あなたも殺します
足音に気付いたのか鋭い視線がこちらに向けられる。こうなった元凶は私だ。その視線はどこまでも深く、恐ろしい。だが、これは殺し合いだ。仕方ない。これしかない。
「……莉子は――ッ! お前のせいだ!!」
「しょうがないでしょ!」
向けられた掌には雷が帯電し、激しい光を放ちいつでも私に攻撃が出来る体勢。だが、私に技が放たれることはなかった。
電気を溜める間にも抱き抱える炎の方へ雷が流れ出している。雷は全て私に当たるわけではない。攻撃しようとすれば多少なりとも大事に抱える彼女の方へも被害が出る。
その躊躇いを逆手に取り、私はステッキを構えて突撃した。これで雷は封じられた。怖いものはない。彼女を目掛け、ステッキを突き出した。
「インヴァート!!」
視界が入れ替わる。広がる光景は屋上ではなく、燃やし尽くされ荒野となった街中。ウィルネさんが先程と同じ様に浮いたまま『遅かったね』と一言言うだけだ。
建物の中にあったキューブと入れ替わり、この場所に来たキューブともう一度入れ替わった。雷との距離を大きく稼げた。計画通り私の腕の中には炎の魔法少女が横たわっている。
私の目的は最初から炎の魔法少女。雷の魔法少女に攻撃すると見せかけて炎の魔法少女に触れた。雷の魔法少女にとって一番大切な物を奪い取った。
「一緒に入れ替わるのも慣れてきたようだね」
「この距離はまだキューブがないとしんどいですけどね」
そう言いながら少し奥に見える建物に視線を向け、ピクリとも動かない彼女の胸元にあるクリスタルに刃を突き立てる。
視界奥で激しい光が差し、それは段々と距離を詰め目の前に降り立った。激しい怒りに身を震わせながら、鬼の様な形相で私を睨みつける。がそれ以上動かない。
「少しでも動いてみて下さい、その時はこの刃がクリスタルを突き刺します」
「中々に外道だよね」
茶々を入れるウィルネさんを座った目つきで睨みつける。目を逸らし、姿を消したウィルネさんから視線を彼女に戻す。
「お願い。止めて……私たちの願いは二人じゃないと叶わないの」
ゆっくりと頭を下げる彼女からぽたぽたと涙が零れる。声も手も震わせ、真摯に願う彼女に刃を思わず緩めてしまう。だが、緩んだ手に私の手に力が加わり、クリスタルに罅の入る音が静かに耳に届く。
ゆっくりと目線を下すと小さな手が上からステッキをクリスタルに押し付けている。
「時間の無駄だよ。早く刺してくれないか?」
「お願いします!! お願い……します!」
ウィルネさんの声を遮る大きな声に引っ張られ視線を戻す。額を焦土と化した地面に擦り付け、何度も何度も同じ事を願っている。段々と小さく弱くなって行く声に私の判断が鈍っていく。
どれだけ自分に言い聞かせようと私が人に戻れる限りこの感情は消えない。だが、これは殺し合い。再度魔法少女としての自覚を思い出す。そしてステッキを強く握る。大きく息を吸い、小さく謝る。
その微かな声に反応し、顔を上げた彼女が手を伸ばす。だがその手を緩めることはしない。ひび割れる音が胸の奥まで届くような音を立て、刃がクリスタルを貫いていく。その音を掻き消すように、彼女の悲哀の叫びが私の耳に響く。怒号に紛れる怨嗟の声、哀傷に満ちた感嘆が居心地を悪くする。
足を引きずりながら、縋るように、這い寄って来る彼女の願いはこの瞬間打ち砕かれた。私が願いを砕いた。
そっと全身に罅が広がり始める彼女から離れ、二人だけの時間を作って上げる。広がる罅を抑え込もうと、繋ぎ止めようと必死な姿が目に入る。もう手遅れだと言うのに。
全身に罅が入り、身体の一部が欠け始めた頃、私はそっとステッキを向ける。彼女も殺さなくてはならない。
悲しみに打ちひしがれ、既に戦う意思は無さそうだった。その場にうずくまり、喚き散らす。
「あなたも殺します」
ガラ空きの背中に刃を押し付けると、小さく血が滲む。彼女は抵抗する素振りも見せず、その刃を受け入れる。




