ないものはない 魔力
あるところに、魔力が尽きた勇者がいた。
勇者は魔王と戦わなければならない。
しかし、それには魔力が必要だった。
ならば、魔力を得るしかないが、その方法が限られていた。
魔力を得る方法は、自然に回復するのを待つか、魔石から吸収するか、人間の生命力を使うかだ。
一つ目の方法は時間がないからダメだった。
定められた刻限までに魔王を倒さなければ世界が滅ぶからだ。
刻限はもうあとわずかだ。
二つ目の方法はも駄目だった。
魔石を勇者はもっていなかった。
これまでに何度も魔力が枯渇し、必要になったからだ。
三つ目の方法も駄目だった。
ここには勇者しかいない。
そのため、勇者が倒れたら魔王を倒す者がいなくなってしまうからだ。
つまり、勇者は世界を救えない。
世界は滅亡するのが確定していた。
風景を見れる魔道具で、遠くからその様子を見ていた魔王は、高笑いをした。
「ないものはないのだ。勇者よ! 諦めるがいい!」
それでもないところから何らかの方法を作り出すのが勇者だった。
勇者はこれまでに、不可能を可能にしてきた。
だから今回もそうしたのだった。
世界の認識を騙し、勇者の周りの時間を少しだけ早く流れさせて、魔力を少し回復した。
そして、魔王の元へ進むまでに倒した敵の魔石を利用して、魔力をさらに回復した。
最後に、魔王が作り出していた自らのコピーの培養装置を見つけ、勇者は勇者のコピー体を利用。
そのコピー体の生命力を使って、魔力を回復させた。
そうして勇者は魔王との最終決戦に臨んだ。
戦わずして世界の行方が決まるという事はなくなった。