とは言え油断は禁物
「良い判断だね。手を取り合うとは言え油断は禁物だからね」
ウィルネさんの言う通り油断は出来ない。相手の名前を知っているためこちらが手綱を握っているが不意に攻撃されれば意味が無い。念のため集合地から少し離れた位置に緊急入れ替え用のキューブを置いておく。
「使い方は問題なさそうだね」
「遠くなると位置がたまに分からなくなるんですよね」
「それは感覚の問題だからね」
セットし終え、数分歩いた先の約束した場所へと到着する。まだ彼女の姿は見えない。昨日の戦いで潰してしまったたい焼き屋さんの瓦礫が撤去されているのを眺めながらじっとその場で待つ。
「……彼女はなんであんなに戦闘を楽しめるんでしょうね」
昨日の戦闘痕から彼女の事をふと考える。彼女にも何か願いがあり、それのために戦っている。だが、彼女を見ていると願いのための殺し合いではなく、殺し合いに願いがくっついてきているように思える。純粋に殺し合いを楽しんでいるようだ。
「願いなんて沢山あるからね。そういうのは叶えられてから分かるんだよ」
最も謎に満ちた存在が語る言葉にはどこか重みがあった。いくら考えても答えの出ない彼女の心情について私は考えることを止めた。
高さ十五階程のマンションの縁に座り込み脚をぶらつかせる。地上は遠く、空は更に遠い。人の来ない静かな空間でじっと彼女の到着を待つ。
下を見下ろせば脚が竦んでしまう高さ。だが、今の私は恐怖心などどこかに消えてしまったようだ。飛行機が飛ぶような高さから落下する。それを経験して正気な感覚は残っているはずがない。それでも、この変身が解ければすぐに怖くなる。私はまだ、人に戻れる。
「待たせたか? 色々あったんだ」
「大丈夫だよ。それで、作戦会議でもするの?」
「知ってると思うが、私はあいつらと何度か戦ってきた。情報共有だ」
その場に胡坐をかき堂々と座り込む。彼女の目は冗談などではない。殺した利益などではなく、単純にあいつらを殺しあいたいという意思から来るものだろう。そんな彼女の情報だからこそ信用が出来ると、私は判断した。
「まず、あいつらは毎日戦ってるが、殺し合いはしてない」
炎の魔法少女と雷の魔法少女。ほぼ毎日のように雷鳴と焦げた空気がこの辺りを包む。遠目から観察したことがあったが、どちらも致命傷を全く与えていなかった。肩慣らしというか、錆び付かないようにしている感じだった。
「あの二人はたぶんグルだ。んで、あたしみたいな戦闘狂か、願いに焦る奴を二人で殺すって感じだな。まずどっちがどっちと戦うかだな。個人的には炎を殺したいんだけど……」
「じゃあ、私は雷を殺すよ。熱いのは苦手だから」
どちらも殺す事への躊躇は見えなかった。願いのために、そして純粋に楽しむために、少し異なるがその殺す意思は本物だった。これは、普通の人間とは呼べない程、魔法少女に染まった狂気ともいえる思考なのだろう。
すんなりと決まっていき作戦の段取りが固まっていく。先制攻撃のやり方、逃げる時の算段、最大火力時の攻撃範囲。
敵の攻撃手段、移動手段、連携、雷の速さ、耐久力。相手の情報を聞けば聞くほどその強さに身を震わせる。彼女達の力の鱗片は見た事がある。本気でぶつかると何が起こるのか。しかし、その差も度外視する願いに対する渇望が私を止めない。
「――で、今からでも戦いに行くか?」
「いや、今日は作戦会議だけにしよう。敵は強いからレベルアップしなきゃならないんだ」
「そうか、じゃあ明日あいつらを殺すぞ」
大きく縦に頷くと楽しそうに笑いながら彼女は跳んで行ってしまった。屋上に残る影は二つ。そっと横を見れば楽しそうながらも深く考え込む姿が浮いている。
「ねぇ、ウィルネさん。私に力をください」
「……来ると思っていたよ」




