二人の鞆子 (6)
大童丸様は本当に負けたのか・・・牙鬼は見えぬ背後に気をやった。
今であれば・・あの女が大童丸様に気を取られている今であれば、この男の喉笛を噛み切り、あの女に襲いかかる間はあるはず。
牙鬼はそう考えて動こうとした。
「動くな牙鬼。」
牙鬼の頭の中に大童丸の声が響いた。
一抹の不安はありながらも、牙鬼はその声に従った。
縛ったとは言っても、全身の機能を縛った訳ではない。頭は僅かに動くし、口もきける。
そんな大童丸の前に鞆子は立った。
「これで確実に試せるよ。」
鞆子は大童丸の顔に手にした刀で傷をつけた。その傷の深さはさほどでもなく、皮膚を裂いた程度だった。
コの字型に切られた皮膚の先端に鞆子は指をかけた。
「あんたと私、術の具合から見て力はそう変わらん様だから痛むぞ。」
そう言うと鞆子は顔の皮をベリベリと剥がし剥がし始めた。
それに対して相手は、身動きは出来ぬものの、苦悶の表情を見せた。
「大丈夫のようだ充四郎。次はそっちの鬼の動きを止める。」
鞆子は笑いながら、木の辺りで取っ組み合う二人の方向に歩き、念を込め始めた。
「そうはいきませんよ。」
不意に後ろから声がし、鞆子は動けなくなった。その瞬間に手にした刀も消えた。
「縛らせてもらいましたよ。」
声の主は鞆子の身体を自分に正対させた。
くっ・・・鞆子は悔しそうな声を漏らした。
「どうやった。」
それから鞆子は声を放った。
「先程の戦い・・一瞬私がおくれました。
それをおかしいとは思いませんでしたか。」
鞆子はその言葉に思い当たりがあった。
「あの時私は幻覚の呪を放った。あの呪の方が軽いからですな。」
鞆子の正面の男はにんまりと笑った。
「まんまとやられた訳か。」
「そう言うことです。
あの瞬間から、お前は私の影と戦っていのです。」
男は声を上げて笑った。
「私に何の用だ。」
「向こうの男も縛ってきます。
話しはそれからにいたしましょう。」
男はすたすたと鬼の方に歩いて行った。
「逆向きになれ。」
そこにいる二人に近づくと男は、充四郎を押さえつけている鬼に声をかけ、体勢を返させて槍を持った男に術をかけた。
「牙鬼、もういいぞ。
後ろの置いてきた女を連れて来てくれ。」
男は鬼を牙鬼と呼び、その鬼に命じた。
「さて、自己紹介しましょうか。」
男は鞆子の前に顔を突きつけた。
「私の名は、大童丸と申します。
向こうに居た鬼は牙鬼。
多分これが最後の接触とはなりましょうが、よろしくお願いします。」
鞆子は二つの名前を恨みを込め、口の中で呟いた。
「あなたの名前は香月鞆子様・・そして向こうの男は蘇我部充四郎信親殿。
間違いはございませんか。」
否定しても無駄だろう・・鞆子は素直に肯いた。
「ところで何の用だ。
命を取る様子はなさそうだが。」
殺そうと思えば、充四郎と自分を縛った時に命は奪えたはず・・・それをしなかった。
そう考えた鞆子は強気の声を上げた。
「それは分かりませんよ。
あなた方は私の掌の上、いつでもどうとでも出来ますゆえ。」
大童丸はニヤリと笑い、それに対して鞆子は苦笑いを洩らした。
大童丸は動けぬ鞆子の後ろに回り、着物の帯を解き始めた。
「何をするつもりだ。」
その鞆子の問いには答えず、大童丸は帯を解き終わるとその着物を脱がせ始めた。
「あんたの用というのはこんなものだったのかい。
裸が見たいなら見たいと、抱きたいなら抱きたいと言えば、その用には応えてあげたのにな。
まあ、抱くならそれなりのものが必要だが・・・」
鞆子は薄ら笑いを見せた。
「確かにあなたの身体に用がありましてな。
但し、その用というのは男と女で・・と言うことではありません。」
大童丸は笑いを返した。




