もっと強いやつと
『――そこまで! 勝者黒宮 楓』
歓声の上がる中、私は静かに相手に礼をする。私の瞳には明らかな愉悦が差していた。年上だろうが優勝候補だろうが関係無しに相手をなぎ倒し、そのフィールドに立ち続ける。試合に、戦いに、争いに幼くして心惹かれ、強くなるためにあらゆる武を学んできた。その道を究める事なく浅く、広く。そして学んだ技で相手を倒す。
だが、女という弊害、まだ幼いという弊害がいつまでも私の足を引っ張っていた。女だからという言葉を何度も聞いた。女だからという理由で軽視され続けていた。しかし、転機が訪れた。衝突事故により腕の損傷。医師の診断では復帰は難しいと告げられた。
無論私は絶望した。唯一の幸福、唯一の楽しみ、相手を負かす事でしか得られない快感を奪われたのだから。だが、私の転機はまだ続く。
『どうかな? 魔法少女にならないかい?』
最大にして最高の転機だった。私は魔法少女の全てに納得した。合法的な殺し合い、相手も自分の願いのために最初から全力で殺し合うその構造に心惹かれた。
だが、貰った能力はハズレだった。手から何か出せる事も無く、何か武器がもらえるわけでもない。この世界の事象から外れる事も出来ない。ただ、殴る。強化された力で殴る。単純で弱い能力だった。
『ごめんね。せっかくの魔法少女なのに力が強くなるだけなんて……短いだろうけどパートナーとしてよろしくね』
そのフヨフヨと浮く生物は気まずそうに頭を掻く。普通の人間を魔法少女に変えることの出来る超次元存在にも関わらず、姿勢が低い。その言動から察するに、私はただ殺されるカモの様な能力なのだろう。
その時さらに私の心内が燃え盛った。私が最も得意とする下剋上が出来るのだから。その滾る血は全身を駆け巡り、興奮と殺し合いの喜びが表情を明るいものとする。
『いいね。最高の能力だよ』
能力の相性が良かった。私はただひたすらに街を練り歩き他の魔法少女を殺しまわった。相手は概念すら曲げて来るため、忖度など出来ない。隙あらば殴り、背中を見せたなら殴り、殴って、殴って殴った。
『も、もう……やめ、』
一発で吐瀉物をまき散らし、這いずって逃げようとする弱い魔法少女。戦意の無い相手を殺すのは本来であれば止めるべき行為だ。だが、これは願いを叶えるため――大義名分を掲げ、その姿が消えるまで殴る。気が済むまで殴る。強い能力を手に入れ、願いのために勇気を振り絞って勝負を仕掛けた少女の顔を殴り続ける。
その姿は酷いもので、顔と呼べるか分からない。何本も歯が折れ、抵抗する声すら出ない。それでもその姿が消えない限り死んではいない。
その戦い方は、私が思うに魔法少女とは程遠いものだった。勝者にも関わらず、その戦う様を見る者は私を悪と罵っていた。だが、私はそれで良かった。これが良かった。
『願い事はもう叶っちゃったんだけどさ、新しい願い事が出来たんだ』
『事故の傷を治すの?』
『いや、その世界はつまらない。あたしを強くしてくれ。魔法少女を殺した瞬間からその分強くしてくれ』
私は狂っていた頭がおかしかった。能力を与えた本人ですら畏怖するレベルだった。人の道を外れた、根っからの魔法少女だった。
魔法少女の願い事を叶えるのは義務だ。それを断る事は出来ない。消炭色に渦巻く力を取り出し、差し出す。それを赤く、べたべたとした手が受け取る。力が湧き上がるのを実感し、私はどこまでも魔法少女へ堕ちていく。
『もっと強いやつと戦って殺したい……!』
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