何はともあれ
舌打ちと共に雷光が辺りを照らし、私を目掛け降ってくる。一歩も動かない事で彼女は危機を脱した。だが、その傷は深く残り、この瞬間にも彼女の命を削っていく。
突き刺さった腹部を押さえながら、ふらふらと動く。そして、何かに気付いたかのように笑う。そして、その答え合わせをするかのように数歩前へ進んだ。
「そういう事。入れ替えがこんな事も出来るとは……」
一定以上触れる事と相手にある程度の傷を負わせる事を条件とした入れ替え。私が背中に突き刺した時にはその条件を満たしていた。だからこその余裕。理解できても対応出来るかは別の問題。――勝てる。
相手の後ろに回り込み、もう一度ステッキを振りかざす。だが、ガラ空きの背中に一直線で振り下ろされた刃は背中には当たらなかった。
受け止めた彼女にハッキリとした笑みが表れ、驚いていた私の顔に衝撃と共に電撃が走る。
「後退すれば前に進む……殴ってから振り上げるのですね。被雷針と合わせれば何とかできそうですね」
「なんで対応できるの……!?」
予想外の対応能力に驚きつつも、私は続けて攻撃を仕掛け続ける。化け物じみた対応能力だが、完璧ではない。このまま押し切れば勝てる。
素早く位置を入れ替えながら惑わし続け、思考を鈍らせ続ける。激しく振り、捻った腹から血が再度滲み、苦痛の表情を浮かべ鈍った隙に刺す。姑息な手だが、確実な方法。これ以上危険な橋は渡りたくない。正面から息の根を止めに走りだす。直前まで狙いを定めず、どこと位置を入れ替えるかを悟らせない。一歩、二歩と距離を詰め、腕一本分の長さで叫ぶ。
「インヴァート!!」
視点が一瞬にして変わり、背後を取る。だが、その鋭い視線と目が合う。完全に彼女は順応してきている。無駄に動かず、しっかりと対策を取っている。焦った私はもう一度叫ぶ。
「インヴァート……!!」
だが、何度入れ替えても彼女と視線が合う。走り出した脚は止まらない。振り上げた腕は下すしかない。これで終わらせなきゃいけない。
「――ペルヴェルス……」
大きく腕を引いた。私を殴るのではなく、彼女は手を引いた。手は前に出る事は無い。がら空きになったクリスタルに向かってそのまま突き刺す。焦る表情が目に映ると同時にクリスタルが割れる音が響く。
長い戦いはこの音で静かに終わりを告げた。この一撃で彼女たちの願いを私は打ち砕いた。私の手に迷いはもう無い。この手に伝わる感触も、壊した現実も私は全てを受け入れる。そして、妹を助ける。
「ッ……! 雷霆!!」
無数の雷光が辺りを照らし、雷鳴が私の聴覚を奪う。私の漏らした声も、死に際に口を開いた彼女の言葉も全てを掻き消して落ちる。だが、瞬時に安全な場所へ逃げた私にその攻撃が当たることはなかった。
「最後まで強い魔法少女でした」
雷が無数に鳴り響き、辺りを穿つ光景を少し遠くから眺める。彼女に同情したせいか、少し心が痛い。
「力も沢山貰ったし、ちゃんと強い子だったね。少しはプラスになったよ」
「……そんな考え方しか出来ないんですか?」
「あのビルの中に死にかけの魔法少女がいるからそいつも殺そう」
そんな考えしかできないウィルネさんに軽蔑の視線を送り、死にかけの魔法少女がいるというビルに向かう。大きく空いた穴から中を覗くと、瓦礫の中に横たわる姿が見えた。今にも倒壊しそうなビルから彼女を連れ出し、少し離れた位置で彼女が目を覚ますのをそっと待つ。
次第に住人が顔を出し始め、その被害の大きさに頭を悩ましているのを見かけ、申し訳なく思う。
「な、何はともあれ、完全勝利ですね」




