表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

二人の鞆子 (7)

 牙鬼(きばき)が一人の女を連れて戻ってきた。

 大童丸(だいどうまる)はその女も裸にした。

 「用があるのはあなたの中に棲む者。

 その者に用事が在るという事です。」

 「私の中に棲む者・・・」

 鞆子(ともこ)は怪訝そうな声を上げた。

 「そうあなたの中に棲む者。」

 大童丸は鞆子の目前に片手を、股間の辺りにもう片手を宛がった。

 「出て来なさい。

 この女の封印は解いてあげます。」

 何が、若しくは誰が出て来るというのか・・・鞆子の身体は細かく震え始めた。

 熱い・・最初に鞆子はそう感じた。

 それから直ぐに身も凍るほどの冷気にそれは変わった。

 「何を・・・」

 珍しく鞆子は呻いた。

 それに続いたのは、身を裂かれるような強烈な痛みだった。

 これしき・・・鞆子は歯を食いしばった。

 それでも、口の端から悲鳴が洩れそうになる。

 鞆子は、それを必死でこらえた。

 「始まりましたね。」

 身動きとれない充四郎の目に鞆子の姿がぶれていくように見えた。

 「あなたの身体が二つに分かれますゆえ、少し痛い思いをしてもらわなければなりませんな。」

 鞆子に苦痛を味あわせながらも、大童丸の口調は悠長だった。

 その様子を見ている充四郎の目に映る鞆子の姿は徐々二つに分裂していくように見えた。

 「魔性姫(ましようき)・・お前だったか。」

 大童丸は現れた顔に向け声をかけた。

 「誰ですか。

 解放してくれたのは感謝するが、見たこともない。

 それになぜ私の名を知っている。」

 分離の途中でありながらも、魔性姫と呼ばれた女は、目の前に立つ男に困惑の声をかけた。

 「大童丸だ。」

 男は現れつつある女に告げた。

 「大童丸・・・随分容姿が違うが。」

 女は怪訝そうな、咎めるような声を上げた。

 大童丸は着物の襟首当たりに手をやり、背中を丸めた。

 すると、顔の皮がぶらんと垂れ下がり、大童丸本来の顔が現れた。

 「なんと・・・確かに大童丸殿。」

 魔性姫は驚きの声を上げた。

 「人の皮を着ておる。そうすることで、日の光から身体を守れる。

 まあ、難点は見た目が変わると言うことだがな。」

 「そうでしたか。

 お久しぶりです。と申し上げたが良いのでしょうね。」

 「そうだな・・もう何百年も経つ。」

 大童丸自分の容姿については、魔性姫が理解できない言葉を吐いた。

 「お前もまさか他の身体に入っていようとは思わなかったよ。

 取り憑いたのではなくな。」

 「当初は、取り憑いてこの躰を自由に動かそうと考えていた。

 が・・・」

 魔性姫は口惜しそうに下を向いた。

 「が・・・」

 大童丸は話の先を促した。

 「遠い昔、陰陽師に追われ、この女に取り憑こうとした。

 しかし、この女の力が強すぎ、かえってわらわの方がこの女に取り込まれ、操るつもりが逆に何も出来なくなった。」

 「それ程強いのか。」

 「取り憑こうとしたのが追われた挙げ句、急いで取り憑いたのが、昼間でもあったしな。」

 「取り急ぎ取り憑いたら、その女が・・・と言う訳か。」

 大童丸は納得したように肯いた。

 それを見て大童丸は、牙鬼に

 「魔性姫の身体が完全に分離したら、その男と女、二つの身体を、捨ててきてくれ。

 この森の中、私が黒い線を引いておく、その内側に置いてこい。

 女の着物も忘れずに持って行けよ。」

 それから暫く、魔性姫の身体は鞆子から完全に分離し、牙鬼は命じられた通り、二つの身体を抱え上げた。

 それを見届け大童丸は再び魔性姫に語りかけた。

 「そのままでは昼間に出歩くことは出来ぬゆえ、女の躰を一つ用意してある。」

 大童丸は素裸で立つもう一人の女に顎をしゃくって見せた。

 「その女に取り付けと・・・

 面倒な話しだ。」

 魔性姫は難色を示した。

 「そうでは無い。私と一緒だ。女の皮を着る。

 姿形は少し変わるが、これが一番便利だ。

 それに、人の皮は月に一度位で取り替えれば良い。」

 そう言う間に大童丸の顔は元に戻った。

 「皮を着る・・か。

 どうすれば良い。」

 「私がこの女の皮を剥がします。

 それを着ればよろしい。

 但し、皮の剥ぎ方はその眼で見て覚えて下され。いつも私が一緒とは限りませんからな。」

 そう言って大童丸はブツブツと呪を唱え始めた。

 それから僅かの時間で、立っていた女は声は出ぬものの、もの凄い苦痛の表情を見せた後に、へたり込むようにその場に崩れ落ちた。

 「これで、人の皮の出来上がりだ。」

 そう言うと大童丸はその人皮の背中に切り込みを入れた。

 「ここから中に入る。」

 大童丸がそこを拡げ、魔性姫はそれを着るようにその中に入った。

 「それで、日の光を気にしなくて良い。」

 大童丸はそれに付け加え、

 「但し、日は見てはいかん。

 人の皮の眼には穴が空いているからな。

 直ぐに太陽に焼き尽くされるぞ。」

 そう言いって大童丸は新たな呪を唱え、魔性姫の身体の前で、さするように手を動かした。

 それで魔性姫の身体と、着込んだ人の皮が一体化した。

 丁度そこに牙鬼が帰ってきた。

 「どっちに置いてきた。」

 「西の方です。」

 「それで良い。

 ではあいつを担げ。」

 大童丸が指さす先には、頬の皮膚を剥がれかかった鬼作が立っていた。

 「あの女から離れれば、こいつも動けるようになる。」

 大童丸は牙鬼に目配せをした。

 「それでは帰りましょうか。

 但し、この地に長居は出来ません。何しろあの女は私達の気配を覚えていましょうから、必ず復讐の爪を研いでくるはずです。

 宿に帰ったら、直ぐに出発します。」

 大童丸は魔性姫にそう告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ