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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第三話 『変化』
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渡せない

 ウィルネさんの拒否は予想外の答えだった。妹の時間がない事も伝えた。それでもこの答え。一気に遠のいた願いに絶望しながらもその答えを出した理由を問いただす。


「単純に効率が悪いんだ。ボクは常に力を溜め続けている。キミが魔法少女となっている間の時間と経験値を力に変え、殺した時にも力を得る。そんな大切に溜めてきた力を簡単に渡せないって話さ」


 腑に落ちない説明に私は怒りがじわじわとこみ上げてくるのを感じた。これでは私の願いが叶わない。


 なぜウィルネさんはそれほど力を溜めるのか、何に使うのか、全てが曖昧な説明。だがこれ以上問いただしても彼は口を開くことは無いだろう。


「キミに力を渡しても死んだらまともに帰ってこないからね。なら少量を分け与えて、死んだら次の子に交代していった方が効率良い」


「私が死んでもいいと思っているんですか……!?」


 いつもの顔、その顔が嫌いだ。全てを上から眺めるような、駒を操る支配者の様な不気味で怖いその笑顔が憎い。


「……そうだとも」


 最初から弄ばされていた。『願いを叶える』という蜜を垂らし、その長い道のりで死ぬことも計算に入れていた。それが前提だった。


 私は距離を詰め、片手で押さえられそうな小さな喉に手を掛ける。呼吸などしていないのか、そのいつもの余裕そうな表情は一切曇らずに笑い続ける。この顔をこれ程憎たらしく感じたことは無い。


 その屈辱、あるいは最後の希望が砕け散ったからか、私の涙が頬を伝いぽたぽたと床に落ちた。涙で滲んだ視界に鮮明に映るウィルネさんの口元に、衝動的に絞める力が上がった。


「キミを殺そうと思えば殺せるんだ。まぁ、力を消費するからしないけど……早く退けてもらっていいかな?」


 首を絞め、ぎちぎちと軋む音が私の荒い呼吸や滴り落ちる涙の音を搔き消して耳に響いた。ほんの少し困ったような表情を浮かべ、やがて呆れたような溜息を漏らした。その瞬間、絞める音は消え、手に広がっていた奇妙な生々しい感触がもこもことした柔らかな布の感触へと変わる。そして落ち着いた声が背後から響いた。


 大量のぬいぐるみの中に埋もれながら、ウィルネさんは手形の付いた首元を触りその痕の深さに少し驚いている。


「今のも力使っちゃたんじゃないんですか? あんなに渋っていたのに」


「これくらいならキミが死ぬまいと変身して一戦やってくれれば元は取れるよ」


 両者が皮肉を言い合い睨み合う。片方はぬいぐるみの中に埋もれたファンシーな姿だが、その空気感は重苦しく、終始ぎすぎすとした嫌な空気を漂わせる。


「……どのくらいそんな事を続けているんですか。何人そうやって見殺しにしたんですか」


「ずっとだよ。ボクが魔法少女に変えられる力を得てからずっと。何なら君の願いは簡単に叶えられる程にね」


 その力を私の願いに使えと言う程強情ではない。ただやはりそのやり方には腹が立つ。私もその一人に数えられてしまうのだから尚更だ。


 彼がそれ程の力を集めて何をしようとしているのかは分からない。だがその計画は壮大なもので、世界を変える程の野望をその小さい身体に秘めているのかもしれない。この質問にも何も語ってくれないと予想していたが、思っていたよりも簡単に答えが聞け、この際すべての疑問をぶつけてやろうと質問を続ける。


「じゃあ、『人間に戻れなくなるよ』っていうのは何だったんですか」


「……? あ~それは適当に言っただけだよ。力を与えたくないからね」


 あの時の感じた恐怖がこんなにも呆気なく、それも嘘だと告げられ思わず拳を握る。魔法少女を続けていたら人間でなくなってしまうと思いながら眠ったあの夜の恐怖と覚悟。それを返して欲しいと私は強く思った。


 そんな理由に興が削がれ、握っていた拳の私の力を解く。大きなため息をつきながらベッドに横たわり、埋もれながら絞め痕を撫でるウィルネと目を合わせる。


 そう簡単に妹を助けられるとは思っていなかった。例えウィルネさんの力があってもそれなりの時間がかかる事は理解していた。ただ少し過去の事と利用されていた事に腹が立っただけ。


 三年の歳月は私を大人にさせ、あの鮮烈な記憶もじわじわと輪郭を霞ませ始めていた。妹の回復を思う気持ちも、半分は諦めが付いていたはずだった。たった少しの希望で焦点をずらしただけ。明日妹が死んでしまっても轢かれた時の様に声を上げて泣き叫べるかと言えば、もう、出来ない。


 そっとウィルネに手を伸ばし自分が付けてしまった痕を撫でる。くっきりと付いていた痕は触らなければ凹んでいるのが分からない程まで治っている。


 段々と行く回数の減った病室、妹の前で一人称を変えなくなった自分の変化。また目を覚ますと信じていた熱意。全てが変わっている。けれど、時々忘れないように痛みを思い出し、その都度自分のせいにし、深く刻み直す。


 もうおねーちゃんとは言えないのかもしれない。それでもこの自傷からの解放、そして隅に残るおねーちゃんの残像が魔法少女へと突き動かした。


「あとどのくらい必要なの?」


「まだまだ沢山かな」


 ウィルネさんの中には実現する力はあるというのに変わらない答え。どこまでも彼は協力してくれる気は無いらしい。そんな予想通りの答えに微笑み、ぬいぐるみの山の中からウィルネを引きずり出し抱きしめる。


「じゃあ意地悪してあげる。私は妹を助けるまで死にません! 時間がかかっても妹の目を覚まさせて私が溜めた分の力を全部使う」


 そっと下に目を向ければ見通しの良い胸の先に変わらずに気味の悪い笑みを浮かべるウィルネさんの姿が見える。だが、その瞳の奥に僅かな揺らめき見えた気がした。


「それは困ったね。ボクのやり方の隙を付かれた」


 妹の心臓が動いている限り諦める事は無い。例え植物状態になったとしても願いを叶えられれば生き返る。死んでしまったとしても集めて、願えば還って来る。時間がかかっても絶対に諦めない。


「……それで、いつまでボクを抱きかかえるのかな?」


「首絞めとどっちが良い?」


 抱きかかえる腕の強さを少し強め、意地悪く微笑んだ。


「……人間じゃなくなってきたんじゃないかい?」


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