キラキラの街
9月だというのに夜風はまだ生暖かい。
1,000km以上離れている先生が暮らす町も同じだろうか。
目を閉じて想像しても、見たことのないそれを思うことは難しく、目の前にある見慣れた景色をただぼんやりと眺めている。
3ヶ月ぶりに会った先生は以前と変わらないように見えた。
雨が降る中、先生の車でドライブをした。車内に流れる音楽と雨粒がフロントガラスを叩く音が心地よく、先生の話す声を聴きながら私はずっと嬉しかった。握った手が溶けてひとつになるようだった。色々な話をたくさんして笑いあって、まるでどこにでもいる恋人のようで、だけど決してそうではない私たちの関係は名前がなくても別にいいと思った。
目的もなく走り、それからどこかのパーキングに停めた車内でしばらく音楽を聴いていた。知らない曲ばかりだったけれど、先生が楽しそうでそれもまた私は嬉しかった。雨はずっと降り続いていた。
眠りにつく前、先生は私に愛してるよと言った。私は笑ったけれどとても悲しくて、寂しくて泣きたくなった。先生の愛のほんのひとかけらをもらえたのが嬉しくて、同時に全部を手に入れることはできないのだと思った。どこまでも欲張りな自分に心底嫌気が差していた。欲しいと思うことは罪なのだろうか。手に入らないことが罰であるように。
眠れなくて、先生に体を寄せて体温を感じていたが、明け方には眠りについていた。
あの日と同じ。生ぬるい雨が降っている。私はただあてもなくさまよう。行きたいところにはたどり着けないけれど、帰る場所はある。その事がどうしても私には辛く、煩わしい。雨粒でキラキラしていたあの夜の街を思い出していた。私はまだ、そこから動けずにいる。