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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第四話 『認めさせる』
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見たことのない景色

 実践では初めての試み。自分以外と一緒に位置の入れ替え。咄嗟に彼女の足に触れ、強制的に彼女と一緒に位置を入れ替える。その先は彼女も私も見たことのない景色。


 先程まで戦っていた商店街が小指の爪で全て隠せてしまう程の距離。大空の中に突然放り出されたのだ。


『力は与えないが協力は勿論する。これを上げよう』


 受け取ったのは衣服と同じ黒色の四角い何か。色々刻まれているが読めるものではない。数分間凝視し使い方を探るも何も思いつかない。


『これは直感的に位置が分かる様になっている。つまり、ステッキを向けなくても入れ替えれる品物さ』


 高度により肌寒さと息苦しさを感じながら落ちて行く。振り向きざまに、見覚えのある黒い影が浮いているのが視界に入る。すぐに小さくなっていくその影には黄色い三日月型の笑顔が染み付いている。


 運んでくれてありがとうございます。勝ちますよウィルネさん……!


 殴られた痛みが一向に引かず、空中で畳み掛ける予定は潰れたが、確実に殺せる勢いは付いている。横を見れば彼女も初めての感覚に襲われ、まともな身動きを取れていない。体勢がくるくると変わりどこを打ち付けるか予想もつかない。


「死なないでよ。インヴァート……」


 焦りに焦る彼女を横目に、私の広く青い視界が一瞬で変化した。視界の半分が灰色のコンクリートだけを目に映し、落下の加速度そのまま全身に突き刺さるような衝撃を受けた。


「ぐっ……ッ!!」


 衝突による衝撃が無かったため、普通に落ちるよりかはダメージが少ない。それでも身体に受ける力は果てしなく大きなもので、全身を圧迫する力に私の身体は悲鳴を上げている。


 そしてその数秒後に建物が崩れ去る勢いで激突する姿が目に映る。崩壊する轟音と粉塵を撒き散らしながら落下した彼女にもはや生きるすべは無い。はずだった――


「くははっ! 面白いじゃねーかよ……」


 彼女の耐久力をウィルネさんに考えてもらいその地点まで運んでもらった。あくまで仲間にするための戦い。死なれては意味が無い。それでも瀕死までは持っていく予定だった。


「ば、化け物じゃん……」


 私はふらふらと身をぐらつかせながらも立ち上がり、倒壊した建物の中を覗いた。流石に無傷ではなく、所々に出血している箇所が見受けられるが、彼女は元気そうだ。


 その場に落ちていたステッキを拾い上げ、粉塵のはけた瓦礫の陰から彼女の首を狙って仕留めにかかるが、動きの鈍くなった私の攻撃は彼女の喉元を掻き切る前に止められる。


「その腕もう使えそうにありませんね」


「魔法少女の肉体だ。解除してまた変身すれば問題ない」


 ただ落ちるだけではここまで建物が倒壊する事はあり得ない。彼女は右手を犠牲にし、最小限の被害で乗り切った。重力も合わせての攻撃だが建物を破壊する一発を生身で食らえば当然死ぬ。彼女の腕一本は大きな成果と言えるがまだその戦闘能力差は縮まらない。


「言っておくが、私は脚も使えるんだぜ!」


 得意げな表情を浮かべ、振り上げられた脚が音を立てて目の前の空気を切り裂く。長い裾のスカートを邪魔そうに振り回し、腕をかばいながら戦う攻撃はそこまでの脅威は感じられない。


「足技苦手なんじゃないんですか? まだ拙いようですね」


 そう言うと彼女の表情が少し曇った。私の言葉はどうやら図星のようだ。彼女の能力は身体全体の強化に加えて腕の力を集中的に上げている。元々は足でも威力を出せるだろうがそれを止め、手だけを強化させる事によって一撃で屠る力を手にしている。腕が彼女の最大の攻撃だろう。


 得意でない事が分かったとしてもこの状況をどうにか出来る力は無い。攻撃を受け流すが衝撃までを消す事は出来ない。


 じわじわと身動きが取れなくなっていき、遂には防御など意味を成さなくなる。瓦礫の山に身体が倒れ込み、倒れ込んだ私を見下す彼女の目は冷たい。きっと背中を預けるに達していないのだろう。相手は環境を変える程力をつけた魔法少女。彼女よりも強いに決まっている。


 私には奥の手がもうない。いつまで口を噤んでいようかと彼女をぼやけた視界で眺める。彼女を殺す事は簡単な事だ。調べた名前を唱えるだけでこの戦いは決着が付く。しかしそれではこの傷が意味を成さなくなってしまう。これは彼女に私の力を認めさせる戦い。


「はは、こんな時に笑ってやがるのかよ。面白れぇじゃん」


 顔を痣で青く、血で赤く彩る。視界までもがまともに機能しないそんな状況でも口角は上がり続けていた。彼女でもこの状況下での笑みは不安を感じるだろう。まだ何かある。ここからこの盤面を崩す手があるのではないかと。


 倒れ込む瓦礫を踏みつけられ振動に脳を揺らされる。彼女はゆっくりと屈み込み、私と視線を交差させる。見定めるように覗き込まれ、血で滲んだ目でその瞳を睨み返す。


『っふ』と笑うような表情を浮かべ、彼女の視線が微かに和らぐ。沈黙の後彼女は『合格だ。明日また来い』とだけ言って足をどかした。


 彼女の瞳に私を疑う鋭さは完全に消えていた。たった一言だけ残し立ち去ろうとした瞬間。全身が熱に包まれ、空中には雷の様に光る姿が薄く見える。


「今日はちょっかい出してないだろ……クソが!」


 命乞いの様にも聞こえる彼女の愚痴は少し震えているようにも聞こえる。この状況で武者震いを起こす程好戦的な性格はしていないだろう。それは恐怖の震え。私も彼女も彼女らの攻撃を耐えるだけの力は残っていない。これは最悪の状況だ。――ならば、逃げるしかない。


「やっと協力してくれるんだ。死ぬわけにも、死なせるわけにも行かないよ」


 熱が更に身体を取り巻き、空の光が激しくなっていき激しく唸るような雷鳴が響く。ふらつきながら彼女の手を取り、空にいる魔法少女の顔を覚える。私が次に殺す魔法少女の顔を。


「……照雷」

「フレイム・ニトロネウス!」

「インヴァート……!!」


 数キロ離れた先からでも目視出来る程の雷が地に降り注ぎ、ここまで火の粉が飛んでくるのではないかと思う程の炎が燃え上がる。激しい光と音が鳴りやみ彼女らの戦闘も今日は終わった。


「助かった。明日はここで落ち合おう」


 今まで見て来た中で彼女にしては一番遅いスピードでこの場から姿を消した。誰も見ていないことを確認した後、私は呪文を唱えて変身を解いた。


 顔の彩りはすっかり消え、目に滲んだ血もすっかり無くなっている。魔法少女の身体に付いた傷はこの身体に反映されることは無く、次に変身すると服も身体も元気になっている。


「中々良い戦いだったね。コレもうまく使えているようだったし」


 ウィルネさんの握るキューブを一瞥しその場に座り込む。


 最悪の場合に備えて離れた所にもう一つここに置いておいたのだ。作った一つが一回目の実践投入で消し炭になるとは思っていなかったのか、ウィルネさんの表情は苦いものだった。


「……まぁいい。今日は帰るとしようか」


「たい焼き屋さんを壊しちゃったのは大丈夫ですか?」


「問題ないさ。負けていないのだから」


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