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狐と鬼(4)

 火を灯す時間になって、晴海達は宿に帰ってきた。

 「どうしてもあそこを手に入れたいものだ。」

 宿に帰り着くとすぐに晴海(せいかい)は充四郎と鞆子を前に話し、そして自身の願望を述べた。

 「それはおいおいと。」

 山田甚八(やまだじんぱち)は晴海性急な言に釘を刺すように言った。

 「それではどうするつもりだ。」

 「前にも言ったように、晴海様には博多の宿に入ってもらいます。

 その間に、少しずつこちらの者達をあの中に送り込み、乗っ取りの準備を始めます。」

 「乗っ取るには、あの鳥尾六郎(とりおろくろう)というものを何とかしなければなるまい。」

 「それが一番の問題です。

 ですから、それを除く機会を探るのが一番の狙いとなりましょう。」

 「手立てはあるのか。」

 「今のところ何とも。

 それ故、晴海様には博多に滞在して頂き、機を窺って頂きます。」

 「長逗留になれば疑われるのでは。」

 蘇我部充四郎(そがべじゆうしろう)が横から口を挟んだ。

 「それはありますまい。

 博多は大きな商人町、各地からの旅人は掃いて捨てるほどいます。我等はその中の一人に過ぎません。

 但し、たまに他所に足を伸ばすことが必要でしょうが。」

 甚八はこれからの身の振り方を提案した。


 晴海と同じ宿には甚八、鞆子それに充四郎が泊まり、他の連中はもう二宿に別れた。

 部屋は晴海と鞆子が同じ部屋、甚八と充四郎が同じ部屋となっていた。

 夜半過ぎ、晴海の伽をすませたらしい鞆子がそっとふすまを開け、充四郎を揺り起こした。

 甚八もそれには気付いていたが、身体を起こすことはなく、会話だけに聞き耳を立てた。

 それは、明日話がしたい。と言う何と言うことはないものだった。

 夜が明け、三人は晴海を待った。

 朝飯を済ませた晴海は大全と姿を現した。

 その姿に甚八が声を掛け、四人は宿の外に出、博多への道に乗った。

 先の安全は甚八が部下を使って既に確認してあった。

 博多の町で宿が密集している辺りまでは二刻も掛ければ問題なく着ける。

 宿を出て暫くすると他の者達も一行に加わってきた。

 そんな道程の中で、鞆子は充四郎は申し合わせたように森の中に入っていった。

 「話しというのは何だ。」

 二人きりになると充四郎はすぐにそう切り出した。

 「お待ちなさいよ。

 色々と聞き耳を立てている者もいるようだからね。」

 鞆子は見えぬ所で印を結び、それで、追ってきていた甚八の部下は眠りについた。

 「もう少し奥に入りましょう。」

 それから、充四郎を誘った。

 「話しとは・・・」

 頃合いをみて充四郎はもう一度切り出した。

 鞆子は前日にあった森の中での件を話し、そして自分の考えを付け加えた。

 気配は二つ。それを感じて振り向いた時には一つの姿は忽然と消え、目に入ったのは一人の農夫だけだった。

 「隠れたんじゃあないか。」

 充四郎が口を挟んだ。

 あの一瞬でどこかに隠れるなどあり得ず、何だかの術が使われたと鞆子は考えていた。

 では何だと言う充四郎の声に、

 「鬼。」

 と、鞆子が短く、しかし力強く答えた。

 「鬼とはまた聞き捨てならんな。」

 充四郎は微かに笑いながら、猜疑の声を上げた。

 「姿を見た訳ではないが、鬼に間違いない。

 今思えば、奴は数日前から私を追っていた。」

 「姿も見ずに良く鬼だと食んできたな。それに数日前から追っていたとは・・・それは晴海様を追っていたのではないか。」

 充四郎は鞆子に意見を投げかけた。

 「ならば、わざわざ森の中まで私を追っては来るまい。」

 鞆子は尚も反論した。

 「で、俺は何をすれば良いのだ。」

 充四郎は鞆子との議論は諦め、そう問うた。

 「暫く、行動を伴にしてくれぬか。」

 鞆子は珍しく頭を下げた。

 「それは構わぬが、拙者よりそなたの方が、鬼に対しては強いのではないか。」

 「確かにそうだ。」

 鞆子は充四郎の言葉を打ち消しはしなかった。

 「だが・・・」

 鞆子は言葉を続けた。

 「今回、私の術と相手の術を見比べると、相手の方が早い。

 私は院を結ばなければならぬが、奴は頭で考えたことを直接実行できるようだ。

 それが証拠に、私が振り向いた時には奴は既に姿を消していた。

 次回遭遇した時に、あんたの力を借りたい。」

 「魔術と魔術の戦いには拙者は手が出せぬぞ。」

 「あんたに魔術は望んではいない。

 私が術を掛けるまでの。瞬時の時間を稼いでくれれば良い。」

 「俺は時間稼ぎか。」

 充四郎がぽろっと零した。

 「私と奴の戦いの前では、あんたが出来るのはそれだけだ。」

 「手助けとなると、いつも一緒に居なければならないが、晴海様がそれを許すかどうか。」

 「許さんだろうな。

 だから、博多に着くまでは私はあんた達と別行動は取らない。

 博多に着きさえすれば、あの男は他の女に目が行き、私のことはそれ程見なくなるはずだ。動くのはそれからだ。」

 「その鬼とやらの接触を待つのではなく、こちらから仕掛けようというのか。」

 充四郎は呆れたように言った。

 「こちらから罠を仕掛ける。向こうが来るのを待っていては、術の差を考えると、とてもじゃないが勝てない。」

 「そこまで言うなら手伝おう。

 だが一緒の行動は目立つぞ。」

 「一行を離れる時は別々に動き、出先で合流する。」

 「解った。動く時には合図をくれ。」

 充四郎の言葉に鞆子は頷いた。


 「なぜあの女に・・・」

 「狐であることは間違いないようだ。

 もしかすると・・・まあ、それは良い。

 だが、あの女の中になにかを感じる。

 それが何であるかを確認するまで、あの女を追う。

 その為には奴の動きを知る必要がある。」

 「ですがどうやって。」

 「喜作を呼び戻す。

 但し、宿は別にし、連絡はお前が取れ。」

 「承知いたしました。」

 末吉は深く頭を下げた。

 「但し、暫くはあの女には手を出さん。」

 先に博多の宿に着いた大童丸は末吉にそう話した。

 「なぜですか。」

 末吉が問いただした。

 「あいつには私の存在はばれている。」

 「しかし、見られては居ないのでは。」

 「確かにな、だが気配は感じ取られている。

 となれば、奴は罠を仕掛けて私を待っているはずだ。

 その裏をかくために喜作の情報を使い、時を待つ。」

 大童丸はニヤリと笑った。


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