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魔法少女と願い事  作者: 天然無自覚天然難聴主人公
第三話 『変化』
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……だけど、妹を早く

「私はまだバレてませんよね……!?」


「どうだろうね。あの子馬鹿そうだから彼女にはバレていないんじゃないかな? 彼女に付いているボクの同族は知らないけど」


 黒いセーラー服に身を包みながら裾の長いスカートの中で脚をじたばたとさせ、揺れ動くショートウルフヘアーの間から見える瞳はその圧倒的な力の対決に見入って輝いている。子供の様にはしゃぐ彼女だが身長は百六七センチ程度で私よりも高い。


「まだ滾れる……消炭色に願いを――トランスフィグラーレ……!!」


 そう唱えると彼女の内から暗い灰色を滲み出し始め、彼女を覆い凝縮し彼女の身体にぴったりと纏わりついた。鋼の様に引き締まった筋肉質なボディーラインが一瞬見え、その上に薄暗い灰色の衣が生成されて彼女の戦闘装束が完成された。


 長い丈のスカートは変わらずに手には灰色の汚れた包帯を巻きつけ、胸にあるクリスタルの上には唯一魔法少女らしい大きなリボンが付いている。


「彼女に付いてるやつも馬鹿みたいだね。ボク達に気付いていないだ」


「名前は分かりませんよ?」


「尾行して家の表札でも見れば良いじゃないか? 名前は適当に聞けば分かるさ」


 彼女を殺す算段を練っていると拳と拳を打ち付ける鈍い音が響き渡る。その一瞬で魅せる気迫により彼女の強さを知らしめられた。――彼女は今まで倒してきた魔法少女とは明らかに違う。私より確実に上の存在だと。


 当たり前だ。こんな所に来て変身する魔法少女など腕に自信がある者しか近寄るはずもない。ヒシヒシと伝わる彼女の圧は大きな二つの圧にも引けを取らない。彼女は早めに殺すべき存在。


 汗が止まらない。震えが止まらない。この場に私以上の実力者が三人も集まるのだから。今までにないその緊張感と圧に身を当てつけられ、今までの戦いがまるでおままごとの様なお遊びに感じられる。


「さぁ、来いよ……強い奴――」


 すさまじい光と共に、激しい熱と共に両者が姿を現した。言葉を失った。口を開いたら喉が焼けてしまうのではないかと思う程、痺れたように一歩も動けずに格の違いを見せつけられた。


 足の力が抜け、地面に座り込む。視界の端ではようやく汗が滲み出す程度でしっかりと立ち尽くす姿が見える。その目はこの圧を受けてもなお戦意を失う事は無く、さらにやる気が湧き出ている。


 この場で尻込みしているのは私だけだった。強くなった気でいた。怖さは克服したと思っていた。だが現実の私は脚が動かず、膝を振るわせているだけ。自分の弱さを思い知らされ、思わず目を瞑り、頭を覆った。ここは生半可な覚悟の人間が踏み入ってはいけない領域だと思い知らされた。


「――おい、一般人がなんでこんな所にいるんだ?」


 いつの間にか視界の端から正面へ移動し不思議そうにじっと見つめられる。姿が見られている状況で変身は出来ない。腰の抜けた私では逃げる事も戦う事も出来ない。


「あぁ、コロッケが美味しすぎて固まってたのか」


 謎の納得をされるもとりあえずその案に乗っかる。大きく首を縦に振り、素で怖がっている今の自分は逃げ遅れた市民にしか見えないだろう。


 少しぼやきながら頭を掻くも割り切ったように何かを決め、もう一度視線が合う。何が起こるかと思いきや身体を軽々と担がれ勢いよく空中へ飛び上がり、屋根を伝いながら衝突地点から離れていく。


 同じ跳躍移動。しかし、その速度も高度もまるで別の技のように感じる。言葉を発しようとした瞬間に舌に痛みが走り、涙が滲む中、そんな涙も置き去りにしてしまう程のスピードで熱の縛りから解放されていく。


「おい、大丈夫か? 次からは周り見て動けよな」


「は、はひぃ……ありがとうございます」


 先程までいた辺りからはまた普段の様に雷鳴が轟き、業火の炎が燃え盛る。軽い舌打ちをしながらその魔窟をじっと眺める彼女の目にはまだ闘志が宿っている。


「コロッケ屋からちょっと行った所のたい焼き屋も美味いぞ。じゃあな」


 それだけ言うと私を運ぶ時よりも速く飛んで行き、すぐに捉えられなくなる。


「……馬鹿で良かったね。さて、名前当てに向かうとしよう。さっさと殺したほうが早い」


「……いえ、彼女は殺しません。助けてもらったんですから」


 やれやれと言わんばかりに首を横に振りまた姿を消す。両手を握りしめ、震えの止まらない足を見る。


「こんなんじゃ生き残れない……私も強くならなくちゃ」


 今回は能力による相性などではない。ただ単純に私は心が折れ、最初から勝てないと諦めていた。


 夕焼けの赤い光に照らされる中、時間と共に恐怖心は薄れ、震えていた私の脚に徐々に力が戻って来る。深く息を吸い込み、周囲を見渡せば先程まで耳をつんざいていた激しい戦闘音は消え、平和な日常が再び訪れていた。


 スカートに付いた埃を静かに払い、重い足取りで帰路に就く。背後を影の様にゆっくりと付いて来るウィルネさんとは一言も言葉を交わすことなく、どこまでも重い空気に満ちていた。家に着くとすぐに自室に戻り後ろから付いて来ていたウィルネさんを見る。


「私に力をください。人間に戻れなくなるのは嫌です……だけど、妹を早く助けなきゃいけない!!」


 私は覚悟を決めた力強い視線を向けた。その目に迷い無かった。妹を助けたいと願うその信念が私をどこまでも突き動かした。


 時は刻々と過ぎていき、妹の命は既に風前の灯火だった――


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