狐と鬼(3)
前回投稿分、前々回投稿分で「二人の鞆子」としていた表題を「狐と鬼」に改題しました。
ないように変更はありません。
「和尚様、もう間もなくです。」
甚八は晴海にそう声を掛けた。
「やっと着いたか。」
それを聞き、晴海は嬉しそうに声を上げた。
「それでは、明日からはそこが我等の本拠地となるのだな。」
「すぐに・・とはなりません。」
「なぜじゃ。
お前はそこに着けば・・・とばかり、言い続けたではないか。」
「はい、確かにここに来ようとは言って参りましたが、すぐにその地が手に入るとは言っておりません。
ここには当然勢力もあり、それをどう手に入れるか・・・それを解決しなければなりません。」
甚八は、まずこちらの体制を整えてここの偵察をし、それからここの全てを乗っ取るにはどうすればいいのか・・若しくは、どういった機会があるのか。を考える必要があることを晴海に話した。
「それでは儂はどうすれば良い。」
「先ずは、今日は子の地を視察して宇美八幡宮近くの宿に一泊し、明日は博多に向かいます。」
「博多というと、明貿易で栄えるあの港町か。」
さようで。と言う言葉に、何を期待したか、晴海の頬はすぐに崩れた。
甚八は目立たぬよう晴海と武士のなりをした木俣弥右衛門の付き人を装って古ノ添という集落に向かい、他の者達は先に宇美八幡近くに向かわせた。
「先ずは、外から様子を見ましょう。」
甚八は二人を連れて大きな屋敷の外に立った。
「随分大きいな。」
晴海は喜色を表した。
「ここだけではないようです。
が、先ずはここをよく見て、周りの人々に話しを聞きましょう。」
それから二刻ほど三人辺りを歩き回った。
そこの主は鳥尾六郎と言い、この屋敷では国内外の文物の売買をしているらしい。
更にこの奥にも広い庭を持つ屋敷があり、そこでは北部九州各地の著名人に頼まれて鬼を狩る隊も組織しているという。
「いかがでしょうか。
これを手に入れれば、今いる者達と合わせてかなりの勢力を張れると思いますが。」
甚八は勝ち誇ったように言い、晴海はそれに満足げに頷いた。
「あの蟷螂は一体何なのでしょうか。」
晴海達を追う山道で末吉は切り出した。
「あれは鬼だ。」
「鬼・・ですか・・・」
鬼と言われて、末吉は怪訝そうな顔をした。
「カマキリという虫は戦闘能力が非常に高い。
もし、人と同じ体躯があれば、人よりも遥かに強い。そんな虫に人の肉と血を与えた。
まあ、お前は気付かなかっただろうがな。」
「ですが、身体の大きさは虫のままですが・・・」
「まあみていろ。そのうち解る。」
大童丸は意味ありげに笑って見せた。
「ところで、奴等は二手に分かれたようだな。」
「どちらを追いますか。」
「今、気になるのは女・・そう言えば、どちらを追うかは解るだろう。」
二人は宇美に向かう一行を追った。
後を追っていると女が一人で道を外れた。
また小便か・・・宗寛は嘲笑った。
「薬草採りだ。」
充四郎はその言葉を咎めるように言った。
彼の言葉通り、鞆子はすぐには帰ってこず一行はそれを待つこともなく、宇美の宿を目指した。
「別れましたな。」
末吉が小声を上げた。
「女を追うぞ。」
大童丸の声が、末吉の頭の中で響いた。
末吉の目には、大童丸が口を開いたようには見えなかった。
末吉はゾクッと身を震わせ、喜作と同じ様な後がないかと、自分の身体見える所を全て見廻した。
「心配するな、お前には何もしていない。」
もう一度声が頭の中で響き、
末吉はいつの間にか自分も鬼に堕ちたのかと疑った。
「何もしてはおらぬ。お前は、お前のままだ。」
もう一度。
「それより、女を追うぞ。」
また・・・
鞆子は森の深いとこまで入り、何も気付かず薬草を摘んでいた。
大童丸はそれを遠くに見た。
あの女・・・大童丸はその姿に人にはない感覚を覚えた。
その瞬間、
気付かれた・・・そう悟り、大童丸の姿は一瞬にしてその場から消え、末吉だけが取り残された。
鞆子が振り向いた先には農夫のような男だけがいた。
おかしい・・・鞆子は首を捻った。
が、実際にそこにいるのは農夫だけ
殺気までの違和感・・それにあの匂い・・・あれは人間のものではなかった。
が、その気配、匂いは既に消えていた。
「そこの人・・・」
鞆子は思わず声を掛けた。
逃げようと身構えていた末吉は、怯えたように振り向いた。
「連れの方はおりましたか。」
「いいえ、私一人です。」
末吉は咄嗟にそう答えた。
「そうですか・・ところで、何をしに山の中に。」
鞆子は矢継ぎ早に質問した。
「山菜と茸を採りに参りました。」
「田畑の仕事もあろうに。」
「今年は不作で食い物が少のうございます。それ故、家族のためにこうして・・・」
末吉は何とか言い逃れをしようとした。
「そうかい・・家族思いだね。」
鞆子は自分の籠の中から、茸やら山菜を取りだして男の前に置いた。
「家族思いに免じて、今日は帰してやるよ。」
鞆子の声に末吉はホッと胸を撫で下ろし、目の前に於かれたものを集めて、立ち上がった。
「お前の主人によろしくな。」
立ち去る末吉の背中に鞆子はそう声を掛け、末吉は背中に凍り付く恐怖を感じた。




