お前、キモいな……
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吹っ飛んで行った軌道に沿って灼熱の炎が襲いかかってきた。だが、一直線に飛んでいくその攻撃は私が既に何度も見た芸の無い技だ。軌道上の物を全て溶かすほど強力だが、ただそれだけだ。避ける事も容易で、掠る事も無く空中に霧散していった。
作戦は順調に成功した。無事に私は炎の魔法少女に一発食らわせ、雷はアイツが相手をしている。タイマンが張れる初めての機会だ。まるで炎のように燃え上がる戦闘心が鼓動を速め、身体を熱くする。久しぶりの格上との戦い。恐れなど一切無く、好奇心だけがこの身に宿っている。
「お前の技ってつまらねーよな。もっとなんか無いのかよ」
瓦礫の奥から赤い炎が燃え盛り、彼女の姿を映しだす。口から垂れる血を拭き取り、痰を吐き捨てる。無傷ではないがダメージは大して無いはずだ。
今出せる力ではほぼ最大威力に近い。雲行きが怪しいが私には関係が無い。一回でダメなら二回、三回と相手が潰れるまで殴ればいい。それが私の生き方だ。
「殴ることしか出来ない馬鹿には言われたくないよ」
少し離れた所で雷鳴が鳴り響く中、互いに睨み合いながら私は相手の出方を伺う。ゆっくりと距離を詰めやすいように構え、こちらの準備が整った瞬間、動き出す。
地面を蹴る強さは戦闘で脆くなったコンクリートに罅を刻む程の脚力だ。数十メートルの距離を一秒もかけずに詰める。
「……だから言っただろ。馬鹿だって」
殴り飛ばすための一歩踏み込んだ瞬間、地面が異様に光る。赤く眩しい光は急激に熱を放ち、『ボッ』という炎の燃え上がる音と共に空高く火柱が立ち上がる。
大きく飛び退きその熱源から距離を取り、炎が消えた瞬間再度飛び込もうと構える。だが、未だ消えない火柱を突き抜けもう一つの火柱が目の前に迫る。
「……っチ」
相性は不利で、近づくことすら許されない。攻撃方法が無い。しかし、手が届けば勝てる――だが、それが一番の問題だ。
灼熱の炎を周りの被害などお構い無しに雑に避ける。その炎の威力で建物は崩れ、その下敷きとなり、形を崩した炎が巻き上がる。
瓦礫の一部を掴み上げ、一歩も動いていない彼女へ向かって投げ飛ばす。炎で物を砕くのは難しい。それこそ散々と燃え上がる炎を凝縮し、炎とは形容し難い形へと変化させなければならない。そしてそれには時間を要する。
私の予想通り、彼女は炎を使うこと無くその場から飛び上がり、倒壊した瓦礫の山に場所を移す。仮説は立証した。彼女は決して炎を防御に回さない。
高い位置へ移動し、無造作に辺りを燃やし尽くす彼女の表情は今まで通り負けるはずが無いと驕り、油断している。
私は、再度地面を踏みしめ、彼女との距離を詰める。正面から来る炎を腕で受け止め、掻き消し、最短で突っ込む。
「テメーの炎じゃあたしは死なねーよ。雑魚がよ!」
煽る私の表情は自信で溢れている。死ぬ気などない。これは驕り、または過信とも言えようか。未だ一撃とも入れていないのにも関わらずこの姿勢は変わらない。このデカい態度が気に入らなそうに彼女は声を荒げる。
「じゃあ、お望み通り殺してやるよ!」
丁度もう一回の跳躍で彼女との距離を縮められる所で、彼女は天に腕を突き上げ能力を使いだした。さっきと同じ火柱の攻撃だろう。本当にそれだけで、芸がない。だが、私は思わず足を止めてしまった。全く同じ攻撃だが、範囲がおかしい。それは私を焼き尽くすのではなく、この地を焼き尽くすと言った方が正しい程の領域だった。
範囲と敵の位置を測り、私はこの中心で立ち尽くした。この行動に不信感を抱いたようだが、彼女は止まらない。
「何を企んでるか知らないが、致命傷は避けられないぞ。フレイム・ニトロネウス!」
今までにない程の輝きが辺りを照らす。離れたところで戦う彼女らにもその火柱は濃く、大きく、はっきりと映るだろう。空まで突き上げる火柱に逃げ場など無い。
長く続いた火柱が形を失い、その焦土と化した地を見せる。鉄筋が溶融し出し、真っ黒な地面に溶け落ちる。人間は数秒で灰となり消えるだろう。だが、私は観察を続け、この技の抜け道を見つけた。
「え? 真下に反応……?」
「おせーよ馬鹿が! 墜閃・デモラライズ!!」
激しい轟音と共に足場を崩し、下から巻き上がる瓦礫と共に炎の魔法少女を空に打ち上げる。殺したと油断し、立ち尽くす瓦礫の下に潜み、炎が消える数分間力を溜め続けていた。そして、溜め切った力は最初と同じ威力を発揮し、瓦礫の山ごと彼女を上空へ吹き飛ばす力となった。
「まだ片手が残ってんだよ!!」
私は空中へ放り出された彼女を追い、瓦礫にぶつかりながらも最短で飛び上がり、落ちてくる彼女の腹に向かって拳を突き上げる。本日二度目の直撃。それは確実な重傷を与えた。彼女の骨の軋む感触と鈍い音が私の手に伝わった。彼女は血反吐を吐きながらさらに高い空中を舞う。私は彼女の描く綺麗な放物線を眺める。受けた力に抵抗は出来ず、回転しながらその高さを知り、力なく落ちていく。地面に衝突する寸前に炎を噴射し落下速度を抑制するも殺しきれずに激突していった。
「まだ生きてんのか。いいね」
「それはこっちのセリフだ。いつ逃げ出した?」
腕に巻かれた灰色の包帯には内から焼き爛れたのか血が滲み、灰色は汚れた暗い赤へすっかり変色している。
「私は耐久値が高いからな。普通に燃えながら土を掘ったんだよ」
手でジェスチャーするその手からは包帯に吸収しきれなかった血が垂れる。私はその腕で瓦礫の山ごと吹き飛ばしたのだ。
「お前、キモイな……頭おかしいんじゃないのか?」
今までのダメージですっかりぐったりし始めた炎の魔法少女は立ち上がるだけでも身体が痛いだろう。私を見る瞳も、濁りが見え始めている。
この気力に、この力に、私という存在に恐怖の念を覚えているのが手に取るように分かる。そして彼女は一つ確かな事を言った。私は頭がおかしいのかもしれない。




