たった一言で殺すことが出来る
おどおどするひよりを見て警戒を解く。彼女は魔法少女である前に私の親友だ。魔法少女という事に捕らわれ過ぎていた。魔法少女になって数ヶ月だがひよりとの付き合いはその何倍もある。疑心暗鬼と言うやつだろうか。信じれる人を信じられなくなっていた。
私は心呼吸をしてひよりに歩み寄る。倒れ込むひよりに視線を合わせて手を伸ばす。この伸ばした手は信頼の証。私はひよりを信頼する。
「ごめん。ビックリしちゃって……立てる?」
「ひよりが何かしちゃったのかと思ったよ〜! 痛かったんだからね」
そう言ってひよりが私の手を掴む。私はそれを引き上げ、お互いにその姿を見つめ合う。私のに比べて露出も派手さもないが白く綺麗なドレスだ。そんな一言を思ったが、どうやらひよりはそうもいかないみたいだ。肩や背中なども露出しているので何とも恥ずかしい。スカートの中に手を伸ばそうとするひよりの手を叩き、凝視する。私の周りを何周かすると元の位置で立ち止まる。
「なんか、すっごくエッチだね」
やはりそう思うのは私だけではないようだ。すぐに隣で浮くウィルネさんに視線を向けると真顔のウィルネさんと目が合う。特に動揺する様子も無く冷静にいつも通りの言葉を吐き捨てる。
「……安心しなボクはキミに欲情したりしない。キミは人間だろ」
それもそうだが、この衣装にはやはり趣味嗜好が感じられる。そんな疑いの目も一瞬で羞恥で揺らぐ。
「な、何してんの!?」
私は翻されたスカートを抑えて、顔を赤くしてひよりに罵声を浴びせた。中はガーターベルトとかでさらに過激なものだというのに見られたのだ。恥ずかしさも頂点に上る。
「いや~だって覗き込むと叩かれるから、めくるのが速いかなって……それにしてもす、凄いね」
直ぐにウィルネさんを睨み、手を伸ばす。だが、私の手は空を切り、恨みを晴らす事は出来なかった。溜息を付き、咳払いをして、少し背伸びをしたりして平常心を取り戻す。
「それで、なんで魔法少女になってるの?」
「それはね~叶えてあげたい願いがあるんだよ。でも、なんかひよりは必要ないみたいだけど……」
少し寂しそうな目線でひよりは私を見る。だが、その意図を理解しようとするも分からない。私が不思議そうな顔を浮かべるとひよりは気恥ずかしそうに言葉を続ける。
「助けたかったの! 今ひよりの目の前にいる人を! 一人でこなせちゃいそうだけど!」
私はきょとんとした目でひよりを見返す。『叶えてあげたい願い』とは私の願いだった事に驚いたからだ。確かにひよりに不幸な話は無い。どんな願いがあるのかと思っていたが、まさか私の事だとは思いもしなかった。
「ありがと。けど私が叶えなくちゃいけない願い事だから。溜まった力は自分に使って」
ひよりは分かったとだけ言って頷いた。だが、これからどうするのかという問題が残っている。お互いに本名を知り、たった一言で殺すことが出来る。ひよりは間違いなく危ない存在。だが、私は炎の魔法少女と雷の魔法少女という前例を知っている。あの時はお互いの願いを共有する魔法少女が出来るとは思っていなかったが、今こうしてその状況にある。円満な始まりではなかったが、信頼は出来る。
「ね~二人で行動しない? 所率とかも上がるし、ひよりは別に願いとか無いから適当にその辺にいる人を殺していくつもりだからさ」
確かに最も合理的な考えだ。最期をどちらが与えるかなどの衝突も無い。はっきり言えば良い事尽くしだ。私がどれだけ深く考えてもデメリットは思いつかなかった。渋らせた眉が緩まり、真っすぐひよりを見つめる。
「分かった。手伝ってくれてありがとう」
「良いんだよ~ひよりは役に立てれば良いんだよ~!」
伸ばした手を両手で優しく握られる。その手は指の先まで温かい。私もそれに応えるように両手で握る。お互いの手を絡め合い、それぞれが一歩ずつ近づく。ひよりの胸で二人の真ん中に合ったはずの手はこちら側に押される。
「「願いのために――」」
瞳を閉じて、互いの頭をコツンと当てる。
「でも、一人称は替えようね」
「ひよりはひよりだし……苗字バレなければグッジョブ!」
学校のチャイムが響き、お互いに視線を合わせる。そしてそのまま視線をマットの上にある弁当へ向ける。
「食べる時間なくなっちゃたね」
「帰りにどっか寄ってく?」
ぎっしりと中身の詰まったお弁当を拾い上げ、体育館倉庫を後にした。




