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海を渡る

 晴海(せいかい)達一行は予定通り西条に至り、各寺に配った以上の金子を集めた。

 そして、これも予定通り、真夜中に石鎚山を目指した。

 「暗くて何も見えぬぞ。」

 「大丈夫です。私は夜目が利きます故、私の手をお握り下さい。」

 山田甚八(やまだじんぱち)は晴海に手を差し延べた。

 「他の者は大丈夫なのか。」

 「拙者は少し苦労しております。」

 その声は蘇我部充四郎(そがべじゆうしろう)のものだった。

 「あんた見えないのかい。」

 香月鞆子(かつきともこ)が笑いながら声を掛け、充四郎はそれに頷いた。

 「俺も見えんぞ。」

 手を取ってくれるとでも思ったのか、大円坊宗寛(だいえんぼうそうかん)までが声を上げた。

 その声を無視して、

 「槍を伸ばしな。私が連れて行ってあげるよ。」

 そう、鞆子は充四郎に促した。

 「俺はどうするんだ。」

 「あんたは儂が案内いたそう。」

 宗寛の手を木俣弥右衛門(きまたやえもん)が掴んだ。

 そのゴツゴツとした感触に、送還は舌打ちを洩らした。

 もっとも不自由をかこった晴海は凱全の背に負ぶわれることとなった。

 「弥次郎(やじろう)はどうしておる。」

 凱全(がいぜん)の背からの晴海の声に、一行の金庫番弥次郎は、

 「どうにか着いてきております。」

 と答えた。

 それから二刻近く、一行は石鎚神社の小さな社に行き着き、そこで残り少ない夜を明かすこととなった。

 社は小さく、八人全員が寝るには狭すぎた。

 「お前達は皆、外で寝よ。」

 凱全の背から降りた海は、鞆子に手招きをした。

 他の者達はそんな晴海の行動には慣れており、思い思いに外で寝床を探した。

 日が昇ると鞆子はいつものように姿を消し、他の者達は食事の準備を始めた。

 そんな中で、晴海はまだ社の中で寝ていた。

 「朝食でございます。」

 食事の仕度を済ますと甚八は晴海に声を掛けた。

 晴海は大欠伸をしながら社から出て来て、食べ物の前に座った。

 「これからは険しい道か。」

 晴海は甚八に向かって言った。

 これから僅かの間は峠越えになりますが、それから先は、土佐に入った時より遥かに楽です。」

 甚八は晴海を安心させるように言った。

 ふん・・・と晴海は鼻先で笑った。

 それでも、甚八が言う様に土佐に入るよりも遥かに楽だった。

 それから選ぶように山の中ばかりを進んだが、晴海も当初はそれ程不平は言わない道だった。

 それでも山の中、宿場などは当然無い。

 野営から野営、そろそろ晴海の癇癪が爆発しそうになっていた。

 それを救うように小さな神社に着いた。

 「儂は中で寝る。

 鞆子、来い。」

 晴海は鞆子の手を引っ張って、社に入った。

 つまり、他の者達は外という事となる。


 それからも山道が続く。

 たまにある神社や破れ寺で寝を取り、その度に晴海は鞆子を求めた。

 何日も山中を歩いた挙げ句、やっと海を見た。

 そこから目指す漁村まではまだ、二日は掛かるという。

 それを聞いて、晴海は溜息を漏らした。


 「やっとここまで来たか。」

 日の当たらぬ場所から晴海等一行を見る目が在った。

 「ここまで来れば、どんなに遅くとも五日もすれば九州に渡るだろう。」

 男は傍らの小男に話しかけた。

 「我等は先に九州に渡り、あの男の行く道を調えるぞ。」

 男は小男に強く言った。


 「どうしてこの四国というのは山が多いのだ。」

 晴海が愚痴をこぼす。

 それ程、山から山への旅が多かった。

 この半島に係ってもそれは同じ、しかも人々から身を隠すため、甚八は山道ばかりを選んだ。

 「集落に出る訳には参りません。」

 甚八はそれをどうにかなだめていた。

 また山の中を進む。その行程で右手にちらちらと海が見えることがある。

 「魚でも喰ってみたいものだ。」

 晴海はそう漏らす。

 ここのところ、山菜と干した猪の肉しか食べていない。狩りは甚八に止められ、その甚八は先を急ぐことしか考えていない。

 甚八は晴海の不平を聞き流しながら先へ先へと急ぎ、予定通り二日後には三崎(みさき)という漁村に着いた。

 「風帆船があるそうです。

 それで豊後、佐賀関(さがのせき)に渡ります。」

 そこには宿屋もあり、晴海達は久し振りに床の上で寝た。

 翌日は風待ち。翌々日に一港は船に乗った。

 豊後、佐賀関までは二刻以上を要した。

 「船員は全て殺せ。」

 陸に上がると晴海はすぐに甚八に命じた。

 「それは止しましょう。

 舟を港に残したまま船員が居なくなったとなれば噂に上り、足がつきます。

 ここは普通に、何事もなく・・・」

 甚八は深々と頭を下げた。

 その言に晴海はすぐに納得した。

 その日は六柱神社(むはしらじんじや)に泊まることになった。

 晴海は宿屋を所望したが、身を隠すためと甚八がそれを止めた。

 「これからどう行くのじゃ。」

 弥次郎が買い込んできた僅かばかりの酒を飲みながら、晴海は尋ねた。

 「ここは豊後国(ぶんごのくに)

 守護大名、大友(おおとも)様の力が強く、国内は安定しています。

 当然、京との往来もあり長居は無用かと・・・」

 甚八は後の言葉を濁した。

 「では何処に行く。」

 「筑後国(ちくごのくに)は同じく大友様の支配下にはありますが、離反常なく、政情は不安定。

 まずそこに参ります。」

 「そこからは。

 儂が住める地はあるのか。」

 甚八は一瞬困った顔をしたが、言葉を続けた。

 「まだ言うなと言われていたのですが、雉様からの連絡では筑前国(ちくぜんのくに)に面白いところがあるとか・・・」

 「それはどんなところだ。」

 「口止めされているため詳しくは話せません。

 が、筑前の国情についてはお話しいたしましょう。」

 晴海はその言葉に頷いた。

 筑前国は一応大内(おおうち)家の所領とされているが、その大内家は長禄合戦(ちようろくかつせん)畠山(はたけやま)のお家騒動以降、将軍家の不興をかこっており、その機を見て、豊後の大友氏が、筑後の有馬(ありま)氏と伴にその所領を狙っていた。

 筑前国の国主は元々少弐(しように)氏であり、それに大内氏が取って代わっていた。だが、小弐氏の力もまだあり、それに豊前との境の宗像(むなかた)氏。博多の財力を背景とした筑紫(つくし)氏。筑後との境の秋月(あきづき)氏。と国衆が割拠し、その上、元九州探題の渋川(しぶかわ)氏の勢力さえある。

 「国情が不安定・・つまり、都の令も届きにくく、身を潜めるには最適でございます。」

 ほう・・・と晴海は頬を緩めた。

 「しかも、筑前国と言えば政庁太宰府をひかえ、明との交易により栄える博多という町もありますれば・・・」

 「良し、そこへ行こう。

 だがそこに我等が勢力を張るところはあるのか。」

 「それはいずれ・・・」

 甚八は言葉を濁したが、晴海の気持ちはすでに筑前国に飛んでいた。


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