抱かせてください
「はい。その……好きです」
初めての好意に思考が固まって私はしどろもどろに狼狽える。この血みどろの路地裏には似合わない顔を赤くした乙女が二人。なんだか恥ずかしい。
「や、やっぱりあの時の、キスしてきた人……?」
「その節はごめんなさい。つい勢い余ってしまって……」
いえいえと大きく手を振り、下げられた頭をなだめる。片腕を握りしめながら静寂の中に立ち尽くす。彼女もまた動こうとしない。静かに粛々と座っているようだが、組んでいた足はいつの間にか解かれ、内股に座る太股の上でもじもじと手先をいじっている。
互いの照れ恥ずかしさ、互いの緊張感が繋がり合い一向に心臓のトキメキが止まらない。
「……もしかしてキミ、チョロいって言われない?」
「い、言われた事ありません! は、初めての告白に少し嬉しいと言うか、どうやって応えてあげれば良いのか分からないんです……!」
しょうがない。初めての告白なのだからしょうがない。私はそう何度も言い聞かせ、この感覚がおかしいものではないと暗示をかける。だが、自然に彼女の唇が触れた素肌が熱く感じ、顔を覆う。
「わ、私っておかしいんですかぁ?」
「そうだね。ホストとか行かない方が良いと思うよ。というか、他人に触れられない方が良いと思う」
ウィルネさんのいつもの辛辣な答えにトキメキの一部はウィルネさんに対しての苛立ちへと変わった。おかげで少し冷静さを少し取り戻せた。
「んっうん……それでですね。本題はそこじゃなくて、」
下手な咳払いを挟んで本題に入る。彼女に会いに来たのは他でもない。彼女なら協力してくれると思ったからだ。勿論先入観からではない。能力の相性を考えて不意打ちを食らったとしても私の能力で簡単に対処できる事を考えたからだ。魔法少女同士の協力は基本的にあり得ない。裏切りが付き物だ。
彼女の大半は確保から始まる。鉄の処女、ファラリスの雄牛、三角木馬……どれも私は簡単に逃げられる。それに今確定した事だが、好きな人を殺そうとは思わないだろう。捕まえるだけにとどまると考えた。
「……なるほど。協力して光の魔法少女を殺すのですね?」
話は早く進む。この街で名の知れた魔法少女は三人しかいない。そのうち一人はひよりが殺し、その一人である彼女に協力を求めている。残るは『光の魔法少女』だけ。だが問題はそこではない。
「それで、どっちが殺すかだけど……」
「お譲りしますよ。タダとは行きませんけどね」
魔法少女になるという事は何かの夢があるという事。無い者は信念の強い者にただ殺されて終わるだろう。ひよりの様に能力に恵まれるという事さえ無ければの話だが。彼女の願いが何かは分からないが、戦いを求めているわけでもない。
「何が望みなの? 私に出来る範囲なら何でもいいけど」
願いを叶える力以外に何を求めるのか、私には想像も出来ない。過去の発言から人を殺す事などが可能性として挙げられるがどれも彼女自身で出来る事。わざわざ私に頼む必要性は無い。私の考えが及ばない領域。拷問に関する事、被験者などの可能性が頭を過り、拳を強く握る。彼女との対立は避けたいところだが――
「条件として……抱かせてください」
一切トーンの変わらない冷静な口ぶりで出て来た言葉は私の斜め上を行き過ぎる。思わず呑んだ固唾を噴き出してしまった。あまりの言葉におかしくなった呼吸と心拍を落ち着かせながらオウム返しの様にそのまま問い返す。
「えぇ、ですから抱かせて欲しいのです! 貴方は私に似ている。穢れを知らない私に……無垢で綺麗だった私にとっても似ている」
座っていた鉄の処女から勢いよく立ち上がり、私に駆け寄る。地面に溜まった血潮を踏み跳ねさせながら目の前まで距離が近づく。何かを熱弁しているようだが、私の頭は彼女と初夜を遂げる事でいっぱいで入ってこない。
むろん抱かれるのなんて初めてだ。抱かせて欲しいと懇願されるのも、こうして私を抱きたい理由を熱弁されるのも初めての事。私の頭はキャパオーバーだ。
「――そんなに肩などの露出の高い服……まるで誘惑しているようではありませんか!」
「そっ、それはぁ~……」
壁際まで追いやられ、逃げ場の失った私に優しい手が頬をなぞる。彼女のとろけたような瞳がとてもえっちな雰囲気を醸し出し、私にまで伝染しそうだ。私の太ももの間に彼女の脚が入り込んで来る。ピチピチなニーハイは感覚を一切和らげてくれない。思わず彼女の太ももを強く挟み込んでしまう。当たる面積が広がり、少しでも彼女が動くと反射で動いた身体にさらにゾクッとする感覚が襲い掛かる。
「いや、でも私初めてですし! いや、でも女の子同士なら優しい……? し、しかし……!!」
「やっぱりチョロいじゃないか」
ウィルネさんに諭され、能力まで使用して彼女から何とか離れてズレていた本題に戻る。抱かれるに関しては様子見という事にした。戦いに関しては互いに意見を出し合い、彼女を釣る事と初手の一撃は何とかなりそうだった。




