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狐と鬼(2)

 「奴等を捜し当てるのに、随分時間が掛かったな。」

 英彦山から大回りをして、晴海等を探し、その後ろを大童丸(だいどうまる)達は追っていた。

 その影を見つけたのは晴海達が山に入ってから三日目のことだった。

 探すのには時間が掛かったが、見つけてからは相手の速度に合わせたため、至極のんびりとしたものだった。

 「旦那様一人お目通りを願いたい者が。」

 ある日、末吉(すえきち)が大童丸に声を掛けた。

 「どう言う事だ。」

 大童丸は怪訝そうな眼で末吉を見た。

 「私めは策は立て得ますが、情報を集めるのは不得手。

 そこで、それに適した者を一人・・・と思いまして・・・」

 「まあ、会ってみよう。」

 大童丸は軽く応え、それに応じて末吉は一人の男を部屋に呼んだ。

 「早耳の喜作(きさく)と申します。

 山家で拾いました。」

 「どんな男だ。」

 そう問われて、末吉は連れてきた男に顎をしゃくった。

 「早耳はあだ名でっさぁ。」

 話し始めた言葉の野卑さに、大童丸は顔をしかめた。

 しかし、男はそんな事は気にせずに言葉を続けた。

 「あだ名は耳ですが目敏くもありまっさ。

 何でも言ってくれれば、調べてきまっせ。」

 大童丸はちょっと嫌な顔をした。

 「旦那様、この男何やら見聞きしたことがあるようでございます。」

 末吉がそれを取りなすように言った。

 「あのことですかい。

 金が頂けるまでは話せませんよ。

 話しをするだけさせといて、ポイと棄てられちゃあかないませんからな。」

 その言葉にさすがの末吉も苦い顔をした。

 が、喜作の目の前に小金貨一枚が投げられた。

 喜作は慌ててそれを掴もうと手を差し出した。

 その手を大童丸が上から押さえた。

 喜作は下になった自分の手を引こうとしたが、軽くしか抑えられていないにも係わらず、その手はピクリとも動かなかった。

 「素直に話せるようにしてあげますよ。

 それに私に対す言葉使いもね。」

 大童丸はニヤリと笑い、それに反して、喜作の口からは凄まじい悲鳴が響いた。

 「さて、話してもらいましょうか。」

 「その前に手を離して下さい。」

 喜作は懇願する様に言った。

 「少しはましになりましたね。」

 大童丸は柔らかい表情で、喜作の手を離した。

 喜作の手の甲には丸から飛び出した十字の形が、痛々しく焼き付けられていた。

 「さて、それでは・・・」

 大童丸はそう促した。

 「青白く光る妖しい光りを見ました。」

 そこから喜作の話が始まった。

 喜作は坊主やら大男やらが、一団となって旅をしているのに気を引かれ、彼等を追った。

 理由は好奇心もあるが、金になるかも知れぬと言う期待もあった。

 とにかく、喜作はその一行を追った。

 一行が山家(やまえ)から山に入るとすぐに山狗の群の襲撃があった。

 そんな中で女が一人で一行を離れ、山狗の後ろに回り込んだ。

 それを喜作は木の上から見ていた。

 女の廻りには多数の山狗が寄ってきていた。

 女はそれを意にも介さず、ゆらりと両腕を振った。

 すると、その手から青白い光りが飛び出し、それは狐の形を採った。

 そうやって女が作り出した狐は四匹、それと抜き放った燐光を放つ刀で、次々と女は山狗達を屠った。

 それがすむと、女は青白い狐を掌の中に戻し、素知らぬ顔で一行の下に戻っていった。

 その時、女は喜作を見てニヤッと笑った。

 実際は違うかも知れないが、喜作ぶるっと背中を戦慄が走るのを覚えた。

 最後にそう伝えて、きすけは話しを締めくくった。

 「青白い狐の姿の光りですか・・・」

 大童丸は話しを聞き終えて、暫し考え込んだ。

 「その女は昼間はどうしているのです。」

 大童丸は喜作に尋ねた。

 「一行とはあまり一緒に居ないようです。

 薬師だという事で、森の中に薬草を集めに行っているようです。」

 そこまで話させて大童丸が指をパチンと鳴らすと、喜作はがくんと首を項垂れた。

 「なぜ・・・」

 「鬼や妖怪に関する話しをこんな奴に聞かれたくないのでな。」

 「左様で。」

 末吉は頷いた。

 「青白い燐光となれば、多分、妖狐だろう。そして、それを使うもの九尾の狐。

 一度会ってみたいものだ。」

 「それでは追いますか。」

 「もう目の前だ。後はその機会を見つけるまで。」

 「こいつはどうしますか。」

 「使うのみ。」

 「これから先も一緒に。」

 「それはせん。

 さっきも言ったように、この男に我等の話しは聞かれたくない。」

 「では、どう・・・」

 「彦山に登る際に会った女連れの一行を覚えているか。」

 はい・・と、末吉は応えた

 「あの連中を追わせる。」

 「逃げられますぞ。」

 「その心配はない。

 逃がさぬ為に焼き印を打った。」

 大童丸はニヤッと笑った。

 「それがどう・・・」

 「試しに起こしてみせようか。」

 大童丸がニヤリと笑い、末吉がそれに頷いた。

 それに応じ、大童丸は軽く手を挙げた。

 それと同時に喜作は手の甲を押さえて、起き上がり、すぐにその押さえた手も離し、悲鳴を上げた。

 手の甲から炎が上がっている。

 その元は、例の焼き印。

 炎は手を焼き尽くすことはなく、熱さだけを喜作に伝え、それはすぐに去った。。

 「なぜ突然こんな事を」

 喜作は右手を押さえ呻くように言った。

 「お前には今から違う任務を与え、私達から離れてもらう。

 だが逃げようなどとは思うなよ。逃げればまたその印が火を吐く。」

 それには喜作も頷くしかなかった。

 「報告は三日に一度以上、何かあればその都度報告せよ。

 方法は簡単だ。お前の印に向かって小声で喋れば良い。」

 喜作は全てを納得したように頷き、

 では行け・・・と、大童丸は命じた。


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