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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第五話 『二人の少女』
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キミに言われるとはね

 崩壊した街を見下ろしながらじっと彼女の目が覚めるのを私は待っていた。項垂れる声がかすかに聞こえ、彼女の様子を静かに伺う。


 生きていることが不思議な程全身が傷ついている。それでも彼女はまだ生きているのだから強い人だ。薄っすらと瞼が開き、彼女の瞳に映る自分が目に映る。


「おはようございます」


 その言葉と同時に勢いよく飛び起きようとし、お互いの頭がぶつかる。後ろに少しよろめき、頭を押さえる。


「……負けたのか?」


 その惨状と彼女自身の記憶からそう思ったのだろう。私一人では二人も倒せないと考えたのだろう。私はスッと立ち上がりドヤ顔で告げる。


「勿論、勝ちましたよ」


 疑心の眼差しが晴れる気配が全く無い。全く信用していないその目に私のドヤ顔は段々と拗ねた表情へ変わっていく。


「そうですか、じゃあまた明日も見にくれば良いんじゃないですか? 二人の戦いを」


 それだけ言って屋上から飛び降りた。魔法少女に変身している間は受けた痛みが続く。早く変身を解きたかったし、彼女も同じだろう。


 人気のない駐車場の影でこっそりと呪文を唱え、変身を解く。身体から痛みと疲労が全て消え去り、身体が軽い。それでも精神的な疲労は取れない。今まで戦ってきた魔法少女とも少し違った。二人の背景が見えてしまったから余計に感情が揺さぶられた。


 駐車場の端で私は重いため息をついた。吐いた息にこの感情を乗せて消し去ろうとしたが、そうしようとすればするほど彼女達の表情がちらつく。


「しょうがない事だ。魔法少女はどんな過去を持っていようが殺し合う運命なんだ」


「分かってますよ。彼女達もこうなる時が来るっていうのも分かっているはずです。でも――」


 魔法少女となった時から殺し合いは避けられない。死ぬ可能性もある。それは私も理解している。だが、誰も自分が死ぬなど思っていない。


 今、私は魔法少女の姿をしていない。他の魔法少女に襲われて死ぬ事は無いだろう。だが、今私の隣にある車が爆発すれば私は死ぬ。死ぬ可能性は人間でも魔法少女でも変わらないというのに、どちらであっても自分が今死ぬかもしれないなど自覚しない。


 そしていつも隣にいる『死』は直前でないと視界に入らない。


「気負うことはないよ。死んだら魔法少女の記憶が消えるだけ、一筋の希望があった事も忘れるのだから普通の日常に戻るだけさ。願いの叶わない日常だけどね」


 今まで殺してきた記憶も全て無くなるのならば、簡単に一般人に戻れるだろう。私も、もし夢半ばで死んでしまっても『助けられなかった』という悲観的な感情にもう一度悩まされることは無いだろう。


「初めて知りました。そういう重要な事はちゃんと教えてくださいよ」


「最初の情けない戦いを見たら、すぐ殺されると思っててね。言うのを忘れていたよ」


 適当なウィルネさんを私はじっと睨み、圧を送る。少しの間考え、『今言えるのはこれだけだよ』とウィルネさんは意味深な言葉だけを残した。


 スッと立ち上がり、スカートについた砂ぼこりを払う。風に流されウィルネさんの顔に降りかかり、嫌そうに首を振る。


「この辺りに強い魔法少女っていましたっけ?」


「君の相手になるか分からないけどね。願いの生贄は沢山いるよ」


 魔法少女は次々に選ばれる。この瞬間にも炎の魔法少女が現れている可能性もある。けれど、選ばれたばかりの魔法少女を殺しても力は溜まらない。


「隣町とかに行くのもありですよね」


「……じゃあ、隣の新中央区に行こうか。最近強い奴がいるみたいだし」


 私はその強い相手に興味を示し、『ふーん』と一言だけ漏らして歩き始めた。夕暮れの日と、慌ただしい救急車と消防車の赤い光を背に帰路についた。


 ゆっくりと家に帰り、いつも通り私はベッドに飛び込む。疲れが一気に溶け出し、重い体が布団に吸い付いて離れられない。夕食の匂いと呼ぶ声が微かに届くがそれでも瞼は垂れ下がってくる。


 ゆっくりと視界が暗くなっていき全てが瞼に隠される。その瞬間、私の脳内に叫び声が響く。頭から離れない殺したばかりの魔法少女の声。目の閉じた仲間を目の前に泣く姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。


 私はこんな感傷を残していてはいけないと何度も反復するも、閉じた瞳から涙が滲みゆっくりと頬を伝う。


 躊躇も後悔もしないと決めたはずだった。それでも変身を解いた今の私はただの女子高生。溢れ出た涙を拭う事しかできない。


「キミは正義だ。勝ったんだからね」


 私の腰に乗っかりながら重い言葉が私の悩みを解消させる。勢いよく立ち上がりドタドタとリビングへ向いテレビを付ける。


『――いやー毎日毎日悩まされていましたからね。助かりましたよ』


『うちの店が全部壊れちまってね……でも、壊した奴も消えちまったしな。ざまーない』


『彼女達のことを推していたのですが、実に残念。まぁ、しょうがないです』


 耳に入る言葉は何一つ私を責めていない。むしろその逆だ。心地の良い言葉だけ。そこで私は思い出した。この世界の歪さと単純さを。


 ゆっくりと目を閉じ、脳裏に殺した二人を想像する。同じ様に泣き叫ぶ姿が浮かぶが、痛みは和らぎ、頬を伝う生温かい雫も落ちる事はない。


 世の中は許してくれた。称賛してくれた。街を壊しても、人の夢を壊しても許してくれている。私は私のした事を重く受け止めすぎただけ。


 私は狂っている世界の倫理観を拠り所にし、罪を無くした。これが普通だと、この考えが正常なのだと言い聞かせた。


 涙でぼやけた視界は晴れ、すっかり乾いてる。冷たくなった視線でウィルネさんを見る。同じ目をしたウィルネさんと視線が合いしばらくの間見つめ合う。


 だが、ご飯の匂いが鼻を通り過ぎ、視線を取られる。微かに立ち上る湯気を見て私は急いで茶碗にご飯をよそった。少し冷めたご飯を前に手を合わせ、箸を進める。


「……」


「ありがとウィルネさん。気が楽になりました」


 だが、ウィルネさんの表情は明るいものではない。普段と変わらずに無表情だが、どこか違和感を覚える。私はこれからも戦うと言っているのだ。いつものウィルネさんならにんまりと気味の悪い笑顔を浮かべるはず。その引っ掛かりに気づくとより普段と違うと感じる。


「ウィルネさん?」


「……何かあったかい?」


 そう言ってウィルネさんは笑みを浮かべた。少し引きつり、無理に浮かべた笑み。


「無理しないでくださいね」


「……キミに言われるとはね」


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