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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第五話 『二人の少女』
27/69

誓ったもんね

 ***


 真っ青な夏の空に生き生きとした緑の葉が揺れる。そんな空を見上げながら人の少ない小さな公園のブランコで一人揺れる。蒸し暑い気温の中、半そでの隙間から入る風が気持ち良い。けれど、この傷の痛みは癒してはくれない。


『お待たせ! アイス買って来た。食べようぜ~』


 明るい笑顔でレジ袋を揺らしながら、既に一口かじった痕のあるアイス振り回す。


『ありがとう莉子りこ。けど、下校中の買い食いは校則違反だよ』


 アイスを口に詰め込みながら、何かを言う莉子。彼女は縛られていない。だからこんなに明るい性格になれたのだろう。受け取ったアイスの袋を開け、私はゆっくりと食べ勧める。


『……その傷、また親?』


 頬に付いた打撲痕。首に付いた痣。転んだとばかり言い訳をしてきたが、私は迷う事も無く『うん』と一言だけ答えた。


 蝉の声が全方向から騒がしく聞こえ、私の言葉は莉子だけに届く。微かに聞こえる莉子のアイスをかじる音。ゆっくりと食べる私のアイスは溶け始めた。


『ほらコレ、貼ってやろうか?』


 アイスの棒を咥えながら、鞄からこの傷の大きさに合う絆創膏を取り出す。なぜこんなものを持ち歩いているのか、全ては私のため。莉子は私の唯一の救いだった。


『可愛い顔に何でこんな事するんだろうな。いっちょ殴ってやろうか?』


 目立った痣に絆創膏が貼られ、ついでに私にくれたはずのアイスを一口奪われる。彼女が奪っていったアイスを少し長め、唇でアイスの冷たさを味わう。そしてまたゆっくりと食べ始める。さっきよりも甘く感じられるような気がするアイスに自ずと食べるスピードが上がり、溶けた汁が手に垂れる前に食べ終わる。


『なぁ、トイレ行こうぜ? 手が汚れちまった』


 だが、彼女は手を洗う事無く、私の手を取り、個室に私を連れ込んだ。二人で入るには少々狭い個室。今の状況に追い付けないまま彼女は静かに私の唇を指で塞いだ。


 何が始まるのかと思い、鼓動が速くなる。もわっとした個室に汗がシャツに滲む。今日の下着は可愛くないのを着てしまった。


『私の名前を呼んじゃダメだよ? 赤い炎に願いを……トランスフィグラーレ』


 赤い光に包まれ、目の前には知らない人が私に迫っていた。でも、さっきまで私の前に立っていたのは莉子一人。つまり、莉子も魔法少女になった。


『あれ? 分からない? 私だよ? 驚きすぎちゃって言葉も失っちゃた?』


 あたふたとしながら、彼女は必死に説明を続ける。変な生き物と出会ったきっかけ、その時の感じ、戦った感じ。色々教えてくれた。


『――で、私の願いは一つ。るいなを幸せにしてあげる事。るいなの親はどうしようか、迷ってるけど……私に言ってくれれば仕返しは簡単だぜ!』


『幸せにする』この言葉を聞いた時、胸の中で何かが大きく弾けた。心臓が大きく踊り、今までよりも熱く、熱が内から漏れだした。


『ありがと。私も教えてあげる』


 莉子の唇に同じ様に指を当て、唱える。私を包む光が消えた時、莉子は口と目をまん丸にしながら驚いていた。口をパクパクとしながら何かを言っていたが、分からなかった。


『ねぇ、炎の魔法少女さん。いつか二人で結婚しよ? 大きな家を建てて、行きたい所に行って、夏になれば毎日アイスを食べて……私の幸せは炎の魔法少女さんが叶えてくれるから、私は炎の魔法少女さんを幸せにしてあげる』


 暑さでか、炎の魔法少女さんは目をぐるぐるに回しながら、顔を真っ赤にしている。狭い個室に二人で身を寄せ合ったら確かに熱い。私の胸の奥もとっても温かい。

『お、おう。任せた? ぞ?』


『ふふ、じゃあ、誓いのキスね――』


 唇に伝わる触感はアイスよりも甘く、柔らかく、熱い。二人の間にアイスがあったなら簡単に溶けてベタベタになってしまうでしょう。私の頬も炎の魔法少女さんの頬もこの暑さには耐えられそうになく、真っ赤に染まり、目がとろけちゃってる。


『――この夢、必ず叶えようぜ。私が誰かに殺されても諦めるなよ? 約束だからな』


『任せて炎の魔法少女さん。先に魔法少女になった先輩として二人で一緒の願いを叶えよ』


 ***


 ゆっくりと肉に突き刺さっていく感触に鳥肌を立てながらも私は隙だらけな雷の魔法少女の背中に刃を差し込み続ける。


「――そうだよね。諦めちゃいけないよね……! 誓ったもんね!」


 雰囲気が明らかに変わり、無気力だった身体に力が入り、雷が私の刃を弾く。私は大きく飛び退き、彼女から距離を取った。ゆっくりと起き上がる彼女からはもう涙は流れていない。頬を伝う雫を鬱陶しそうに拭き取り、しっかりと定まった目つきで私を見据える。


「……さっさと殺さないからだよ」


「簡単に殺せるから、先送りにしただけです」


 ステッキをしっかりと構え、おちゃらけた表情は消える。互いに視線を交差させ、睨み合う視線に火花が散るす。ここからが本当の戦い――最期の殺し合い。


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