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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第七話 『かなわなかった魔法少女』
41/69

変なの~

 ***


 突然に降り出した激しい雨に私は身動きが取れずにいた。少し濡れながらでも家に帰ろうとしていたが、近くで激しい雷鳴が響いた為、思わずこの少し古いビルの駐車場に逃げ込んだ。


 止みそうにない雨はさらに強まり、あの高いガラス張りのビルの屋上が見えない程だ。私は溜息を零しながら水に濡れてびちょびちょになった靴下に目をやる。お気に入りの白い靴下には少し泥が跳ねている。足踏みをし、靴の中でぐちょっとなる感覚に顔を顰めながら再度溜息を零す。


 そんな憂鬱に変わってしまった日曜日を嘆いていると、何かが爆発するような大きな音が響く。突然の爆発音に肩が窄まり、また近くに雷が落ちたのかと音のした方向を見上げると、垂れ込める重く黒い雨雲よりも黒い煙がその雲を侵食するように激しく立ち上っている。時折、ここからでも見える程燃え盛っている赤い炎が見える。


「ありゃりゃ……雷でも落ちたのかな? それにしては被害が大きいような」


 そんな光景を見ていても何も起きない。私はまた溜息を付いて雨が跳ねて来ないように下がった。熱気に雨が混ざって蒸し熱いが、濡れた服は冷えて冷たい。私は身体を温めるようしゃがみ込み、ボーっと雨を見続ける。歩行者は一人もいない。小動物が一匹ゆっくりと近づいて来るだけ。


「猫かな? 雨に濡れてるけど、水が好きな猫かな?」


 だが、それが近づくに連れ猫では無い事が、この世の生き物では無い事が分かる。白くて、二頭身の生き物。脚があるが浮いているから全く動いていなくて、目が赤く、尻尾が生えている生き物。テレビでも図鑑でも見たことの無い生物。龍や鬼の様な空想の生物としてもその見た目を見聞きした覚えはない。完全に未知の生物。


 ゆっくりとそれは私の目の前まで歩み寄り、その真っ赤な瞳で私を見つめる。私も返すようにそれの身体を見る。身体には撥水加工でもしてあるようで、付いた水滴はスッと落ちて行く。大きく上下に揺れている尻尾が何を表しているのか考えているとそれの口が開いた。目と同じで黒みがかった赤い口内。二頭身の愛らしい姿とは裏腹に低い声が私の耳に囁く。


「お前。魔法少女にならないか?」


「わーお」


 未知の生物に低い声で話しかけれられるという今までにない体験に私は何も考えずに思いついた言葉をそのまま口に出した。お互いに口を半開きのまま固まり、数秒間見つめ合う。


「オレはネヴァ。さっきまで魔法少女に力を貸していたんだが、不運にも乗っていた飛行機が墜落してな。さっさと新しい魔法少女作りたいんだ」


「……よく、喋らなければ可愛いとか言われません? もう少し見た目に合わせたらどうですか?」


 未知の生物ネヴァと再度目を合わせる。その表情からは何も感じられない。揺らぐ事のない瞳から少しおぞましさを感じる。聞こえる大きさの舌打ちをされ、私は顔を顰める。


「それで、ひよりがその、魔法少女になってひよりになんのメリットがあるんですか?」


 無表情だった顔が大きく笑い、目と鼻の先まで距離を詰められる。思った通りネヴァは無臭だった。呼吸音も聞こえない口が開き、私を優しく唆す。


「――お前の願い事を何でも叶えてやる。何でもだ」


「太らないとか……!?」


 正直、こんなに非日常的な状況で、こんなありきたりな願いを口にした自分が恥ずかしくなった。でも、もし本当に叶うなら、これほど嬉しいことはない。だが、この言葉を口にした瞬間、ネヴァはゆっくりと開いた口を閉じて私から離れる。無表情に戻ったネヴァの表情はなんとなくだが呆れているのが伝わってくる。対照的にこの空気を誤魔化そうと私の頬は無理に上がる。再度お互いに見つめ合う。


「嘘じゃない。魔法少女ってのはそういうものだ。よく街中で暴れてるやつらは全員魔法少女だ。善も悪も無い。ただ、個人の願いにとらわれて戦ってるだけだ。今更お前が参入しても問題は無い」


「ひよりの願い……」


 ひよりは恵まれている。誰一人欠けていない家族がいて、毎日ご飯を食べれて、温かい布団で寝れている。大好きな友達も沢山いて、何一つ不自由は無い。何も失っていないし、これ以上求める物も無い。


「……別にお前の願いじゃなくてもいいんだぜ。何も無いのか? 困ってる友達は? 困ってる好きな人は? 家族は? 今までのお前じゃ踏み込めなかった場所に踏み込めるんだぜ?」


「大切な人の願い……」


 私の頭の中に沢山の人が思い浮かぶ。前髪を切り過ぎちゃった人、恋人と喧嘩しちゃった人、ペットが逃げちゃった人、妹がずっと寝たきりの人――


 すぐ帰っちゃうから何をしてるのかと聞けば仕事とだけ言って走って帰っちゃう。週七の仕事とは一体何なのか、もしも妹の医療費とかだったら、学校を辞めちゃったりしたら……


「いるんだろ? 困ってる人がお前の顔を見れば分かるぜ。助けたいんだろ? なら、魔法少女になればいい。簡単だ」


 私は固く拳を握った。雨に搔き消されてしまう程小さな声で彼女の名前を呼んだ。私の大切な友達の名前。幼馴染で親友の名前。私が助けたいと思った名前。俯いた顔を上げ、ネヴァの赤い瞳を見つめる。


「ま、魔法少女になる。ひよりは助けたい……!」


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