二人の鞆子 (4)
宿から南西にある森に入っていく、そこは低い山になっており、その森は深い。
鞆子と充四郎はその森に足を踏み入れた。
大童丸は、二人を追っている鬼作の眼を通して、その様子を見た。
喜作の目を通した辺りに二人の姿以外には見えない。
「牙鬼はどこにいるのやら・・・」
大童丸は自分の下僕の居場所を考え、思わず声を発した。
大童丸様は来られるのか・・・牙鬼は牙鬼で大童丸の動きを考えていた。
「二匹いるよ。」
鞆子はちいさな声で充四郎に言った。
「この間の奴か。」
充四郎はそれよりちいさな声で鞆子に問うた。
「違う。」
今度は声は聞こえず、鞆子の言葉だけが頭の中に響いた。
「近いのか。」
「一匹は近くにいる。もう一匹は遠くから我等を見ている。」
鞆子は充四郎がこの気配を感じ取れないことに苛立ちを覚えながら、そう伝えた。
「やるか。」
充四郎の唇が小さく動いた。
「その必要はない。今のところこいつ等に殺意はない。
それに私を狙っている者もいない。
下手に手を出せば、こちらが気付いていることを相手に悟られる。」」
頭の中の声はそう応えた。
「それでは。」
「普通にしておけ、危機が迫れば、また伝える。」
鞆子は一心に薬草を探している様に見えた。
「大童丸様、お出でで。」
牙鬼は自分の後に声をかけて、そのまま片膝をついた。
「どんな様子だ。」
大童丸はその男に声をかけた。
「様子は変わりません。
いつものように薬草を採取しています。」
「変わりなくか・・・」
大童丸はニヤリと笑った。
「だからお前は鬼将とはなれなかった・・丸の一字が付かなかった。」
大童丸の笑い声が牙鬼の頭の中で響き渡った。
「お前はもう気付かれているよ。」
えっ・・と牙鬼は声を上げた。
「今ので確実になった。」
「貴方様は・・・」
「私はまだだ。
お前の気配の後ろに隠れているからな。」
「充四郎、あんたは鬼の相手が出来るかい。」
またも頭の中に鞆子の声が響いた。
鬼の相手・・・今までやったことはない。だが、妖魔を斃したことはある。猿猴だ・・河童の一種。土佐で斃したことがある。
だが、鬼となればどうなるのか・・・
充四郎は頭に角の生えた、巨大な人間を思い浮かべた。
「そうだ、鬼だ。
斃せなくとも相手は出来るかい。
私はそいつに関わり合ってはいられない。本当に斃すべき者はまだ現れぬもう一人・・・そいつと戦う。」
「戦うって、斃せないのか。」
「解らぬ・・そこらの鬼であれば間違いなく斃せる。・・・が、この前の気配の奴は解らぬ。」
「では、どうするのだ。」
「だからあんたにそいつの気を引いて欲しかったが、そうもいかんようだ。
私が縛るのが先か、向こうが先か・・速さ比べだよ。」
その言葉とは裏腹に、鞆子の貌はこの戦いを楽しんでいるようにさえ見えた。
「牙鬼、お前はあの槍の男を押さえきれるか。」
「押さえるだけでよろしければ、どんな手を使ってでも。」
大童丸と牙鬼の会話は、相変わらず声を必要としていなかった。
「大童丸様は・・・」
「私はお前があの男を押さえたらすぐに、女の方に術をかけて縛る。
それからが私の本当の仕事だ。」
「貴方様の力で二人供を押さえることは。」
「出来ぬ。
こうやって日の光に対しての対策はしているが、昼間の私の力は本来の半分にも及ばぬ。それでも男の方は簡単に縛れようが、女の方はそうはいかん。
そう・・先程言ったようにどちらが早いか・・・そこに邪魔が入ってもらっては困る。」
大童丸の言葉に牙鬼は強く肯いた。




