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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第五話 『二人の少女』
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あんたを殺すためだよ

 昨日と同様に、私はキューブを少し離れたところに配置した。戦闘が激化する事を考えたらこの距離でも危ない気はしたが、そんな事は無いだろうと判断した。


 ウィルネさんから貰った力は身体に馴染み、以前に増して軽快さを感じる。身体能力が格段に上がっており、戦う準備は万全だ。


 集合場所の少し手前で足を止め、周囲を見回す。休日の活気溢れる商店街を見下ろし、賑やかな街にある無数の戦いの傷跡に目を止める。この平和な休日を魔法少女の都合で潰してしまうのは少し胸が痛んでしまう。時間だけではなく、大事な店や、車、彼らの日常を壊しながら戦う私達。魔法少女は悪だ。――それでも、勝てば悪ではなくなるのだと、自分に言い聞かせた。


 緊張と不安、そしてここに来てからの罪悪感。私の手は微かに震えている。目を瞑り、拳を強く握る。自身に言い聞かせるように『妹のため、妹のため……』と何度も反復させる。落ち着きを取り戻したというより、冷酷さを身に纏ったと言った方が正しいだろう。


 覚悟の決まった表情で集合地へと降り立つ。先着の彼女も精神を集中させようと座禅を組み、深く息を吸っている。


「……そろそろだ」


 ゆっくりと目を開け、立ち上がる。口角をわずかに吊り上げて拳を打ち鳴らす。それと同時にこの平和を終わらせる警報音が鳴り響く。日常の終わりを告げる警報音に避難を開始する市民。それに合わせて私たちも配置に付く。


 何度も味わった熱に当てられ、何度も見た空の色。そして今日を境に二度と見なくなる景色。今日の戦いで全てが変わる。


「行くぞ……!」


 彼女は私の目の前に立ち、拳を固く握る。腰を低くし、私へ狙いを定める。彼女の戦闘ではあまり見られない溜めた攻撃。勿論溜めた方が強いのは当たり前だ。鋭く、大きな呼吸音が耳に届く。彼女の視線は研ぎ澄まされ一心に私を見つめる。


 そんな彼女を横目に私は遠くへ目を向ける。熱が段々と汗を滲み出させ、額に汗が走る。上手くいくかどうかは分からない。だがこの先手は大きなものとなる。


「……見えた。行くよ」


 私は一瞬で目配せをし、彼女の状態を確認した。溜め込んだ右手からは蒸気の様に何かが立ち上っている。だがそれは決して無害なものではなく、力のある、悪意のある、複雑な色をしていた。近くに居るだけでその圧を感じられ、その力に私の脚が竦む。だが、この力は私に向けられるのが正解――


「墜閃・デモラライズ!!!!」


「――インヴァート!!」


 一瞬で視界が変わる。まだ炎の魔法少女がいた余熱が辺りに充満し、温度が高い。そして同時にビルを何棟も巻き添えにし、激しい轟音が街中に響き渡る。一棟のビルを突き破るもその勢いは殺せない。二棟、三棟とぶつかりやっとその勢いは消える。完璧にうまく行った。


『先手は私達だ。私が技を溜める。そして相手が見えたら殴る瞬間にお前が位置を入れ替え、不意の一発を叩きこむ』


 通常の魔法少女ならば、あの一撃が直撃した瞬間、身体には風穴が空き、クリスタルごと身体は大破するだろう。しかし、彼女達は違った。両者が異次元に強く、日課のように決まった時間で始まる戦闘が彼女達をそれに耐えられるまで強くしていた。


 炎の魔法少女が吹っ飛んで行った軌道に沿って赤い煉獄が燃え上がり、全てを焼き尽くす。炎と呼ぶにはあまりにも熱く、まとまり、凶暴だ。面倒くさそうに瓦礫を退かし、その炎の様に赤く燃える姿を現した。


 予想はしていた。あれで終わらせてくれる敵ではないと。だがそれでも驚きが走る。そしてそんな敵がもう一人――私の視界の端に立ち尽くしている。


 ビリビリと感じる圧は彼女達二人の戦闘を邪魔した事への怒りの様で、謀反者を裁こうとする使命感の様で、そして願いを叶える生贄を見る捕食者の様だ。


「崩霆――」


 腕を振り上げ天を指す彼女に連れられ空を見上げた。暗く重い雲に一瞬の閃光が光る。すぐに彼女へステッキを向け叫ぶ。


 視界が変わると同時にけたたましい雷鳴が耳に響いた。そっと後ろを振り返り状態を確認する。案の定、雷の魔法少女に雷はいまひとつの効果のようだ。入れ替えの能力自体では殺す事は難しい。今の様に自爆を誘爆させるしかないのだが、この状況。相手は炎でもないのに汗が止まらない。


 不味さを隠すように苦笑いを浮かべ、相手の出方を窺う。しかし、彼女は一歩も前には出ずに同じ様に腕を振り上げる。


「……崩霆」


 全く同じことを繰り返し、また雷に打たれたであろう彼女の方を振り向く。だが、その視界に彼女の姿は見えない。灰になって死んだ、丸焦げになって倒れた、そんな彼女からは想像も出来ない死に様を考えながら辺りを見回す。


 手の甲に痺れるような電気が走り、察した。反射的に振り向き、その姿を捉える。だがもう遅かった。雷のような速度で移動した彼女は同様に素早く技を打つ。


「被雷針」


 身体に鋭い電撃が一瞬だけ走り、すぐに痛みは消える。私はすぐさま位置を変え距離を取った。そしてまた彼女は手を振り上げ、同じ様に唱える。『崩霆』と。そして同じ様に誘爆を誘うため彼女と位置を入れ替える。ここまでは全く同じ展開。だが一つ違うとすれば、雷が大きく軌道を変えた事だけ――


「……はぁ?」


 全身に衝撃が走り、たった一回の被弾で全身の神経が焼き切れたような痛みに襲われる。動く事も考える事も出来なくなる。


「案外弱いのね。その程度でなぜここに?」


 意識が戻り、視界が鮮明になり始めた時、彼女はいつの間にか目の前で腕を組みながら冷ややかな目で見下していた。その目は期待外れを失望しているかのような、期待の消えたつまらなそうな目。


「あんたを殺すためだよ……!」


 だが、私の目にはまだ光があり、希望も何もかもが消えていない。真っすぐな目で彼女に向かい叫んだ。


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