魔法少女は人も殺せるのよ
日の届かない路地裏に転がる様に逃げ込み、呼吸を整える。拷問の魔法少女と同じ匂いが鼻を掠め、辺りを見回すが誰も見当たらない。警戒していたが、自分自身の身体の状態が目に入り、溜息を零してその場に座り込む。
呪文を唱えて変身を解き、爛れて血が噴き出すのが止まってもその場に座り込み続けた。傷が消えても痛みを負った感覚は残る。皮膚の溶けだす感覚は今まで負った傷の中でも精神的にキツイ。
「はぁ~魔法少女って大変だな~」
そうぼやいていると遠くから足音が聞こえ、ゆっくりと立ち上がる。魔法少女ではないというのに板についた警戒心はこちらの日常にも表れてしまった。
薄暗い路地裏でははっきりと顔が見えず、誰が来ているのかは分からない。だが、その服装はこの暗い路地裏に合うものではなかった。キーホルダーの一つも付いていない無地な鞄を肩にかけ、膝まで降ろされたスカート、白い脚と良い音を立てる黒いローファー。私より高い身長。通り過ぎ様に合った二重の大きな黒目。路地裏で嗅ぐことの無い良いシャンプーの匂いが長いロングヘアーから香る。一言で言えば美しい見た目の女子高生だ。
ここが近道なのかと疑問を抱きながらも、彼女とは反対方向に歩き出す。だんだん遠くなっていく足音は止み、気に留める事も無くなり歩き続ける。だが、止んだ足音は間隔を短くし、段々と大きくなる。振り向けばさっきの彼女が鞄を振り上げ、私に向かい走ってきていた。
両手を上げ鞄から身を守るも、魔法少女ではない私は直ぐによろけて湿っぽい地面に倒れ込み、それに覆いかぶさるように彼女が私に乗り上げる。
「貴方、魔法少女でしょ? そんな予感がするの」
両腕を抑えつけられ、身動きが取れない。なぜバレたのか理由も分からない。彼女も魔法少女なのか? この状況をどうすればいいのか。初めての状況に頭が回らない。
乗り上げる彼女は重くはない。だが、今の私には退ける力は無い。魔法少女に変身すれば退かす事は出来る。だが、変身すれば相手も変身するだろう。この体勢は変わらない。
「ねぇ? どうなの? 貴方は魔法少女なの?」
抑えつけられた腕が作りの荒い凸凹としたアスファルトに刺さり痛い。そしてその痛みをすべて口に漏らす。じたばたと足を動かすもそれを抑えつけようとする力に負け、涙が目元に溜まる。
「答えて? 貴方、魔法少女でしょ?」
「だ、だったら何なんですか? 今の私は魔法少女じゃありません……!」
苦痛で視界が歪む中、彼女の長い髪が私の下へ垂れさがる。覗き込むように私と目を合わせ、じっと見つめられる。溜まった涙が、頬をなぞると彼女は静かに、けれど大きく笑いだす。天を仰ぎ、また静かに同じ様に目を合わせる。
「魔法少女は人も殺せるのよ」




