その一撃は命を刈り取る
大きく振りかぶらずに繰り出されるその技は隙を与えない。それでいて強化された拳により簡単に肉を打ち付け、骨を砕く勢いがある。軽い連撃だが、その一撃は命を刈り取る攻撃だ。
近接戦闘の心得など一つも無い。避ける事に集中し、魔法ステッキを振り回して距離を確保する。派手さは無く、静かで着実な戦いが繰り広げられた。
だが、次第に彼女の攻撃が私の服を掠め、肌を掠め、血が流れ出す。距離を取るために他の物と位置を変えてもすぐに追いつかれて猛攻が続く。ただ体力が削れて行くだけでは意味が無い。
「ちょ、インヴァ……まっ!」
それでも止まる事のない攻撃、いくら声を掛けようが聞く耳を持たない彼女は構わずに拳を振り回す。
今の私ではステッキを入れ替えたい物に向けないと上手く対象との入れ替えが出来ない。しかし、ステッキで攻撃を防いでいるため向ける隙が無い。このままじゃ殺される。
何とか空中に逃れ、遠くに石を投げる。私も逃げ道ぐらいは用意している。ここに来る途中に物をいくつか置いてきた。いくら速いとは言え空間を飛び越えて移動する私には追い付けない。
「逃げるのかぁ~?」
屋根の上で一撃、二撃と頬を掠める数が多くなっていく。驚きの成長速度、手に巻き付けられた汚れた包帯に私の血が滲む。
仕方なく予定よりも速いが作って置いた逃げ道を使う。たった一回の入れ替えでも十分な距離は取れるが、すぐに追い付かれる。
「逃がさねーよ!」
ここからはただの追いかけっこ――ではない。最初は情けなく全力で逃げているように見せる。入れ替えて逃げるその後ろには入れ替えられた物が残る。そう、それとも入れ替えは可能。場所を入れ替え、残された物を彼女が過ぎた瞬間――
「……インヴァート!」
位置を入れ替え、私の視界に映るのは私を追う彼女の姿ではない。忽然と姿を消され、何と位置を入れ替えたのか分からずに追跡の脚を止めたがら空きの背中。
『逃げられた』そんな事を思っているならば勝ちだ。私は決して逃げていない。大きくステッキに隠された暗器を振り上げ、がら空きとなった彼女の背中に向けて振り下ろす。クリスタルまでは届かないので殺す事も無いだろう。全てが完璧に行っていた。ここまでは――
「いいねぇ~!!」
振り向いた彼女の瞳はしっかりと私を捉え、逃げられたなどの油断もせずに拳を固く握っていた。振り向きざまの身体の捻りを入れ、右手に力を溜めながら勢いよく振り返る。
油断をしていたのは自分だった。とっさの判断も出来ずにそのまま振り下ろすが、刃に向かってそのまま拳を突き上げられる。肉体と刃物では刃物の方が強いそれは人間の話だ。魔法少女になればその常識は覆される。
打ち合う反動に耐え切れず大きくステッキは宙を舞い、流れるように左の拳が腹部に直撃する。
「ッカハ……!!」
重い拳が腹部に鈍い音を出しながらめり込んだ。魔法少女となってから初めて直撃を食らう。いや、魔法少女となる前から考えても腹部をこれ程の衝撃を受ける程殴られた事は無い。内臓の全てが圧迫される様な感覚が私を襲い、息が詰って呼吸が上手く出来ない。膝から崩れ、私はその場に蹲る事しか出来ない。叫ぶ事も、考える事も出来ずに痛みに悶え続けた。
「中々良い攻撃だった。けど、その能力はステッキで向けた物としか入れ替えられないんだろ? ならそれの向きを見れば分かる話だ。そんなんじゃ片方預けて心置きなく戦う事は出来ねーな」
もし自分がウィルネさんの様にステッキに頼らずとも能力を完璧に扱うことが出来たら勝てたのだろうか、後になってから後悔と改善点を考えても遅い。視界が揺れ、酸味の混ざった吐き気が喉をこじ開けて込み上げる。反省などしている場合ではない。そして、こんな所で倒れている場合でもない。
彼女は私より強い。殺す気でやらなければ認めさせることが出来ない。とっておきの隠し技を――
「まだ、だよ……インヴァー……ト!!」




