の肩は切り裂いた。両手を上げて打つビームはそう簡単に打てなくなるだろう。今も痛そうに肩を抑えながら隠しきれない苦痛に襲われている。
「私はヒーローなんだから……負けないんだ……ッ!」




