本当に……?
私は能力を使わずに距離を詰めた。蛇行しながら移動し、彼女の銃口を揺らす。彼女銃は一発しか装填できない。外れれば攻撃手段は無い。
大きく回り込み、跳躍すれば届く距離。次で詰めようと考えた瞬間、また足が取られ、視界がグラつく。地面に手を付くと、プールから漏れた水が流れ、私の足元にはそれに流された薬莢が転がっていた。
「そろそろ理解してくれたかしら? わたくしに殺される運命ですの」
銃口と目が合う。そして、絶対に眼を逸らさない。静かにステッキを向け、入れ替わる準備をし、全神経を研ぎ澄ます。流れて来る水が私の身体に道を堰き止められ、溜まっていく感覚。濡れた身体が風に冷まされる感覚と、水滴が頬を伝って落ちていく感覚。微かに揺れる銃口。少し動く彼女人差し指。そして、その指が大きく動いた瞬間――
「インヴァート!!」
私の掛け声を掻き消す銃声。だが、私の方が速い。堰き止めた水の感覚が消え、視界が変わる。そして響く彼女の叫び声。私はゆっくりと立ち上がり、私が先程まで倒れていた位置に倒れ込む彼女を見る。脚から赤い血が流れ、水に流されていく。
「さすが、豪運の魔法少女。自分自身の攻撃は当たるようだね」
彼女は痛みに苦しみながらも私の挑発に軽く笑っている。だが、私は起き上がるのを待っているほど優しくはない。再度ステッキを構え、彼女に振り下ろす。今回は転ぶ事なく、彼女の下まで来れたが、その攻撃は受け止められた。だが、このまま押し切ればクリスタルを破壊できる。私はそのまま彼女に覆いかぶさり、ゆっくりと全体重をかけて押し切る。その距離が一ミリ、二ミリと縮まるにつれ、彼女の表情は歪んでいく。
だが、思いもしなかった痛みが銃声と共に腹部に広がる。伸ばされた彼女の左手にはもう一つの金色のピストルが握られていた。緩んだ所に蹴りが入り、私は後ろによろける。
「この世界は運だけで生きていける程甘くないのですよ?」
彼女からその言葉が出て来るとは思っていなかったが、彼女が強い理由が分かった。能力だけではない。その狡猾さを生かして今までのし上がって来たのだろう。互いに苦い笑みを浮かべ見つめ合う。彼女はそっと銃を空に向け、一発を消費した。
再装填に入る彼女の懐に距離を詰め、ステッキを振り上げる。体術のレベルとしては私と一緒だ。ギリギリだが、余裕の表情を浮かべたまま装填を続ける。銃では戦いにくい至近距離での戦い。たとえ装填が終わったとしても撃たせる隙を与えなければいい。連撃を続け、彼女のクリスタルに刃を伸ばす。だがその瞬間、腕に痛みが走る。彼女には一発も打たせていない。つまり、最初に撃った弾丸が私の腕に当たったという事。
その隙を彼女は見逃さすはずも無く、銃を突きつけられる。引き金を引くと同時に響く乾いた銃声が私の耳を刺激するが、痛みは無い。とっさにさっき落ちて来た弾と入れ替わり、避ける。
すぐさま攻撃に繋げ、ステッキを振り上げた瞬間、彼女がバランスを崩し、よろける。視界の端に銃が見え、防ごうとするがよろける彼女と踏ん張る彼女の動きで変な軌道を描き、私のこめかみに直撃する。
視界が大きくグラつき、頭を抑える。平衡感覚を取り戻そうとしている時に首筋に水が跳ねる。空を見上げると熱い太陽は重く暗い雲に覆われ、雨が降り始めていた。次第に雨は強くなり、視界を悪くする。屋上から見えていた街の景色はすっかり白くなり、見えなくなる。
魔法少女の能力には明確な当たりと外れがある。ハンマーを振り回せるだけは間違いなく外れ。肉体の強化も能力自体は強くない。雷、炎といった自然を操る所から強い分類に入る。そして私の能力は入れ替え。本来は出来るはずのない事をやってのける。だが、彼女の豪運はそれも全て加味して発動する。運が良いどころではない。間違いなく能力としては最高位。
「雷があなたに落ちる確率は二百万分の一。とても現実的な数字ではありませんね。私の能力が無ければの話ですが――」
空が光、激しい雷鳴を耳に轟かす。彼女が言うからには私に当たるに違いない。だが、雷はタイミングが掴めない。キューブで逃げる手もあるが全て屋外にある。それもすぐそこだ。
冷や汗さえも雨と混じり、分からない。ステッキを彼女へ向け、当たるなら彼女も巻き込もう考えた瞬間、世界が白く飛んだ。




