2. 主人公!!千雷猛瑠
高校1年生、春。入学を祝うような桜の花びらが舞う季節に漢、千雷猛瑠は告白しようとしていた。
「ヒトメボレしました!俺と付き合ってください!」
「ごめんなさい!タイプじゃないの!!」
「ガーン!!」
この4コマ漫画のように振られた漢が、今作の主人公、千雷猛瑠である。
「ち、ちなみに、どんな人がタイプなんですか、、咲さん」
千雷は涙ながらに聞いた。
「えーとねえ、強くて紳士的な人が好きかなあ。ほら、私、フェンシングやってるんだけどさ。強い人にレッスンとかとってもらうとすぐ好きになっちゃうのー!!」
咲さん、こと谷塚咲は興奮気味に答えた。
「強くて紳士的なら!この千雷猛瑠!!当てはまっているのではあ、ないでしょうかあ!」
この漢、自信過剰、単純バカである。振られた直後にこの発言を聞けば、大抵の男は自信を無くす。しかし、それが通じないのが、千雷であった。
「うーん、千雷くんはねー。背も高くて、筋肉もあって逞しいんだけどねー。紳士的じゃないの」
「ガーン!!」
さすがに効いたみたいであった。
「例えばねー、8組の五十嵐くんとかすっごいタイプなのっ」
「…」
「あ、部活始まっちゃう!行くね!」
そこには、灰と化した、バカだけが残されていた。
…次の日の放課後
「んで、昨日の放課後降られたわけか」
そう教室で千雷を慰めるのは、折笠。千雷とは幼稚園からの幼馴染である。
「まあ、しゃーねーわな、千雷は腕っぷちは確かにいいが、紳士的かと言われればなー」
「さらに、極め付けには単純バカ!一回振られてんのに、すぐ復活するとか!」
そう小馬鹿にするのは、もう一人の幼馴染、渡邉である。
「お前は昔からそうだ!すぐ一目惚れして、すぐ振られんの!」
「うるせえぞ、お前ら!俺は惚れた女には、気持ちを伝えずにはいられねえ。それが紳士ってもんだろ!」
「それ、意味はきちがえてねーか?」
「いや、間違ってねーはずだ。紳士な男はな、一回振られても、諦めず、想いを伝え続ける野郎のことを言うんだ。何度も諦めず、立ち上がり、くじけない。俺のことをこれからフェニックス千雷と呼べ!!」
『フェニックス千雷www』
折笠と渡邉は顔を見合わせて、腹を抱えて笑い始めた。
その発言を後悔し、恥ずかしがった千雷は、込み上がった屈辱が怒りへと変わっていった。
「お前らあああ、覚悟しろおおおお」
「やべっ、フェニックス千雷が怒ったぞ!逃げろっ!!」
そうやって、廊下へ逃げた折笠と渡邉を、千雷は追いかけ回し、追いかけ回し、追いかけ回した。
「フェニックス千雷がきた!フェニックス千雷がきた!」
「お前らあああ、待てええ!」
「こらっ!お前たち廊下を走るな!」
もうはちゃめちゃであった。
「あ、渡邉がこけた!」
「折笠ああああ、俺の屍を超えていけええええ、GAAAAAAAA」
渡邉は千雷に轢き殺されていた。ついでに廊下を走るなと注意した先生も巻き添えを食らっていた。
「千雷、あいつなんて脚力してやがる」
心の中で南無と唱える折笠であった。
「折笠ああ!何合掌してやがる!オメーもだ!」
「に、逃げろっ!」
そして、地獄の鬼ごっこの怒声と悲鳴は学校中に響いた。その日から、3人組はフェニックス千雷とその一味と知られるようになった。長身の坊主が千雷、中肉中背のリーゼントが折笠、デブの渡邉。特徴的な外見と人相の悪さから、3人とも4月から有名人となった。
「おい、何かいうことはねーか?」
『スビバセンデシタ』
折笠と渡邉は体育館裏に正座させられていた。
「おい、これっていつの時代のことだよ」
「やめろっ、フェニックスに聞かれるぞ」
「まだ痛いめみたいようだなああああ!」
そう歪みあっていると、体育館の扉が勢いよく開いた。
「お前らあああ!体育館裏でうるさいぞ!喧嘩なら他所でやれ!バカもんがあ!」
そう言って扉から出てきたのは、身長180cm以上ありそうな大柄の男であった。
「今はフェンシング部の練習中だ!見学でもなく、ただ邪魔をするなら、けえれ!」
ピクっ、千雷の耳が動いた。
異変に気づいたのは、折笠と渡邉であった。2人は千雷との深い中である。親友と言ってもいい。だから、わかった。フェニックスの件で、千雷のイライラは頂点に達している。それに加えて、振られ文句に入っていたフェンシングというワードが頭に入れば、それはもう怒髪天である。これで、傷害事件など起きたら、退学ものである。
「ああ、すいません。すぐ行きますんで、」
「ほら、千雷!いくぞ」
しかし、折笠と渡邉の努力は無駄であった。
「フェンシングウウウウ???てめー、今俺が聞きたくないワードリスト、トップ3に入る言葉をいったなあ??」
「なんだお前。随分喧嘩腰じゃあないか。」
「やるかあ、てめえ」
そう千雷がガンつけると、大男は踵を返していった。
「いや、お前のような猿と喧嘩しては、俺の品位に関わる。やめておこう」
「なんだとっ!」
折笠と渡邉は内心ほっとしていた。これで、2人が喧嘩したら、たまったもんじゃない。自分達も巻き添えになるに違いなかった。
「フェンシング選手たるもの紳士でなければならない。俺としたところが、それを忘れるところだった。」
折笠と渡邉は、千雷のなかで何かプツンとキレるのを感じた。
ヤバい、、これはまずい。
「あのすぐ退散しますん『今、紳士っていいったよなああ。俺の聞きたくない言葉、No1だぜそれはああ!!!』で、、、」
折笠の言葉虚しく、千雷の地雷は爆発した。
「ああ?」
「フェンシングって、棒でちょこちょこつくやつだろお?それの何が紳士なんだよ。誰でもできるだろあんなマイナースポーツ!」
千雷は叫んだ。だがそれは、
「なんだと小僧!俺の愛するフェンシングを貶しやがった!いいだろう!お前の挑発に乗ってやる!!」
大男の地雷であった。千雷はしめしめと微笑んだ。喧嘩で俺が負けるはずがないと踏んでいた。
「だが、喧嘩ではない。フェンシングで勝負だ!お前が俺に1点でも取ればお前の勝ち!お前の心が折れれば、俺の勝ちだ!」
ほほう?千雷は何か違う方向に物事が進んでいるのを感じた。