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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第五話 『二人の少女』
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――さよなら

 激しい戦闘音が互角に聞こえてくる中、こちらの戦闘は派手さも無く逃げ回る私を追う一方的な狩りが続く。無造作に放たれた雷が私を追うように捻じ曲がり、不自然な軌道で襲いに来る。


 戦略を変えて大きな商業施設に入り込み、落雷攻撃を封じる。物も多く、入れ替える物は沢山ある。私の方が戦いやすいはずだが、力の差は逆転すること無く一方的なものだ。


「……逃げるな」


「戦略的撤退ってやつです!」


 逃げているだけではない。裏を取り何度か奇襲を仕掛けるも全てかわされているだけだ。両者ともに攻撃は掠るだけだった。私の一撃では戦況を変えるような一撃は入らなかった。


 店の商品をばら撒き、入れ替え、後ろを取る。それに反応し、振り向く彼女の後ろを取る。だが、後ろにも目がついているのかそれとも能力の応用なのか、毎回こちらの行動を読まれ、攻撃は止められる。


 しかし攻撃の手は止めない。商品棚と位置を入れ替え、視界から外れての襲撃。彼女を巻き込んでの入れ替え。出来る限りの手を使い仕掛け続ける。


 刃は届かずとも、彼女と接触する事を優先して攻撃を仕掛ける。ウィルネさんから力を得て新しい使い方を実践するため。


「インヴァート!!!!」


 声が枯れるまで唱え続ける。何度も何度も発動し続ける。あとはこのステッキを少しでも刺さればいい。そうすれば勝てる。あと一撃さえ入れれば、負った傷も報われる。


 相手の苛立ちが見え始め、表情が曇っていく。冷静で最低限の力での対応が百八十度変わり、荒々しく攻撃を弾き返す。思わず体勢が崩れ、その隙を彼女は見逃すはずもなく、手を合わせ的確にクリスタルを目掛ける。


「インヴァート!」


 視点が切り替わった瞬間、目の前には先程のように構える姿が目に飛び込む。入れ替えを失敗した訳ではない。しっかりと視点は変わっている。


「インヴァ――ッ!!!!」


 言葉を発するよりも早く肋に衝撃が走り、それと同時に全身に電撃が全身を駆け巡る。その威力自体は大きくない。だが、一度の電撃で身体中が痺れ、そこに容赦なく電流を纏った拳が叩き付けられる。いつまでも痺れ、抜け出すことの出来ない負のループに巻き込まれる。


 口から薄く血が垂れ、その痛みが身体を突き動かす。猛攻の中でギリギリで唱え切り、打たれ続けるループから解放される。最悪の場合に備えてこの施設に入る前に屋上へ『キューブ』を投げ込んでいた。


 乱れた心臓の鼓動が体身体の中で暴れる。思わず胸を抑え込み、その場に倒れ込む。痛みは心臓だけには留まらず、呼吸も乱れて身体の内と外全てが苦しい。


 一体に響いていた戦闘音の全てが鳴りやみ、ひとときの静寂が訪れる。私はふらふらとしながらもう一つの戦闘地に目を向けた。


 そこに広がる有様はこちらの戦いとは大きく違い、周囲の建物は立つ事を許されず、全てが倒壊し更地と化している。煤煙がたなびき、焦げ臭さが鼻を刺激する。どちらも加勢に来ない事からどちらも重傷なのだと予想が付く。彼女は全ての仕事を全うした。今度は私の番――そう意気込んだ瞬間、焦土を進む赤い人影が見える。炎の魔法少女は死んでいない。


 灰色の魔法少女の生存が気になり身を上げた瞬間、ビリビリと電撃の走る音と共に影が差す。ステッキを構えようと上げた手を蹴り上げられ、ステッキは転がっていった。


 首に手を掛けられ、その勢いのまま地面に叩き倒される。頭に衝撃が入り、目と目が合う。冷淡なその表情は私を殺して力を得る事しか考えていない目だ。


「アッ、ガァ……ッオ……ッ」


 ……おかしい。早すぎる! 彼女はなぜ私の位置が分かる!?


 キューブとの入れ替えを追えるはずがない。私に何か目印でもついているのか、そう考えた時、一度だけ使った『被雷針』という技。その前の雷は曲がらなかったのにも関わらず、その後の雷は私を目掛けて来るようになったのを思い出す。


 絞めつける手を思いっきり叩くが、びくともしない。身を捻じり、無様にも脚をバタバタと対抗するが、彼女の体重を退かせる程の力は出ない。


 ギリギリと音を立てながら小さな両手で脈と気管が絞められていく。空気が肺に届かず、血液が脳に届かない。意識が朦朧とし始め、脳中が白く染まっていき、血の匂いが直接鼻に広がる様に感じる。


 抵抗する手の力が失われていき、いつの間にかあれだけ暴れていた脚も今では少しビクビクと動くだけ。ゆっくりと感覚が消えていくのが分かる。


「ンへッ……ウグッ!! ……ァァ……」


 微弱な電気が身体に流れ、意識を飛ばす事なくこの苦痛を味わい続ける。意識を飛ばそうとする手と、神経が焼く様な電気が走り、朦朧とする意識を引き戻される。死の間際を漂い続ける初めての感覚。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。こんな終わり方、嫌だ。


 脳裏を駆け巡る思い出。走馬灯として浮かび上がる記憶が過去の経験から現状を変える事が出来る何かを探し出そうとする。しかし、首を絞められ死にそうになった事も、身体に流れる電流に痙攣させられる記憶などない。


 痛い。苦しい。死にたくない……誰か、誰か私を助けて。助けてよ――


 いくら声を出そうとしても、途切れ途切れの声が少し漏れるだけだった。誰も何と言っているかは聞き取れない。ただ、一匹を除いては――


「死にそうだね。せっかく力を上げたのにコレか……がっかりだね、期待外れだ。物に頼っているからじゃないかい?」


 と、彼は私を見下しながら言った。そっと顔元に現れたウィルネはこの状況を目にしても顔色一つ変えない。知っていた。分かっていた。あの時忠告もされた。少しの期待を抱いた自分が馬鹿だった。


 最後の希望も消え、段々と音が遠くなっていく。視界も段々とぼやけ始め、薄く視界に映る二人の顔。無表情で浮きながらただ見下ろすだけのウィルネさんと願いに一歩近づく嬉しさからか、白い歯が薄っすらと見えている魔法少女の顔が目に焼き付く。


 何とかしないと、生きないと、入れ替えれば、入れ替えなきゃ――! イヤだ。死にたくない。まだ、終われない……だけど、ごめんね。


 幼い妹の笑顔が脳を過り、少し大きくなった妹の病室での寝顔が思い浮かぶ。薄っすらと涙が溜まり、流れる。願いの終わり。破れた約束。苦痛の死。願いの生贄。全ての感情を合わせた涙は頬をゆっくりと伝って、堕ちる。


「――さようなら」


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