表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第四話 『認めさせる』
14/69

電車に揺られながら

 うるさい電車に揺られながら私は学校へ向かっていた。あれ以降魔法少女に変身して学校へ向かった事は一度もない。相手が私より張り込んだ場合すぐにでも正体がバレてしまうからだ。


 両耳にイヤホンを挿し、角席で身体を横に預けながら考えにふけった。あの三人の魔女の殺し方を。


『ボクの能力はキミが思っているほど弱くないよ。そもそも戦ってすら無いだろ? 雷とか炎は厄介だが、自然や概念系の能力ではクリスタルに直接ダメージは入らない。勝算はあるよ』


 ウィルネさんから言われた通りならば私の能力は通用するかもしれない。もしかすると張り合える可能性もまだある。


 私の能力は逃げようと思えば簡単に逃げられる。一度試しに喧嘩を売りに行く手もあるが、反転という初見だけ対応の難しい一の能力のため、一撃必殺である能力を明かすのはもったいない気もする。


 相手は手練れだ。初手の攻撃が通用するかも分からない。相手は炎と雷の遠距離二人、助けてくれた彼女の能力はまだ見たことが無いので分からないが、武器が無いということは何かしらの能力系だろう。この四つ巴で上手く生き残れる可能性は低い。


 思考を巡らせていると頭を突然叩かれ、顔を上げるとウィルネさんが何か言っているが聞こえない。


「どうしたんですか?」


 電車内でもギリギリ聞こえる声量、それでも傍からではウィルネの存在は見えていないため予想以上に視線を集める。


 ウィルネさんはゆっくりと腕を上げ、ドアを指さす。指された方向に視線を向けるも外に魔法少女がいるでも何でもなく、ただすぐに移り変わる景色が目に入るだけだった。『そこじゃない。上だ』という声に少し視線を上げると電光掲示板には知らない駅の名前、行く予定のない駅名が表示されている。


「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか!? ギリギリの登校なのに!」


「ボクに文句を言わないでくれ。キミのせいだろ」


 すかさず座席から立ち上がり、ドアの前で必死に次の駅を睨みつける。ホームに入りゆっくりとドアが開き始めるが開き切る前に既に片足を電車から突き出して他の客に驚かれる間もなく向かいのホームへ駆け抜け、電車に乗り込む。満員電車に乗るのは久しぶりの事、ドアに張り付き揺れる度に苦しくなる。


「変身して行けばこんな事にはならないのに、お陰で満員地獄だよ」


「ただ行く途中で出会った魔法少女と戦わせたいだけですよね」


 後からウィルネさんに聞いた話だが、学校内で何度か魔法少女の反応を確認した事があるらしい。あいつを倒した後にもその反応は何個かあったという。ウィルネさんはそれを分かっていながら変身して行かせようとしている戦闘狂なのだ。


 荷物一つ分の場所をとるウィルネさんをカーブで押しつぶす。落ち着いたように何かを話しているが口元を塞いでいるため何を言っているか分からない。


「胸元で喋らないでください……!」


 言葉としては聞き取れなかったが、言いたいことは何となく分かる。しっかりと私のコンプレックスを理解し、フォローという名の煽りをしているに違いない。


 朝から走り、チャイムの鳴り始めると同時に私は教室の扉を勢いよく開いた。その勢いに視線が集まり、私は気恥ずかしさを感じた。


「おはよ、今日もギリギリだね」


「はは……最近振り回されててね」


 唯一中学から一緒の友達、桐谷 ひより。明るく、人柄も良く友達も多い。整った顔立ち、隈の一つない綺麗な目。あと胸がデカい。完全に私の上位互換の存在。一人称が自分の名前であざといが、可愛いで解決が出来てしまう程可愛くて人気がある。


 長い付き合いで仲良しだが、勿論魔法少女の事は一切話していない。しっかりと自分の立場は理解しているつもりだ。


「……ねぇ、ひより。中学生を殺すにはどうしたら良いかな?」


「本当に最近大丈夫!? ひよりは心配だよ!?」


 授業中、休み時間、トイレ中、午前中を全て倒す方法を考え続けたが、いい案は思いつかなかった。他人の目には映らないからと言って教室中を飛び回るウィルネさんに気を削がれたせいでもある。


「ご飯一緒に食べよ? いつもとは違う所で」


 ひよりから誘われるのは久しぶりの事だった。彼女の言う通りにお弁当を持って通る事のない道を通り、全く人気の無い体育倉庫まで来る。既に辺りには人影一つすら見えないが、さらに奥に進み、南京錠の外れた扉を開く。


「これ入って良いの……?」


「案外ここまでは有名だよ。実はこの先の部屋も入れるんだけどね」


 いかにも故意に崩されたであろう穴にひよりは手を伸ばしていき、ガチャっと鍵の開く音が聞こえる。建付けが悪いのか鉄の重たい扉がゆっくりと独りでに開く。『お先にどうぞ?』と言わんばかりの視線を送られゆっくりと入る。


 人の立ち寄る気配の無い静かな空間はコンクリートの壁が冷たさと無機質さを放ち、雑に端に避けられ中央のスペースに広げられた安全マットからは嫌な予感を感じ取る。


 重々しく扉の閉まる音が響き、後ろを振り向く。斜め下を見ながら俯くひよりの姿、そして響く鍵の閉まる音。ただのお話ではないと察しがつき、ゆっくりと弁当をその場に置いて俯いた彼女から目を離さない。


 彼女が私に勝てる可能性は無い。素で戦えば大差は無いが、私は魔法少女になるという奥の手がある。正体がバレてしまったとしても殺せば証拠は残らない。近くまで運び適当に爆発でも起こせば不慮の事故として処理される。


 頭では冷静で冷徹な判断を下せる。非情である事が最善であり、この世界を生き抜くコツというのは理解している。しかし、私の手は止まったままだった。胸の奥でそれ以外の運命を叫ぶ声が聞こえる。


 顔を上げたひよりの瞳には哀しさと非情さが合わさっている。未だ決断の出来ていない曇りを帯びた目をしている。両者共に躊躇いが残る中、瞬き一つでひよりの弱々しい眼つきは鋭く豹変し、私との距離を測り、殺気をも感じるような眼つきへと変わった。


 その視線に答えるように息を大きく吸い、未だ決め兼ねていた決断を下す。震えていた手は落ち着きを取り戻し、固まっていた脚の力を抜き、重心を調整する。それでも頬に伝う汗だけは止められず、半端な覚悟が滲み出ている。


 パンの入った袋をそのまま落とし、ゆっくりと距離を詰めるひより。ひよりに変身する仕草もトランスフィグラーレと口にすることもない。一つの憶測が私の頭に飛び込み判断をさらに鈍らせる。


 魔法少女ではない――?


 ただの人間の場合、魔法少女だった場合、どちらにしても後手に回る。殴りかかる気配の無いひよりに本気で身構えることも出来ずに後退る。


 両肩を強く握られ、真剣な目線で見つめられる。大きく唾を呑み込み変身する言葉を発さないかと口元に注意する。大きく息を吸い込み、口が開く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ