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蟷螂(かまきり)(4)

 遼河は朝の鍛錬を終わると、子供達の遊び相手を務めていた。

 何しろ、剣の師匠である上妻与一(こうづまよいち)は交易品の仕入れに行くという仙原一蔵(せんばらいちぞう)片瀬盛綱(かたせもりつな)と供に同行している。

 遼河もそれに同行しないかと誘われたが、かえでも一緒にと言い、そのかえでは同行を拒んだため、遼河は屋敷に残ることになった。

 その上、鳥尾六郎(とりおろくろう)はほぼ毎月のことであるが、満月が近くなると宇佐参りと称して、十日ほど屋敷を空ける。

 六郎が居ず、剣術指南の与一が居ないとなれば、この屋敷に寄りつくものはそうそういない。

 その為、遼河は時を持て余し、自身の剣術の稽古と、かえでがみるべき子供達の相手をしていた。

 かえでの方は朝の内に遼河と少し剣術の稽古をした後はお福に師事して織機の前に座っていることが多くなっていた。

 遼河がみている子供達の中で女児は自分達だけで遊ぶことが多く遼河は男児と戯れることが多かった。

 そんな中で、たまには男女一緒に遊ぶこともあり、遼河はそんな時は木刀を振っていた。

 そうしている遼河に近づいてくる子が一人だけいた。

 その子の名は高遠仙丸(たかとうせんまる)・・仙原一蔵の曾孫であった。

 仙丸は棒切れを持って遼河に打ちかかってきた。

 その太刀筋は遼河の眼には鋭く移っており、遼河はいつもその子の相手をしていた。

 「まいにち、けいこをみてもらってもいい。」

 その子は今は手空きの遼河にそうせがみ、遼河はそれを受けた。

 いつかは師範にみてもらおう・・・相手をする内に、遼河はそう考えていた。


 「割と早く好機が訪れたようだな。」

 大童丸(だいどうまる)末吉(すえきち)に笑いかけた。

 「どこの件でしょうか。」

 その言葉に末吉は問い返した。

 「例の屋敷のことだ。

 多くの者が出払い、今は、ほぼあの男の(おのこ)一人のようだ。

 「それも、あの使いの男で解ったのですか。」

 「そうだ・・奴の目を通して私は者を見ることが出来る。

 その結果だ。」

 末吉には何が何だか解らなかった。

 「そろそろ動くだろうから。私は向こうに行く。お前はまた留守番だ。」

 大童丸はゆっくりと立ち上がった。


 目指す屋敷の近くで虫篭を持った男は躊躇していた。

 屋敷の庭に入ってカマキリを取り出せと言われていたが、それを取りまく家を無視して庭に入れば、どんな詮索を受けるか解らない。それにどんな扱いを受けるかも・・・どうしても躊躇せざるを得なかった。

 そんな男の肩が、後ろから叩かれた。

 「今が好機でしょう。

 中に入りなさい。」

 男は振り向いたが、何の姿も見えず、声だけが頭の中に響いていた。

 男は怖気を振るい、その場で虫篭を開けてカマキリを放りだした。

 見ている目の先でカマキリは大きくなり、鉄で出来たような前肢を自分に向けた。

 男は悲鳴を上げて逃げようとしたが、カマキリは前肢と中肢で男を絡め取り、その頭にかぶりついた。

 瞬時の絶叫が男の口から発せられ、その声は遼河の耳にも届いた。

 仙丸の剣術の相手をしていた遼河は、すぐにかえでの元に走った。

 かえでは広い庭の隅で泣いていた。

 かえでの無事を確認すると、遼河は屋敷近郊に残っている他の者達の元に、危急を伝えるため仙丸を走らせた。

 しかし、庭に集まってくる者はなく、橘千代(たちばなちよ)一人が宵を抱いてそこに来た。その後ろにはお(おふく)の姿もあった。

 遼河はそこに居る子供達も見廻しすぐに声を発した。

 「千代様、この場をお願いできますか。」

 遼河の声に彼女は頷いた。

 「私は仙丸を連れ、声の方に向かいます。相手が何者か解ったら仙丸を戻します故、仙丸の言葉にしたがって下さい。」

 相手が少数であればここで戦い、多数であれば屋敷に立て籠もる。遼河はそう考えていた。

 遼河は声の元に向け駆けた。その後ろをけなげにも幼い仙丸もついてくる。

 その仙丸に遼河は自分の腰裏の脇差しを一本渡した。」

 「何かあったら、それで戦え。

 お前なら出来る。」

 遼河の声に仙丸は大きく頷いた。


 遼河と仙丸の足はに輪の外に出た。

 そこには、絶叫の主であろう人間を抱え込み、その腸を貪り食う、人と同じ位大きなカマキリの姿があった。

 それを見ると遼河は、

 「お前は帰れ。帰って千代様と一緒に子供達を守れ。」

 と命じた。

 その際、遼河はもう一本の脇差しを仙丸に渡し、かえでに・・・とそれを託した。

 そうしている間に、向こうに居るカマキリは遼河に気付いたようだった。

 背の羽根を広げ、威嚇するようにして遼河に向かってきた。

 遼河は左肩に背負った刀を抜いた。

 その刀は「鬼切丸」・・・以前は扱いに苦労していたが、鍛錬により力がつき、身体も大きくなった遼河は、その刀で毎日の日課をこなし、その長い刀を使えるようになっていた。

 遼河は両足でトントンと調子を刻んだ。

 それが本来の遼河の構えであった。

 与一にはそれは止せと言われていたが、遼河はこの動きが一番しっくりと来ていた。

 遼河は、普段の与一との稽古では出さない動きを使うことにした。

 両足で調子を取り、少し背中を丸めた。与一に言われて以来その構えは余り採らず、与一が満足するような姿勢で、彼との稽古を続けていた。

 しかし、遼河本来の構えはこれ・・・彼は与一に隠れてこの構えの鍛練も積んでいた。

 カマキリが大鎌を振ってきた。それを好機と遼河は左から右へと踏み込み、鎌が振り下ろされた時には、カマキリの中肢二本を斬り落とし、その左横に身体を移していた。

 こうなれば後は二刀を使う人間と同じ、遼河はすっと背筋を伸ばし、刀を大上段に構えた。

 こうすれば相手の身体も伸び、胴が空く。そこを狙う。

 遼河の狙いと動きは的確で素速かった。

 遼河の刀は、あっと言う間に細いカマキリの胸を両断し、カマキリはその場に倒れた。


 「いかがでしたか。」

 宿に帰った大童丸に末吉は尋ねた。

 「男女二人組も、男の(おのこ)も素晴らしい腕だった。

 特にあの鞆子という女、魔術を使って鬼カマキリを斃した。どうも何かがありそうだ。あの女を追うぞ。」

 それから、連日の様に末吉を晴海等の宿の近くで見張らせた。


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